懺悔
私が、アレクシス殿下に勉強を……?
アレクシス殿下は生徒会の執行部に入っている。そんな人に、勉強を教える必要があるとは思えない。私とアレクシス殿下は友人だけれど、あのダンスの一件もあるのだ。どこで教えるかにもよるけれど、周囲がどう捉えるか考えたら──。
「申し訳ありません、アレクシス殿下。僭越ながら、私はアレクシス殿下を好敵手だと考えております」
ですので、お教えすることはできませんといいながら、申し訳なさそうにするのもポイントだ。
すると、アレクシス殿下はなぜか、嬉しそうな顔をした。
「そうか。私とブレンダは、好敵手……」
「はい」
なんだかよくわからないけれど、喜んでいる分には構わないだろう。
「それより、ブレンダ急いだ方がよくない?」
ジルバルトに言われてはっとする。
そうだ、ゆっくりお話ししている時間はないのだった。
まだ惚けているアレクシス殿下に失礼します、と声をかけて足早に教室に向かった。
◇ ◇ ◇
大きく伸びをする。お昼休憩になった。いつものように、屋上に行くと今日もいい風が吹いている。昨日のように、肌寒く感じることはなかった。
そのことにほっとしつつ、パンを頬張る。
足音が聞こえたので振り向くと思った通り、ルドフィルだった。
「顔色、良くなったね。熱はなさそうだ」
ルドフィルが優しく微笑む。それに微笑み返した。
「はい。お陰さまで」
ルドフィルはまたひとつ微笑むと、私の隣に腰を下ろした。
「ねぇ、ブレンダ」
「はい」
「ブレンダ、僕が前に言ったこと、覚えてる──?」
ルドフィルが、前に言ったこと。
その内容を覚えているかと聞かれたら。
「はい」
頷く。おそらく、というか十中八九、婚約の件についてだろう。
「ブレンダ、僕は君の力になりたい」
「ありがとうございます」
ルドフィルはその存在だけで十分私の力になってくれている。そう言うとルドフィルは、そっと囁いた。
「君の幸せを願ってる。でも……ごめん。本当は。本当はね」
ルドフィルが躊躇うように息を吐き出す。
その続きは、昨日聞けなかった言葉だった。私は、ごくりと息を飲む。
ルドフィルは、そっと囁いた。まるで、とてもいけない罪を犯してしまったときのように。
「それ以上に僕は君に……恋して、いるんだ」




