悪夢
保健室に行って、体温を測るとやっぱりジルバルトには熱があった。
「特に、不調は感じなかったんだけどな」
けれどそういうジルバルトの頬はわずかに赤い。熱が上がってきたのだろう。
「とりあえず、薬を飲んで寝てください」
さぁ、早く。そう急かす私に、ジルバルトは苦笑して頷いた。
「わかったよ」
ジルバルトがもらった薬は私が飲んだものと同じだった。だから、とても苦いはずだ。
それなのに、ジルバルトはあっさりと薬を飲むと、ベッドに横になった。
「……言う通りに薬飲んだのに、なんで不服そうな顔なの?」
「ジルバルト様、薬苦くなかったですか?」
「ああ、そのこと。苦かったけれど、飲めないほどじゃない」
ジルバルトは大人だ。
私が衝撃を受けていると、ジルバルトは笑った。
「ボクはもう寝るから、ブレンダは図書室に戻りな。勉強があるでしょう」
「いえ、ここでします」
以前のジルバルトがそばにいてくれたように。私は、椅子を持ってくると、その椅子に座って教科書を開いた。
「それとも、ジルバルト様は人がいると眠れない性質ですか?」
「うん、そう。……でも、なんでだろ。ブレンダだったら、気にならない」
「だったら、そばにいます」
熱が出たときは、誰でも心細くなる。
悪夢を見るときもあるし。
私もルドフィルがいてくれて、とても心強かったから。
「わかったよ。……ありがと、ブレンダ」
そういって、ジルバルトが目を閉じる。
「おやすみなさい」
だんだんと、規則正しい呼吸が聞こえてきた。それを確認して、私も教科書の頁をめくる。
静かな保健室に、頁をめくる音と、呼吸音が響いた。
◇ ◇ ◇
「……めんなさ、ごめんなさい。ボクが──だから」
「ジルバルト様?」
ふいに、声が聞こえて、教科書から顔をあげる。
ジルバルトはうなされているようだった。
どうしよう、起こした方がいいかな。熱が出ているときは体の休養も必要だ。でも、悪夢だとかえって疲れるだろうか。
迷った挙げ句に、そっとジルバルトの手に触れる。
「大丈夫ですよ……大丈夫。ここには、あなたを脅かすものは、なにもありません」
そういって、大丈夫、大丈夫、を繰り返す。
すると、ジルバルトの表情が和らいだ。
「……ふふ」
寝顔のジルバルトはあどけない。
こんな表情もするのね。
そんなことを思いながら、ジルバルトが起きるまで、手を繋いだ。




