風邪 2
「ん……」
大きく伸びをして、目を覚ます。
どのくらい眠っていたんだろう。
「目が覚めたみたいだね」
辺り見回すと、ルドフィルが微笑んでいた。
もしかして、ルドフィルはずっとついていてくれたのだろうか。申し訳ない。
「まだ、全然時間は経ってないよ。丁度午後の授業の予鈴が鳴ったところ」
……良かった。それなら、ルドフィルも今から走れば午後の授業に間に合うはずだ。
「ありがとうございます」
お礼を言って、体を起こす。寒気は消えていた。
「熱は、なさそうだけれど」
ルドフィルが私の額に手をあてて、首をかしげた。
「本当に、大丈夫?」
「はい。すっかり。ルドフィル様、付き添ってくださりありがとうございました」
中間テスト前だ。ルドフィルも生徒会役員だから、それなりに成績を気にしているはず。
そう思って急いでベッドから下りると、ルドフィルは苦笑した。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
「いえ、これ以上お時間を頂くわけにはいきませんから」
気にしなくていいのに、と言われたけれど、気にする。
気にすると言えば。私が眠りに落ちる前、ルドフィルは何と言ったんだろう。
ルドフィルをじっと見つめる。アイスグレーの瞳からは、その答えは読み取れない。
「ブレンダ?」
「……何でもありません。ありがとうございました」
きっと、私に聞かせるための言葉だったらルドフィルは意識がはっきりしているときに言ってくれる。だからあれは、聞かせたくない言葉か、まだ、聞いてはならない言葉だろう。
「ううん、ブレンダの調子がよくなってよかったよ。午後も頑張ってね」
「はい」
微笑んで別れを告げた。
◇ ◇ ◇
なんとか、午後の授業には間に合った。
少し眠ったおかげか、頭もスッキリしており、とても集中できた。
そういえば。
帰りのホームルームが終わり、片付けをしているとふと、思う。
ジルバルトは大丈夫だろうか?
ジルバルトも雨に濡れたはずだ。しかも、女子寮まで送ってくれたから、私以上に風邪を引いている可能性が高い。
朝は元気そうだったけれど、急に体調が悪くなる可能性もある。
今日は生徒会の仕事はないので、とりあえず、図書室にいってみよう。
図書室にいくと、ジルバルトはいつもの席にいなかった。
やっぱり、ジルバルトも体調を崩したのだろうか。それとも。今朝は気が向いたけれど、やっぱり秘密を知った私が疎ましくなった?
どちらの可能性も考えられる。
「……!」
突然肩を叩かれ、飛び上がってしまう。
振り向くと、ジルバルトがいたずらっぽい顔で立っていた。
ほっとする。
良かった。私が早く着きすぎただけのようだった。
「どうしたの、そんなに嬉しそうな顔をして」
ジルバルトが小声で囁く。
「ジルバルト様は、風邪を引かれていませんか?」
私も小声で聞いた。
「特に不調はないよ」
「そうですか。それなら良かった」
安心して、いつもの席に座ろうとして、ふと、ジルバルトの体がわずかに傾いたことに気付く。
「ジルバルト様」
「どうしたの?」
ジルバルトの手をとる。わずかに熱い。
「保健室に行きましょう」




