風邪
お昼休みになった。いつも通り、屋上でパンを食べる。
いつもなら、気持ちよく感じるはずの風が少し肌寒い。
そんなことを感じていると、ルドフィルがやって来た。そういえば、ルドフィルにされた提案についてまだよく考えられていなかった。
「やぁ、ブレンダ」
「こんにちは、ルドフィル様」
ルドフィルはにこにこしていたけれど、私の隣に腰を下ろすと、急に顔をしかめた。
「ルドフィル様?」
どうしたんだろう。
「ブレンダ、あのさ」
そして、私の頬に手をあてると更に顔をしかめる。
「?」
「やっぱりか。……気付いてないんだね」
「???」
つまり、どういうことだろう。
私が首をかしげると、ルドフィルは苦笑して私の手をとった。
「ブレンダ、熱があるよ。保健室にいこう」
そんなまさか。
私の体はわりと頑丈だ。少し雨に降られたぐらいで、風邪を引くなんて。
「ルドフィル様の手が冷たいのでは?」
往生際の悪い私に、ルドフィルは笑った。
「最近は苦くない薬もあるよ」
……薬を飲みたくないことがばれてる!?
「わかるよ、従兄だもの。だから、ほら、ブレンダ」
「……はい」
◇ ◇ ◇
ルドフィルに連れられた保健室で計った体温は、やはりというか熱があった。軽い薬をもらい、一時間ほど休むことになってしまった。
「……ブレンダ」
薬をじっと見つめた私を促すようにルドフィルが名前を呼ぶ。
……飲みたくない。でも、飲まないとなおらないよね。
覚悟を決めて、薬を飲み込み、一気に水で押し流す。
「──! !? !!!」
薬はとても苦かった。嘘つきだ。
思わず涙目になりながら、ルドフィルに抗議する。だというのにルドフィルはそれを意に介した様子はなく、まるで幼子にするように私の頭を撫でた。
「よく頑張ったね、ブレンダ」
そしてお手製のクッキーを差し出した。口直しにということだろう。
もちろん、口の中を苦味が広がったままにはしておけないので、受け取ったけれど。なんだか、釈然としない。
「……っふ」
クッキーを食べていると、突然ルドフィルは笑いだした。
「ルドフィル様?」
「あまりに不服そうな顔してるから。ブレンダのそんな顔、久しぶりに見たなぁって」
……確かに。薬は幼い頃からずっと苦手だけれど、無表情で飲んできたものね。
「薬も飲んだし、後は寝るだけだね」
言外にさっさと寝ろと言われてしまったので、しぶしぶベッドに横になる。
すると、布団が柔らかくかけられた。
「おやすみ、ブレンダ」
頭を、撫でられる。
今朝も図書室で寝たばかりだ。そんなことされても眠くない──と思ったのだけれど。
瞼はだんだんと重くなっていく。
「……ブレンダ、僕は、君が幸せなら」
穏やかな囁き声。でも、なぜか少しだけ苦しそうだと思った。
「でも、本当は──」
なんだろう。その続きが気になるのに。再び頭を撫でられ、かつてよく知っていた熱にそっくりな温度に、私は意識を手放した。




