表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/150

「……ブレンダ」

 ジルバルトは私の名前を呼ぶと、手を握り返してくれた。

「ボクは……」

「!」


 くしゃみをしてしまった。

「濡れちゃったね」

 そういって、ジルバルトが笑ってハンカチで私の頬を撫でた。

 そういえば、雨が降っていたのだった。二人とも傘をさせなかったから、ずぶ濡れだ。


「とりあえず、寮まで送るよ」


 寮についても手は離さなかった。……離せなかった。離してもジルバルトがいなくならない保証がなかった。


「ブレンダ、ついたよ。早く、部屋に戻りな」

 このままだと風邪引いちゃう、とジルバルトは苦笑した。

「でも……」


 このまま手を離して、遠ざけられたら。

「……大丈夫。ブレンダを拒絶したりなんかしないから」

 はっきりとそう言われ、しぶしぶ手を離す。

「ほら、そんな顔しないの。帰りたくなくなっちゃうでしょ」

 そんなに変な顔をしていただろうか。思わず顔を手で押さえると、ジルバルトは優しく笑った。


「おやすみ、ブレンダ。……良い夢を」

「……おやすみなさい」


◇ ◇ ◇



 結局その日の夜はよく、眠れなかった。

 翌朝、朝早くに寝不足なまま、図書室に向かう。


 いつもの席に、ジルバルトは座っていた。

 そして私に気がつくと、顔をあげて微笑んでくれた。


 良かった。ほっとしながら、私も隣の席に座る。


 図書室は静かで、勉強によく集中できる──はずなのだけれど。安心から、私は微睡んでしまった。


 幸せな、夢を見る。

『ブレンダ』

 柔らかに微笑む、優しいひと。そして愛おしそうにそれを見つめるひと。

 そして、少しだけ拗ねたように、でも優しく頭を撫でてくれたひと。

 なにも、欠けたものはなかった。

 完璧すぎて、これが夢だとわかる。

 この世界にずっといたい。


 ……けれどそうはいかなかった。

 私は、現実に目を向けなければならない。


「……ん」


 無理やり意識を覚醒させる。

 ここは、どこだっけ。

 きょろきょろと辺りを見回して、隣のジルバルトの心配そうな赤い瞳と目があった。


 そうだ──、ここは、図書室だった。


 丁度、予鈴のチャイムがなった。

「……大丈夫?」

 片付けをしながら、ジルバルトが心配そうな声で尋ねた。また、悲しい記憶を見たんじゃないかと心配している顔だった。私が見たのは、決して悲しい記憶じゃない。

「はい、いい夢を見ました」

「そう? ならいいけど」


 まだ、心配そうなジルバルトに微笑んで、また、放課後に、と別れを告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 不確かなものをまだ掴みかねてる距離感 ブレンダとジルバルト二人で大切に育んでって欲しい… 欲しいからジルバルトいなくなったりしないで…! 今日はいつもの席に居てくれて、優しい目を向けてくれて…
[一言] いいところでクシャミとは……残念!! でも、いい雰囲気にはなってますよね。 上手くいって欲しいです。
[一言] アレクシスが魔眼の事を昔から知っていたら パーティ会場で大騒ぎしてそれを暴露したような気もします。 もしかして、最近になって誰かに吹き込まれたのかも。 そして、これは勝手に信じてますがアレ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ