事実
ダンスパーティの翌日である今日は、休日だ。何をしようか、と考えているとミランが訪ねてきた。
「ブレンダさん、今、大丈夫かしら?」
「はい。もちろん」
ミランを部屋に招き入れ、紅茶を入れる。
うん。いい香りだ。
ミランと自分に紅茶をおくと、ミランはありがとう、と微笑んで真剣な顔をした。
「……?」
どうしたんだろう。首をかしげていると、ミランはゆっくりと話し出した。
「落ち着いて聞いてね」
「……はい」
そんなに深刻な話なのだろうか。
「アレクシス殿下がダンスパーティで踊ったのは──、あなたと私だけなのよ」
「……それは」
あまりのことに冗談ですよね、と言おうとして、言えなかった。そのことに気付いたミランもそうよね、と頷いた。
「冗談、だったらよかったのだけれど……」
事実なんだ。
「アレクシス殿下は、あなたとローリエ様がいなくなったあと、私をダンスに誘われたの」
あれ? でも……。
「アレクシス殿下は一曲目は誰と踊られたのですか?」
「……誰とも踊っていないわ」
だから、私とミランだけなのか。
でも、まだまだダンスパーティは続いたはず。それなのに、どうして。
「アレクシス殿下は私と踊ったあと、医務室に行くとおっしゃって、会場を後にされたわ」
医務室に? アレクシス殿下は体調が悪そうに見えなかったけれど。実は悪かったとか?
そんなことあり得ないと思うけれど、私の様子が気になった?
「とにかく、明日からは気を付けた方がいいかもしれないと思って、今日は伺ったの」
「……そう、ですね」
アレクシス殿下が体調が悪かったのなら、どうしようもないことだけれど。私がアレクシス殿下と踊った、二人のうちの一人だという事実は変わらない。
「アレクシス殿下のことは、生徒会以外しばらく避けた方がいいでしょうね」
「……わかりました。ありがとうございます、ミラン様。ところで」
私は暗くなった空気を変えるように話題を変えた。
「アルバート様とのダンスはどうでしたか?」
「!」
ミランの顔が急に真っ赤になる。とても可愛い。
「ど、どうって、別に普通よ」
果たして普通だったら、そんな顔をするだろうか。これは友人として詳しく聞かなければならない。なんて、使命感にかられた私は、夜になるまでミランとお話ししたのだった。




