肯定
「どうか、このまま、私の側にいてくれないか」
……それはまるで、口説き文句のようだ。でも、そうじゃない。アレクシス殿下はきっと、私の変化に戸惑っているだけだ。それか、元婚約者である私がジルバルトといることに対する嫉妬か。
どちらにせよ、アレクシス殿下が私に恋情を抱いているわけではないだろう。
それに、今の私はアレクシス殿下の婚約者ではない。ジルバルトのパートナーとして参加しているパーティでアレクシス殿下の側にいつづけるのは、ジルバルトに失礼だ。
私はジルバルトから言われたことを思い出し、表情を曇らせた。
「申し訳ありません、アレクシス殿下。私、少し体調が優れないみたいで……」
そういいながら、よろめいて見せる。
「! それは、大変だ。急いで──」
医務室へ、とアレクシス殿下が言った時、遮る声がした。
「失礼。アレクシス殿下」
ジルバルトだ。
ジルバルトは、私の肩を支えると、にっこりと笑った。見惚れるほどの美しい笑みだった。
「『ボクのパートナー』の体調が優れないようなので、彼女を医務室に連れていきますね」
「……あ、ああ」
その勢いに押されて、アレクシス殿下が頷く。
「では、行こうか、ブレンダ」
ジルバルトにエスコートされて、その場を後にする。
「ジルバルト様、ありがとうございます」
ジルバルトが、私を医務室に連れていきながら、可笑しそうに囁いた。
「……なかなか演技上手じゃない。本当に体調不良に見えたよ」
「いえ、それほどでも」
これでも一応元公爵家の娘だ。
「でも、ブレンダはよかったの?」
「良かった、とは?」
私が首をかしげると、ジルバルトは言った。
「だって、相手は第二王子。彼に気に入られれば、また、貴族に戻れるかもしれない」
確かに事実かどうかはおいておくとして。公爵家から勘当されたとはいえ、第二王子に気に入られているとなれば、養子にしたいと思う貴族もいるかもしれない。でも。
「私は、今の私を気に入っています」
私は、なにも我慢しなくていい今の私が好きだ。そういうと昔は知らないから、何ともいえないけれど、と前置きしてから、ジルバルトは優しく笑った。
「ボクも好きだよ、今のブレンダ」
「……ありがとうございます」
今の自分を肯定してくれる人がいる。それは、とても幸せなことだと思った。




