君以外と
「アレクシス殿下に、直接……ですか」
「ええ。アレクシス殿下は、その、親切心だと思うのだけれど……はっきりいって、ブレンダさんにとっては困るでしょう?」
その通りだ。友情の証とはいっても、もらう理由にしては弱すぎるし、高価すぎる。
「今後もこういった贈り物がないとも限らないわ。アレクシス殿下と『友人』でいるつもりなら、やっぱり、はっきりいうべきだと思うの」
「そうですね。相談にのってくださり、ありがとうございます」
私が頷くと、ミランは少し照れ臭そうに、別に、ゆ、友人だもの。当然よ。と横を向いた。
その姿に胸があたたかくなる。
本当にミランと友人になることができて良かった。
◇ ◇ ◇
翌日。今朝は、図書室に行かずに、温室にいく。アレクシス殿下に昨夜のうちに手紙をかいて、待ち合わせをしたからだ。
綺麗な花を眺めていると、ほどなくして、アレクシス殿下とミランがやってきた。
アレクシス殿下にドレスやアクセサリーといった贈り物の気持ちは嬉しいけれど、困ってしまうという本音を伝えると、アレクシス殿下は眉を下げた。
「すまない。……その、ダンスパーティがあるときいて。困っていると思ったんだ」
一言、困っているかと確認して欲しかったけれど、今それを言ったところでどうしようもないだろう。
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで、十分です」
「……もう二度と勝手な真似はしない。だから、このドレスと靴だけでも受け取ってもらえないだろうか」
アレクシス殿下が途方にくれた顔をしたのは、アクセサリー類はともかく、ドレスと靴は私のサイズにあわせたものだったからだろう。
「ですが、私にはお返しできるものもありませんし……」
特待生の間は、金銭の発生する労働をしてはいけないことになっている。それに父から貰った生活費では、第二王子であるアレクシス殿下に見合うものを贈るには心もとない。
どうしたものか、と頭を悩ませると、アレクシス殿下が提案した。
「今回は私の不手際だから、ブレンダが気にする必要は全くない。……それでもブレンダが気になるなら」
なんだろう。アレクシス殿下を見つめる。
「……私と一曲だけ、踊ってくれないか」
……それは、どうだろう。
私の今の平民という立場だけを鑑みるなら、──いくらこの学園内では平等とはいえ──平民を気にかける優しい第二王子殿下。として、見られるかもしれない。
けれど、私の以前の立場である、元婚約者だというのがややこしくしていた。
私とアレクシス殿下が再び婚約を結ぶことはあり得ないことだけれど、そのつもりだとか思われそうだ。
そうなると、色々とめんどくさい。
でも、話が私がドレスと靴を受け取る方向で動いている以上、なにもしないのも……。
困っていると、ミランが大丈夫よ、と教えてくれた。
「ダンスパーティは、その名の通り、様々な相手と踊るの。もちろん特定の一人としか踊らない人もいるけれど……。アレクシス殿下が、たくさんの女性と踊れば、その中の一人を特別気にする人は少なくなるわ。……もちろん、ブレンダさん以外にも──たとえば、二十人以上と踊られますよね?」
ミランがアレクシス殿下に話をふると、アレクシス殿下はなぜか口ごもった。
「いや、私は──。……踊る、つもり、だ」
本当だろうか。間があったようなのは気のせい?
首をかしげつつも、そういうことなら、アレクシス殿下と踊っても大丈夫だと思うことにする。
それでも。私が働けるようになったら、何らかの形でアレクシス殿下にこのドレスと靴のお返しはしようと思うのだけれど。
ひとまずそんな形で話はまとまったのだった。
◇ ◇ ◇
ダンスパーティまで一月を切ったからか、最近の教室は浮き足立っている。
そんなことを考えながら、お昼休みに屋上に行くと、ルドフィルがいた。
「やぁ。今日はいい天気だね」
そういったルドフィルに頷く。今日は、空気が良くすんでいて気持ちが良かった。
「そういえば。ブレンダは、ダンスパーティに参加する?」
「……そのつもりです」
頷くと、ルドフィルは意外そうに眉を上げた。
「そうなんだ。だったら、ドレスを贈ろうか?」
「いいえ、ありがとうございます。……ドレスはあてがあるので、大丈夫です」
「そうなの?」
あてがあるというか、出来てしまったというのが正確なところだけれど。
「ブレンダも参加するなら、今年は参加しようかな」
「ルドフィル様は、昨年は参加しなかったのですか?」
私が尋ねるとルドフィルは頷いた。
「そうだよ」
どうしてだろう。
私の疑問が顔に出ていたのか、ルドフィルは苦笑した。
「……取引、してくれる?」
ルドフィルがクッキーを差し出す。
……追求されたくないこと。
この前の休みでわかった、ルドフィルの特別な人絡みだろうか。
自分勝手な好奇心と独占欲は、何だか面白くない気がしたけれど。
理性が勝って、クッキーを受け取る。
「ありがとう」
ルドフィルはやっぱり、安堵と何かがない交ぜになった表情をした。
その表情が気にかかりつつも、半分に割ったクッキーを食べる。
今日は、チョコレート味だった。
「……美味しい!」
「良かった。今日のは自信作なんだ」
そういって、ルドフィルが微笑む。
その後はルドフィルとお話をして、穏やかな時間を過ごした。




