贈り物
ミランが甘いものが好きかどうか。その質問に答えるなら。
「はい、好きですよ」
頷く。ミランは、甘いものが好きだ。他にも可愛らしいぬいぐるみや、鮮やかな色の花が好きだと聞いた。でも、それらの情報はクライヴが直接聞くべきだと思うから、言わなかった。
「……そうか。ありがとう」
クライヴは私の返答に嬉しそうに微笑んだ。その後は、しばらく他愛もない話をしたあと、ぽつりとクライヴは言った。
「……聞かないんだな。私が、ミラン嬢をどう思っているのか」
流石にそこまで私も鈍くはない。ただの後輩の食の好みを人づてにまで聞かなければならない、なんてことはありえない。クライヴが、ミランのことを特別に思っていることは明らかだ。
「聞いたほうがよろしかったですか?」
でも。人は恋の話を誰かにしたいこともあると聞く。だから、もしかしたら、聞いてほしかったのかも。そう思い、首をかしげると、クライヴは苦笑した。
「いや、大丈夫だ──といいたいところだが。聞いてほしい」
なるほど。話したい気分のようだ。
「……アルバート様は、ミラン様のことをどう思われているのでしょうか?」
「気になっている。異性として。……とても、魅力的な女性だと思う。ただ……」
「ただ?」
クライヴは戸惑った瞳で私を見た。この先を言葉にしていいものか悩んでいるようだ。おそらく私に関することなのだろう。なので、大丈夫だと微笑んでみせると、クライヴは続けた。
「彼女の……、カトラール侯爵家は、アレクシス殿下との縁組みを望んでいるだろう?」
「……あぁ」
なるほど。ミランと私は様々なことで比べられてきた。その理由の一つとして、私とミランがアレクシス殿下の婚約者候補だったからというものがある。
アレクシス殿下の婚約者に一度は私が決まったものの、今は空席だ。となると、最有力なのはミランだから、ミランがアレクシス殿下の婚約者になる可能性は高い。
「私がミラン嬢を、そして、カトラール侯爵家を納得させるには多大な努力が必要だとわかっている。それでも、彼女が、いいんだ。……初めて出会ったあの日から」
熱烈だ。初めて出会ったあの日……というのは、きっと、二人だけの思い出なのだろうから、気になるけれど、聞かない方がいいのだろう。ミランがいい。そう言いきった、クライヴの瞳には強い意志があった。
クライヴの一番は、ミランなのだ。
ミランはとても素晴らしい人だ。だから、特別に想われることも納得だ。でも、少し、羨ましくも思う。
……なんて、私の一番は私だから、それでいいのだと決めたばかりなのに。
自分の幼稚な憧れに苦笑していると、クライヴは不思議そうな顔をした。それになんでもない、と答えると、クライヴは気を取り直すように咳払いをした。
「まぁ、まずは、ダンスパーティのパートナー役を勝ち取るところからだが」
「ダンスパーティ?」
そういえば、年間の行事予定表にそんなものが書いてあったような。私が記憶を辿っていると、クライヴが説明をしてくれた。
「ああ。この学園では、年に三回ダンスパーティが行われる。一番近いのは、一月後だな。参加は自由だが、ほぼ全員が参加する」
そうなのか。……と、丁度そこで、女子寮についた。雨は結局降らなかったので、ただ、送ってもらっただけになって、申し訳ない。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとう。ブレンダ嬢も、何かあったら相談してくれ」
そういって、ひらひらと手をふった、クライヴを見送り、寮の自室に帰る。
「ダンスパーティ、かぁ……」
ダンスパーティということは、当然ながら、ドレスが必要になる。そして、それに合う、靴、アクセサリー……。かなりの額がかかりそうだ。
父から渡された当面の生活費は、まだ大部分が残っているとはいえ、無駄な出費はしたくない。
特待生は学業に関することなら、学園からの支援が無料で受けられるけれど。
自由参加のダンスパーティまで支援は流石にないだろうし、そもそも、ミランのように誘ってくれるパートナーもいない。
まぁ、私の目標は平穏無事に学園を卒業することだし、単位に関係ないなら、気にしなくていいか。
──なんてことを思っていた、数日後。
思わぬ人物から、私宛てにドレスが、届いた。




