聞きたいこと
「……え」
「ブレンダが選んだほうが、教えるよ」
えっ、えええ。どちらかを選ぶということは、どちらかを選ばないということでもある。
ジルバルトにしろ、クライヴにしろ、どちらを選んだところで、角が立つことにならないだろうか。
「ど……」
「ちなみに、どっちも選ぶも、選ばないもなし」
すかさずジルバルトに逃げ道を塞がれ、助けを求めるように、クライヴを見る。けれど、クライヴは肩をすくめただけだった。
腹を括るしかないか。
「……ジルバルト様、お願いします」
学年一位の勉強法が気にならないでもなかったけれど。勉強を教えると約束してくれたのは、ジルバルトだ。だったら、ジルバルトに教えてもらうのが筋だろう。
「よかったな、ジル。自分から言い出したくせに、気が気じゃなかっただろ」
「……そんなことないけど。じゃあ、ブレンダ。ボクの教室で教えるよ」
教室に入ろうとしたところで、ジルバルトは顔をしかめた。
「クライヴはご指名じゃないんだから、帰ったら?」
後ろを振り向くと、クライヴもついてきていたらしい。
クライヴは楽しげな顔で、いいや、と首をふった。
「ジルが誰かに勉強を教えるなんて面白いこと、私が見逃すはずないだろう。それとも、ジルバルト先生は、私がいると集中できないかな?」
ジルバルトは大きなため息をついた後、首をかいた。
「……勝手にすれば」
「ああ」
怒って聞こえる言葉のようだけれど、ジルバルトが折れた風だった。二人が仲が良いのは本当なのね。
そんなことを考えつつ、席に座って勉強を教わる。
ジルバルトの教え方はとても丁寧だった。ジルバルトは、私の理解度によって、説明の仕方を変えた。
「ジル、上手いな」
「……別に」
誉められると恥ずかしそうに横を向く。でも、耳は赤いのであまり効果はなかった。
◇ ◇ ◇
「……こんなものかな」
「ありがとうございました」
今日の授業分の範囲を一通り教えてもらった。
「とても、わかりやすかったです」
「それはよかった」
ジルバルトはふと、窓を見て顔をしかめた。
「雨が降りそうだ。ブレンダ、傘持ってきてる?」
「いいえ」
今朝の雨は突然だったので、傘を持ってきていない。首を降るとジルバルトは、だったら、とクライヴを見た。
「クライヴ、傘持ってるでしょ。ブレンダを女子寮まで送ってあげてよ」
「ジルが送らなくていいのか?」
「……ブレンダに聞きたいことがあるんでしょ。さっきから言いたいことがあるなら、さっさと言えばいいのに」
私に聞きたいこと? 生徒会の話だろうか。
私が首をかしげると、気恥ずかしそうにクライヴは頷いた。
「……あぁ。では、行こうか、ブレンダ嬢」
◇ ◇ ◇
クライヴにエスコートされて、女子寮までの道を歩く。
「あの」
それで、さっきの聞きたいこととは何だろうか。
「君は……、ミラン嬢と仲がいいな」
「はい」
もしかして、聞きたいこととは、ミランのことだろうか。私が尋ねると、クライヴは頷いた。
「その。ミラン嬢は、甘いものは、好きだろうか?」




