二択
「……思い、入れ」
ジルバルトの言葉をゆっくりと復唱する。
「言いたくなかったら、言わなくていいよ」
「……いえ、特に秘密にするようなことでは。ただ……私の母の葬儀が行われたのが、今朝のようにどしゃぶりの雨の日だった、だけです」
だから、雨がふると、思い出す。母を。──そして、父を。
「……ごめん」
「謝らないで下さい。もうずいぶん昔のことですし……、それに気を遣わせてしまってこちらこそ、申し訳ありません」
もう、ずっとずっと前のこと。それでも、こうして白昼夢としてみる。それはやはり羨ましいと思っているからなのだろうか。
「それより、このパン、とても美味しいですね」
微妙になった空気を誤魔化すようにそらした話題に、ジルバルトものってくれた。
「うん。それ、ボクも気に入ってる」
その後は、食事をとりながら他愛もない話をして、ジルバルトと別れた。
◇ ◇ ◇
──放課後。
今日は、生徒会の集まりはお休みなので、帰りの支度をしながら、どうしようかと、考える。
ミランを誘ってまた、美味しいお菓子を食べに行くのも楽しそうだ。
……と、思ったところで。
私が今日の午前の授業をさぼってしまったことを思い出した。正直、あんなぼんやりした状態で授業を受けても、集中できなかったと思う。けれど、大きく遅れをとってしまったのは、明らかだった。
ジルバルトはいつでも教えてくれると言っていた。
まだ学園に残っているだろうか。とりあえず、ジルバルトの教室を訪ねてみよう。
三年生の階に行く。ジルバルトの教室はどこだっただろうかと、廊下を見回していると、クライヴに声をかけられた。
「どうした、ブレンダ嬢?」
「アルバート様」
三年生で公爵子息のクライヴ・アルバート。生徒会長で、ジルバルトによると学年一位のようだ。
「生徒会の用事なら──」
「ブレンダ、来たんだね」
クライヴと話していると、ジルバルトが教室からでてきた。なるほど、ジルバルトはあの教室なのね。
「ジル? ブレンダ嬢と知り合いなのか?」
「そうだけど。さっき話したでしょ。もしかしたら、クライヴに勉強を教えてもらうことになるかもしれない女の子がいるって」
親しげにジルバルトの名前を呼んだクライヴは、ジルバルトの言葉に驚いた。
「ジルに女性の知り合いができるなんて、何の冗談かと思ったが。なるほど、ブレンダ嬢だったんだな」
そんなに驚かれるなんて、ジルバルトの人嫌い──特に女性嫌い──は噂通り、よっぽどなのね。
「……クライヴは、このあと暇?」
「特に予定はないな」
頷いてみせたクライヴにそっかと返事をして、ジルバルトは私を見た。
「それじゃあ、ブレンダ。ボクとクライヴ、どっちに勉強を教えてほしい?」




