友人
「……え?」
思わぬ言葉に、ぽかんと口を開ける。
「だっ、だから! この私が友人になってあげるといっているのよ!!」
友人。ミランが、私の。頭のなかで、ようやく状況をのみ込めた私は、思わず口許を抑えた。
「……っふ」
「?」
そんな私を怪訝そうに、ミランがみる。
もう、だめ、耐えきれない。
「っ、あははははは!」
私は大声を出して笑ってしまった。父に下品だと言われた笑いかたで。
貴族令嬢の私はともかく、今の私に友人になるメリットはない。つまり、それは、メリット抜きで、ミランが私と友人になりたいと思ってくれたということだった。魑魅魍魎が蔓延る貴族社会で生きていた私にとって、そんなことをいわれたのは初めてだ。そして、それが、今までライバルだった、ミランだという事実。
その事実がおかしくて、笑ってしまったのだった。
「……なんだ、あなた笑えるんじゃない」
ミランは私が突然笑い出したことに腹をたてることもなく、目を丸くして、私をみて、それから微笑んだ。
「貴族としては、失格だけれど。……平民のなかでは、その、そこそこ可愛いかも、しれなくもないわよ!」
そういって、微笑んだミランは確かに貴族らしい笑みを浮かべている。
「それで、私の友人になるの、ならないの?」
私のなにが友人になりたいとミランの琴線にふれたのかは、わからないけれど。
私は、満面の笑みを浮かべた。
「もちろん、喜んで」
そうして、女子寮の自室でそれぞれ荷ほどきをした。そして、明日の入学式に備えて、湯浴みをした後、寝間着に着替えて、友人らしく私の部屋でさまざまな話をした。その結果、ミランは私のことをずっと知りたいと思っていてくれたことがわかった。
「完璧なあなたといつも比べられていて、それが嫌になったこともあったけれど。……あなた、思っていた以上に、感情豊かなのね。特に、笑いの沸点が低すぎるわ! でも」
ミランは、そこで言葉をきって、私を眩しそうに見つめた。
「今のあなた、とても輝いて見えるわ。公爵令嬢だっときよりもずっと」
「そうですね。さっき、久しぶりに思いっきり笑えてとても楽しかったです」
ちゃんとこの学園を卒業できれば、そこそこいい仕事が見つかり、貴族令嬢と比べれば格段に劣るものの、平民としては、十分な生活が送れるだろう。
それに、もう、私を殺さなくていい。
そのことで、解放感がいっぱいだった。
私たちは、今までの溝を埋めるように、たくさん話して眠りについた。