思い入れ
「……ん」
微睡みから目を覚ます。
見たことのない天井にとまどっていると、声がした。
「顔色、よくなったね」
「……ジルバルト様」
そうだった。顔色が悪いからとジルバルトに保健室に連れられたのだった。
「ずっと、ついていて下さったんですか?」
「……丁度読みたい本もあったしね」
けれど、そういうジルバルトが持っている本は、先ほど持っていたものと同じで、頁は最初の辺りだった。流石にそんな短時間しか寝ていないと考えられないので、本は二巡目の可能性が高い。
「ありがとうございます」
でも、そのことを指摘するのも違う気がして、変わりにお礼を言うことにした。
「……別に。ただのお節介だから、気にしなくていいよ」
言葉はぶっきらぼうだったけれど、ジルバルトの耳は少しだけ赤かった。
「……それより、お昼、食べれそう?」
「えっ!?」
もうそんな時間なの!?
「さっきお昼休憩に入ったところだよ」
そんなに、わたし寝てたのか。衝撃を受けていると、ジルバルトは笑った。
「気持ち良さそうに寝てたから、起こさなかったよ。ちゃんと、睡眠とってる?」
「とってる……つもりです」
昨日も五時間は寝た。そういうと、ジルバルトは眉を寄せた。
「だめだよ、六時間は寝ないと」
「……はい」
まるで、お母さんのようなことを言う。私の母はもういないけれど。
「それで、食べられそう?」
ジルバルトは私に包みを見せた。
そこには、購買部のパンがたくさん入っていた。
「……はい、食べられます」
頷くと、ジルバルトは少しだけ笑った。
「じゃあ、テラスにいこう」
◇ ◇ ◇
テラスは柔らかい春の日差しが差し込んでいた。もう、雨はあがっており、空は綺麗な青色をしている。
「はい」
「……ありがとうございます」
ジルバルトからパンを受けとりかけ、はっとする。
「お金を……」
鞄から財布を取り出そうとすると、手で制された。
「いいから」
「……でも」
「先輩にいいかっこさせといてよ」
午前の授業もさぼらせてしまって、パン代も払わせるなんて申し訳なさすぎる。でも、そう言われたら、これ以上言うのも何かしら。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
他愛もない話をしながらパンを食べていると、ふいに、ジルバルトが切り出した。
「ブレンダは……何か雨に特別な思い入れでもあるの?」




