新たな友人
私はアレクシス殿下に感謝を伝えたかったのに、なぜかアレクシス殿下はとても傷ついた顔をした。
なぜだろう。でも、疑問は言葉に遮られる。
「君はもう、貴族に戻りたいとは思わないのか?」
私が再び貴族に──?
もうスコット公爵家には戻れないから、私が貴族になるとしたら、どこかの貴族の養子になるか、貴族と結婚するかだけれど。
もちろん、私は公爵令嬢として生きてきた責任があるのはわかっている。その十五年間で享受してきた生活に対する責任を果たさなければならない。だから、戻れと命じられたならば、私は黙って受け入れるだろう。
ただ、自ら進んで戻りたいかと聞かれれば、答えはいいえだった。
「……はい」
頷く。
「……そうか。わかった」
話は終わった……のかしら。
そう思っていると、ふいに、アレクシス殿下は言った。
「ブレンダ」
「?」
アレクシス殿下は、頬をかいた。どうして、緊張しているんだろう。
「今さらこのようなことを言うのは、許されることではないのかもしれない。だが……」
アレクシス殿下は、一度目を伏せ、それから私を見つめた。
「私と……友人になってもらえないだろうか。君を、知りたいんだ」
「……私でよろしければ」
頷くと、アレクシス殿下はほっとした顔をした。
「ありがとう」
──こうして、私には新たな友人ができたのだった。
◇ ◇ ◇
ミランと約束していたお菓子を、学園内の喫茶店で食べる。
「ミラン様、先程はありがとうございます。ミラン様がそばにいてくださって、とても心強かったです」
私がそういうと、ミランは少し頬を赤くした。
「友人として当然のことをしたまでよ。……それで、さっきはその」
「?」
どうしたんだろう。やっぱり、アレクシス殿下と友人になったのはまずかった、という話だろうか。
「……私をかけがえのない友人と言ってくれてありがとう。私たちは、まだ親しくなってそれほど期間があるわけではないけれど」
そこで言葉を切ってミランが微笑む。
「私もあなたのことを、かけがえのない友人だと思っているわ」
……ミラン!
私は思わずミランに抱きつきたくなった。危ない。テーブルがなければ、実際抱きついていた。
挙動不審な動きをした私を、ミランが心配そうに見つめる。
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
その後は、楽しくおしゃべりをして、穏やかな時間を過ごした。




