職権乱用
「……ブレンダと?」
「あぁ」
頷いたクライヴは、にやにやしながら話を続ける。
「ブレンダ嬢にもどうやら『いいこと』があったらしい。それが何かは、教えてくれなかったが」
「……ふーん」
良かった。
ブレンダにとっても、いいことだったんだ。
ボクが独りよがりで舞い上がっていたわけじゃないことが分かり、安心した。
思わず緩んだ口角を片手で押さえる。
「っ!? ……なに、クライヴ」
するとクライヴがぽん、とボクの背中を叩いてきた。
「いや、な。我が親友殿が存外可愛らしくて、つい」
はぁ? 男に対して可愛いとか……。
むっとして言い返そうとして、やめる。
クライヴの目が優しかったから。
そういえば、この親友にボクは自分の気持ちを――ブレンダが好きだとはっきり口に出して言ったことはない。
でもクライヴの言う通り、あれほど人嫌いと言われてきたボクが、積極的に関わろうとするのは、クライヴかブレンダくらいのものだ。
聡い親友がそこからボクの好意に気づかないはずがない。
「……クライヴ」
「どうした、ジル」
気づいていながら今日以外、そのことに触れてこなかったのは、クライヴの優しさだろう。
「……ありがと」
何に対してなのかもつけずに、ただ、それだけを言う。
でも、どうやら伝わったらしく、クライヴは破顔した。
「どういたしまして」
こういうところで軽口でごまかさず、素直にお礼を受け取るところも親友の魅力の一つだ。
ブレンダの前以外ではなかなか素直になれないボクにはない、クライヴの眩しいところ。
その眩さに目を細めていると、クライヴは首を傾げた。
「ジルだって魅力的な男だぞ。ミラン嬢に選ばれた私には負けるが」
「……超能力者じゃないんだから、心を勝手に読まないで。あと、惚気ないでよ」
じっとりとした目でクライヴを見ても、まったく応えた様子がなく、それどころか朗らかに笑っている。
「そうか? 私はジルの惚気ならいくらでも聞きたいが。出会ったきっかけから、親しくなった経緯、恋に落ちた瞬間まで」
「……はぁ」
そういえば、カトラール嬢と両思いになる前は、二人の幼い日の思い出を延々と聞かされていたな……。
その当時のことを思い出し、遠い目になっていると、予鈴が鳴った。
「教室に入ろう――だが、あとで必ず教えてくれ」
◇◇◇
午前の授業が終わり、昼休憩の時間になった。
「……さてと」
じゃあ、ボクは食堂にでも――。
「まぁ、まて。ジル」
肩に置かれた手は力強い。
……くっ。
ボクだって、鍛えているのに!
「詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」
……別に、クライヴにブレンダのことを話すのが嫌なわけじゃない。
クライヴは自他ともに認める親友であることは間違いなく。
ただ、気恥ずかしかったのと、ブレンダが色んな注目を集めている存在なので迷惑をかけないか心配だった。
「大丈夫だ、場所ならある」
連れていかれたのは生徒会室だった。
正確には、生徒会室の奥の鍵かかかった扉の先。
本来なら会長しか立ち入ることのできない、部屋だ。
「……職権乱用過ぎ」
「親友の惚気を聞きたいからな」
あっけらかんと言い放ち、クライヴはそれで?と眉をあげる。
「ブレンダ嬢は、てっきりアレクシス殿下と恋仲だと思っていたが……ジルの様子だと違いそうだ。それに」
クライヴは、書類をボクに手渡した。
そこには、アレクシス殿下が休学するのでしばらく生徒会の仕事に来られない旨が書かれていた。
「!!」
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