ボクの夢
密やかに吐き出された言葉は、しっかりとボクの耳に届いた。
「……ボクは」
ブレンダの言葉を、胸の中で何度か繰り返しながら、一呼吸置く。
「ボクはね、ブレンダ」
これから先、ボクが言うことでブレンダとの関係が変わってしまう。
先輩と後輩から、もっと別の関係へと。
それはボクがずっと望んでいたことであり、でもブレンダにとってそうかはわからない。
「夢があるんだ」
ブレンダは静かに頷いた。
それを確認して、話を続ける。
「まずは、この国最高峰の研究機関である天文塔に入ること……これはもう叶いそうだけど。そして、最年少で天文塔の塔長になること。この夢が叶うかは、これから次第かな。そして……もう一つ」
ブレンダの瞳を見る。
「知っての通り、ボクは貴族籍を抜けることになるし、塔長になれたとしても、高位貴族ほどの贅沢な暮らしはさせてあげられないかもしれない」
ボクは立ち上がるとブレンダの前まで行き、跪き、その手を取る。
「それでも。何よりも、誰よりも、幸せにする自信がある。ブレンダのことが好きだよ。だから、ボクと結婚してください。ブレンダにずっとそばにいてほしいんだ」
勢い余ってプロポーズをしてしまった後に、はたと気づく。
そもそも、プロポーズとは、もっと入念な下準備をした後にするものではないのかと。
慌てて弁解しようとしたとき、ブレンダが口を開いた。
「ジルバルト様、……本当に私でいいんですか?」
泣き笑いの表情を浮かべたブレンダに微笑む。
「他の誰かじゃない、ブレンダがいい。ブレンダを愛してるんだ」
「私も、ジルバルト様を愛しています。だから……私もあなたにずっとそばにいてほしい」
ブレンダがボクの手を握り返した。
ーーああ。
その熱を、その言葉を。
きっと、ボクは一生忘れない。
◇◇◇
名残惜しく思いながらも、ブレンダと別れて自分の教室に向かう。
誰もいない廊下で一人、頬をつねった。
さっきの……夢、じゃないよね。
夢だったら、嫌だな。
あまりにも幸福な夢すぎて、現実に戻るのが辛くなりそうだ。
「……痛い」
右にも左にも引っ張ってもしっかりと痛い頬を確認していると、後ろから肩を叩かれた。
「!?」
「おはよう、ジル」
「っ、……なんだクライヴか」
親友は、ボクの顔を一目見て、ほぅ、と眉を上げた。
「よほどいいことがあったらしいな、ジル。教えてくれよ」
「……やだ」
だって、口に出して形にしたら、この幸福な夢から覚めてしまう気がして。
「……別にいいたくないなら言わなくても良いさ。そういえば、先ほどブレンダ嬢がーー」
「ブレンダがどうかした!?」
まさか、ボクに告白するんじゃなかったとか、後悔してた!?
「やっぱり、ブレンダ嬢か。ジルはわかりやすいな」
したり顔でボクを見てくるクライヴを睨みつける。
「……ボクはクライヴのそういうところ、好きじゃない」
ふん、と鼻をならしてそういってやったけれど、クライヴは全くダメージを受けた気配がない。
それどころか、くつくつと笑っている。
「……クライヴ」
「いや、嬉しいんだよ、私は。ジルが彼女のことになるといつも人並み以上に人間臭くなる」
「……あっそ」
クライヴだって、カトラール嬢の前だと同じようなものだ。
「まぁ、そうつれない返事をするな。ブレンダ嬢と先ほど会ったのは本当だ」
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