恋の告白
しばらくジルバルト視点が続く予定です。
(ジルバルト視点)
「ーーは」
息ができない。
だって、ブレンダは流暢なメリグリシャ語で、夜を匂わす言葉を使った。
一度話をしたことがある。
メリグリシャ語で夜を匂わす言葉は、愛の告白が多いのだと。
……いや、でも。そんなはずはない。
「……あ、ああ! 勉強頑張ったってことね」
「違います」
どうにかこうにか自分に都合が良すぎる妄想を振り払おうとすると、間髪入れずに否定をされる。
「……っ」
本当に?
本当に、ブレンダは。
「私は、ジルバルト様、あなたのーー」
「ちょ、ちょっと待って!」
現実を受け止める準備ができていなさすぎる。
そもそも、これは現実なのだろうか。
「……ご迷惑、でしたか」
綺麗な空色の瞳がそっと伏せられる。
「ボクの推測があっているとしたらーー、迷惑、じゃないよ」
そう、迷惑じゃない。
迷惑なはずがない。
でも、ブレンダは失恋ーー恋をなくしたと言う意味でーーしたばかりのはずで。てっきり、恋とか愛とかそういった類なものに臆病になると思っていた。
だから、ボクは長期戦を見越していたのだけども。
「……良かった」
心底ほっとしたように息を吐き出し、ブレンダは笑みを浮かべる。
「!」
その笑顔ひとつでどれほどボクの胸の中が掻き乱されるか、ブレンダは、知らない。
「私の話……少し長くなってしまいますが、聞いてくださいますか?」
「……もちろん」
好きな子の話を聞きたくない男なんていない。
大きく頷いて、そこでようやく、ボクは立ったままだったことに気づいた。
慌てて向かい側の席に座り、ブレンダを見つめる。
「この学園にきた時、恋をするつもりがありませんでした。私は、恋が怖かったから」
「……うん」
それは、ブレンダの父親の母親に対する狂った執着を見ていたから、だろう。
雨の日のことを思い出しながら、ブレンダの話に耳を傾ける。
「でも、この学園に入って、いろんな人と関わって、恋も悪いだけのものじゃないと思うようになりました。……でも、アレクシス殿下に想いを告げられた時、とても自分には無理だと思いました。でも、気づいたら、私はアレクシス殿下のことを好きになっていました」
「……そうだね」
アレクシス殿下が偽魔眼の力を使って、ブレンダの気持ちを操ったから。
「アレクシス殿下のかけた魔法が解けた時、私はやっぱり恋なんかって思いました」
「……うん」
でも、と続けてブレンダはまっすぐにボクを見つめた。
「ジルバルト様にその後出会った時、大丈夫だって言ってくださいました。なんの根拠もないのに、でも、あなたの大丈夫を私は信じられた」
「ーー」
「アレクシス殿下と昨日対峙した時も、友人に花火のことを聞かれた時も。何度も私はあなたの言葉を思い出しました」
大丈夫。
ブレンダの言う通り、なんの根拠もないただの言葉。それでも、その言葉がブレンダに力を与えられたのなら。
「そこで、思い出したんです。ジルバルト様の恋を」
「ボクの、恋?」
「はい。ジルバルト様にとっての恋は、力をくれるものだと」
確かに、そんな話もした。
もう、だいぶ前のことのような気もする。
「きっと、私にとっての恋もそうなんです。私は、今までに何度もあなたの言葉に助けられました。
ーーあなたが、父のようにならないと言ってくれたことも。そう信じてくれたことも。味方だと言ってくれたことも。大丈夫だと励ましてくれたことも」
ブレンダは、微笑む。
ボクが一番大好きな、陽だまりのような笑みで。
「ありがとうございます、ジルバルト様。ずっと、私に力をくれて。あなたがいたから、今の私がある。……私は」
そこで、一呼吸おいて、ブレンダはボクの目を見て、唇を震わせた。
緊張がこちらにも伝わってくる。
「私は……ジルバルト様、あなたが好きです。あなたに恋をしています」
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