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あなたのその言葉なら

「……どうしたい」

 ルドフィルの言葉を繰り返す。

 私がどうしたいか。


「うん。アレクシス殿下を罰したい?」

「……それ、は」


 どうだろう。

 昨日はもちろん、許せない気持ちの方が大きかった。

 でも。


「……わからない」


 アレクシス殿下との関係を、私は間違えた。

 歩み寄れなかった。

 だから、今度は友人として、再構築しようとして。

 そして、きっとそれがうまくいかなかったから、今の私たちがあって。


「僕は、アレクシス殿下に怒ってる。君に対する罪を償ってほしいし、正直に言えば二度とブレンダに関わって欲しくない」

「!」


 二度と、アレクシス殿下と関わらない。


「もしブレンダもそう思うなら、僕の力全てを使って必ず叶えるよ」

「……」


 私は、どうしてほしいんだろう。


 アレクシス殿下に、関わりたくない?

 もっとちゃんと謝ってほしい?

 姿も見たくない?

 私と同じような目にあってほしい?


「ーールドフィル、私ね。私……」

「うん」

「アレクシス殿下に、私はーー」


◇◇◇


 恋心がこの胸から消えた翌朝の今日も、学園は相変わらず授業がある。


 私の目標はしっかりといい成績を収めて、平穏無事にこの学園を卒業することだ。

 だから、今日の授業も欠かせないし、なんなら朝の自習もしたい。



 ……というわけで。


 ルドフィルとの話の後、今日も図書室へやってきた。


 図書室は、ダンスパーティー後だからか、遅めの時間の割に、人が少ない。


「!」



 ジルバルトの隣の席も空いていた。


「……おはよ」

 驚いたように目を見開いて、ジルバルトが私に挨拶をする。

「おはようございます」


 ……そういえば。

 昨日おんぶしてもらったのよね。


 いくら裸足だったからとはいえ、かなり恥ずかしいことをしてもらった。

 ジルバルトは、腰を痛めてないだろうか。


 ジルバルトの隣の席で、腰をじーっと観察する。

 すると、ノートの切れ端が私の目の前に置かれた。

『ブレンダ、ボクはおじいちゃんじゃないよ』


 そう吹き出しに書かれた黒猫は、ダンスを踊っている。


 ダンスを踊っている黒猫は、確かに腰の心配はいらなそうだ。

 ……相変わらず、絵が上手ね。


 以前、勉強を教えてもらった時のことを思い出し、笑みが溢れる。


『良かったです。猫、かわいいですね』


 私も隣に犬の絵を添えて、切れ端を返す。


『大丈夫だよ』


 次に渡されたのは、前の可愛いに対する言葉とは、一見脈略がないように感じる。

 ……でも。


 ジルバルトの丸い可愛らしい文字をそっと撫でる。


 ーー大丈夫。


 私も同じ言葉を、心の中で繰り返した。

 すると、胸の中が、暖かい何かで満ちるような感覚がした。


 お母様やリヒト兄様に抱きしめられていたときとは、違うくすぐったさで、胸が少しだけ締め付けられるような。


 思わず、もう一度その文字を撫でると、視線を感じる。

 顔を上げて、そちらを見るととても綺麗な赤の瞳が私を見つめていた。


「   」


 そして、唇だけで紡がれた言葉は、ゆっくりと私の中に溶ける。


「……はい」


 頷く。

 私は、あなたのその言葉なら。


 なぜだか、信じられそうな気がするのだ。

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