許さないで
目の前にルドフィルが、傷つけてしまった相手がいる。
「ルドフィル、私ーー」
ごめんなさい。傷つけてしまって、ごめんなさい。
そう言葉にしようとして、やめる。
ルドフィルは、困った顔をしていた。
「ブレンダ、……君に会いに来たんだ」
「!!」
ルドフィルはそういうと、一歩私に近づいた。
あんなに酷いことをした私に会いに来た理由。
それは、絶縁を告げるためかもしれない。
「……そんなに悲しそうな顔をしないで。別に、怒りに来たわけじゃないんだ」
ルドフィルは微笑んで、私の髪に触れた。
「ねぇ、ブレンダ。僕は君が好きだよ。君が誰を好きであれ、君を好きでいるのをやめられない」
「ーールドフィル」
「でも、でもね。……それ以上に、君に幸せになってほしい。アレクシス殿下が君を幸せにしてくれるなら、僕は」
……ああ。
ルドフィルは、なんて眩しいんだろう。
偽物でも恋をした私は、自分のことばかりだったのに。
ルドフィルと私は全然違うわ。
「……って、諦めるつもりだったんだけど」
「……え?」
ルドフィルの言葉に、首を傾げる。
「何か、あったみたいだね」
「なんーー」
「わかるよ。僕は君が好きだもの」
従兄だもの、とは告げられなかった言葉に、息を呑む。
「ブレンダ、教えてよ。昨夜、何かあったんでしょう?」
「……でも」
『何か』なら、確実にあった。
でも、それがどれほどの免罪符になるだろう。
それに、到底信じ難いことだ。
「ブレンダ」
俯いて、握り締めた手の上からルドフィルが握った。
「僕は今でも最高の従兄?」
「もちろん!」
それは何があっても変わらない、私たちの絆だから。
「……よかった。だったら、教えて。僕も君の力になりたいんだ」
◇◇◇
「……なるほど」
ルドフィルに話した。
アレクシス殿下に私が恋をしたことは、アレクシス殿下の力によって、植え付けられたことだったこと。
「ルドフィル、ごめんなさ……」
「昨日のことなら、謝らないで。怒っているわけじゃないから。ただ……やっぱり悲しかったことだけは知っていてほしい」
「……うん」
ルドフィルは、私の頭に手を置いた。
「ブレンダ、話してくれてありがとう」
「……うん」
「ブレンダも、悲しかったね」
「……うん」
子供のように頷くばかりな私に、柔らかく微笑むと、ルドフィルはでも、と続けた。
「まだ、話してないことあるよね?」
「……まだ?」
「昨日、アレクシス殿下に言われた後、どうしたの?」
「? それはーー」
裸足のまま走って、気づけば池の前にいて。それで。
「それで?」
「ジルバルト様と会って、励ましてもらいました」
なるほどね、とルドフィルはもう一度頷くと、ため息をついた。
「はぁーあ。やっぱりローリエ殿かぁ」
「? ジルバルト様は、先輩ですよ」
ジルバルトもそう言っていた。
私たちは、先輩と後輩だと。
「そうだね、君たちは先輩と後輩だ。だったら、まだチャンスはあるかな。……ごめんね、ブレンダ」
「ルドフィル?」
「ずるい僕を、どうか、許さないで」
許さないで。
不思議な、言葉だわ。
「それでブレンダ。君は、どうしたい?」
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