初秋
お待たせしました!
(ブレンダ視点)
楽しかった夏季休暇や小テストも終わり、また今日から本格的に学園での授業が始まる。
「……」
鏡に映る自分を見る。
鏡に映る私は、昨日までの私とは違っていた。
身だしなみを必要以上に時間をかけて行なっていた私。
アレクシス殿下に恋をしていた私。
その私は、昨日、消えてしまった。
ううん、そんな言い方は正しくないのかもしれない。アレクシス殿下に、私は恋をしていなかった。
恋をした気持ちを植え付けられていただけだったのだから。
「ぜんぶ、ぜんぶうそだった……」
嘘で偽物で、私の意思とは無関係なもの。
どうして。
なんで。
やっぱり恋なんか。
そう恨む感情は、確かに私の中にある。
……でも。アレクシス殿下の告白を聞いた昨日よりも、今日の気持ちは少しだけ落ち着いていた。
私は偽物だったとはいえーー、「恋」を知ることができた。
私に程遠いと思っていたもの。
父のようにはなりたくないと、遠ざけて、考えないようにしていたもの。
アレクシス殿下がいなければ、もしかしたら、一生経験できなかったかもしれない。
少しだけ、そう思う。
そう思うことができるのは。
「大丈夫」
ーー鏡に映る私ににっこりと笑って見せる。
歪で、それこそ、他の人から見たら見るに耐えない笑みかもしれないけれど。
それでも。
「ーー大丈夫」
私は、恋なんて、信じられない。でも、なぜだか、不思議と彼のその言葉なら信じられる気がするのだ。
自分におまじないをかけるように。
もう一度、昨日のジルバルトの言葉を反芻して、空気を吸い込む。
初秋の少しだけ冷たい空気が、肺を満たした。
◇◇◇
「………あ」
いつものように女子寮の前でルドフィルは待っていなかった。
ルドフィルに、謝らないといけない。
私は、ルドフィルにとても酷いことをしたんだもの。
謝って、許されることじゃないかもしれないけれど。
夏季休暇後のダンスパーティーで、ルドフィルのパートナーを務めた私は、それなのに、ルドフィルを放って、アレクシス殿下のところに行った。
「私も……ずいぶん、身勝手だったわ」
アレクシス殿下に、話があるから、生徒会室に来て欲しいと言われて行き、そこで真実を知ったのよね。
でも、その私の行動で、ルドフィルを傷つけてしまった。
ルドフィルは、私の一番の従兄弟で、それで……私に恋をしてくれていた。
「愛想がつきたわよね……」
ルドフィルは、優しい。
でも、偽物とはいえ恋を経験した私からすると、私が恋した相手に同じことをされたら……幻滅してしまうと思う。
だから、優しいルドフィルに愛想を尽かされたとしても、仕方ない。
でも、仕方ない、ですませていいことじゃない。
傷つけたのなら、謝らないと。謝ってももうどうにもならないかもしれないけれど。
顔も見たくないと言われてしまうかもしれないけれど。
それでも。
私は、男子寮の方へ、走り出そうとして……。
「ブレンダ?」
「……ルドフィル」
お待たせしてしまいすみません。
これから、定期的に更新していきます。
また、ふじさきやちよ先生のコミカライズが始まっております!!!
とっても素敵で可愛らしいブレンダやミラン、ヒーローたちをぜひ、ご覧ください!