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【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
三章

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ミルクティー

――それからしばらくして、火の始末や片づけをし、邸の中に戻る。

「……ブレンダさん、ちょっといいかしら」

 与えられた客室に入ろうとすると、ミランに呼び止められた。

「? はい、どうしましたか?」

「お風呂に入る前に、私とお話ししましょう」

「それはもちろん」

 こちらへどうぞ、とミランの客室の扉を開いてくれたので、有難く中に入る。

 部屋の内装や家具の配置などは、私の部屋とそんなに変わらないみたいだ。


 勧められるままソファにお互いが向かい合うように座る。

「……ブレンダさん。少し待っていてね」

 そう言ってミランは、使用人にお茶を持ってくるように言った。ほどなくして、紅茶――ミルクティーが二つ運ばれてきた。

「ありがとう、もう下がっていてくれる?」

 ミランの言葉に使用人はお辞儀をして、下がる。

 私はミルクティーの淡いベージュを眺めながら、今日起きた出来事のうち――アレクシス殿下のことを思い出していた。

 ミランは、ミルクティーに口をつけると、微笑んだ。

「ブレンダさん」


「はい」

 ミランはカップをテーブルに置くと、私を見つめる。

「ブレンダさんは、とても素敵な人よ」

「それは……ありがとうございます」

 ミランの方が、よほど素敵だ。そう思いながら、お礼を言う。

「いいえ、だからね――」

 ミランは、そっと目をふせ、カップを取ろうかどうしようかと迷っていた私の手を握った。


「そんなあなたに対して、今日の……アレクシス殿下の態度はあんまりだと思うの」

「!」

 ひゅっと、息が止まる。気づかれていたんだ。

「気づくわ。大親友が悲しそうな顔をしているんですもの」

「……ミラン様」

 ミランは私の心を見透かしたように、そう言って、握る力を強めた。

 温かいその温度に張りつめていた気がふわりと緩む。その緩みは、熱い雫となって表れた。


「っ、ごめんなさ――」

 慌てて握られていない手の方で、涙をぬぐう。

「謝らないで。大丈夫よ、ブレンダさん」

 ミランはそれこそおまじないのように、大丈夫、大丈夫、と繰り返した。

 大親友の大丈夫は、優しく胸に染み込み、零れ落ちる涙が止まる。


「聞いていいことか、わからないけれど……。ブレンダさんとアレクシス殿下の間に、何かあったの? 話しにくいことであれば、今の質問は忘れてね」

 ゆっくりと、穏やかな口調で言われた言葉を脳内で反芻し、ミランに、この別荘に来てすぐのことを話す。


 アレクシス殿下と会話をしたのは、そのときくらいだった。あとは頷きなどの反応が返ってきたり、こなかったりだったので、アレクシス殿下が夏季休暇中に急に私を嫌いになった……などでなければ、原因はそのときになる。

 ミランは話を一度も遮らず、適度に相槌を打ちながら、耳を傾けてくれた。


「……なるほどね」

 ミランは話を聞き終わると、呆れたように、ため息をついた。

 やっぱり、私の返答が良くなかったのかな。

 不安に思いながら、ミランの次の言葉を待つ。

「ブレンダさんは、悪くないわ。悪いのは、アレクシス殿下よ」

 ――悪くない。

 その言葉に、救われた気がする。でも、問題は未解決なままだ。


「……いろいろとアレクシス殿下に私から言いたいことはあるけれど」

 ミランは、そこで一度言葉を切り、私を見つめた。

「ブレンダさんは、どうしたい?」

「どうって……?」

「アレクシス殿下にあの態度を謝ってほしいのか、仲直りしたいのか、それともこのままか」

「仲直り、したいです」

 ゆっくりと望みを口に出す。


「だったら、そうね――魔法の言葉を教えてあげる」

 ミランは手を離して立ち上がると、私の傍までやってきて、耳打ちした。

「……え? えっ、それが魔法の言葉なんですか?」

「ええ、そうよ。言うか言わないかは、あなた次第だけれどね」

「いえ、ありがとうございます。……試してみます」

 私も立ち上がり、ミランと目をあわせる。


「ミラン様、相談にのってくださり、ありがとうございました」

「いいえ」

 行ってらっしゃい、と手を振ってくれたミランに手を振りかえして、客室を出た。


◇◇◇


 アレクシス殿下が使っている客室は、一階の奥側だったと思い出しながら、階段を降りる。

 その途中で、クライヴとすれ違った。

「ミラン様は、まだお部屋にいらっしゃいますよ」

「ああ、ありがとう」

「いいえ」


 会釈をして、階段を最後まで降りきり、アレクシス殿下の客室へ行くと丁度アレクシス殿下がでてきた。

「アレクシス殿下……」

 ナイスなタイミングだ。

 ……ナイス、だけれども。

 アレクシス殿下は、一瞬私の方を見たけれど、また視線を逸らそうとする。


 なので、ミランから聞いた魔法の言葉を唱える。

「アレクシス殿下、私……、アレクシス殿下と『一番』仲よくしたいです」

 ミランに言われた通り、一番を強調しつつ最後まで言い切った。

 どうかな、これで、仲直りできる?


「……っ」

 アレクシス殿下は驚いたように目を見開いたあと、ふぅ、とため息をついた。

「――ブレンダ」

「は、はい」

 新緑の瞳は逸らされることなく、私を見つめている。

 嬉しいけど、とても緊張する。人に見つめられるって、こんなにも、緊張することだったっけ。

「すまない」

 ……すまない。

 頭の中で、その言葉を反芻する。


「それは……」

 その謝罪は仲良くしたくない、とか、そういう――。

「くだらない嫉妬で、君を困らせたな」

「え――」

 嫉妬? アレクシス殿下は嫉妬してたの?


「私は……自信がない。だから、君が他の男と楽しそうに話しているだけで、こんなにも嫉妬する。だが、その自信のなさを――君に押し付けるべきではなかった」

 私が、他の男性と楽しそうに話しているだけで、嫉妬するっていう具体的な事例は、ジルバルトとクライヴについて話を咲かせていたことだろう。

 ……なんて、冷静に分析する部分があるとは裏腹に。

 嫉妬する意味を探してしまう愚かな私もいた。

 まだ、私のことを好きでいてくれているってこと? そうだったら、いいのに。


 ……いやいや、この方は第二王子。私のような平民に拘っているべきではないわ。

 でも、嬉しい。

 胸の中で様々な感情が渦巻き、何も言えずにいると、アレクシス殿下は目を伏せた。


「本当に、すまない。もし良ければ、仲直りしてもらえないだろうか?」

「はい、それはもちろん」

 笑顔で頷き、アレクシス殿下が差し出した手を握る。

 わぁ。好きな人の手に触れるだけで、こんなにもどきどきするのね。


 うるさい心臓の音に気づかれませんように! と思いながら、手を離した。

「……ブレンダ」

「? はい」

「ありがとう」

 アレクシス殿下は、柔らかな笑みを浮かべてそう言った。

「! い、いえ……」


 その笑みに、胸がじんわりと温かくなる。

「これからは、くだらない嫉妬をしないように、気をつける。……おやすみ」

「……おやすみなさい」

 やったー! おやすみの挨拶も出来た。

 私はるんるんと弾む心で、お風呂に入った。

 この邸は二つ浴室があるようで、今回は女湯と男湯で分けられている。


 ミランは後から入るらしいので、あまりまたせないように、でも丁寧に体の汚れや疲れを落す。

「……はぁ」

 温かなお湯は、ゆっくりと強張っていた体をほぐす。

「今日は、濃い一日だったなぁ」


 別荘にきて、ダウトをして、ばーべきゅーをして、アレクシス殿下に避けられて、仲直りして。

「明日からは、どんなことをするんだろう」

 どんなことでもみんなと過ごす夏季休暇は、楽しくなるに違いない。

 未来の予想に胸をふくらませながら、お湯から上がった。


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― 新着の感想 ―
[一言] アホクシス先に呪いを解いてからにしろ( º言º) 言っとくけどお前が婚約破棄したんだからな? お前が婚約破棄したから平民になったんだからな? 1度婚約破棄した平民女性と再婚約なんて出来ないか…
[一言] 真摯な態度は呪い?を解いてからにすべき!
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