聞き込み
「おまたせしました。ミラン様、抱きついてもいいですか?」
「……ふふ。もちろんよ」
ぎゅっとミランに抱き着く。ミランからは、ふんわりと甘い香りがした。
「ミラン様は、何か香水とかつけられていますか?」
ミランは、いつもいい香りがするのだ。
「ええ。私、香水集めが趣味なの」
「ミラン様からは、いつも良い香りがするから、素敵だなぁ、って思ってました。素敵なご趣味ですね」
甘いけど、甘すぎない上品な香りを堪能しつつ、ミランを更に抱きしめる。
「ありがとう。今度、ブレンダさんにもおすすめの香水を贈るわ」
ミランもぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「本当ですか! 楽しみにしてますね」
ミランのおすすめなら、間違いない。わくわくしながら、体を離す。
「ええ、楽しみにしていて」
ミランは得意げに片目を閉じて、こちらをみた。
美人なミランがそうすると絵になるなぁ。
「あら、もうこんな時間ね。もうそろそろ夕食の時間だわ」
「ほんとですね」
お腹が空いたと思ったら、窓の外はオレンジの光で満ちていた。
「ダイニングに行きましょう。こっちよ」
ダイニングに行くと、すでにマインは席についていた。
「……マイン。ブレンダさんに謝りなさい」
「いや!」
……即答だなぁ。
きっと本当に謝りたくないのだろう。
「姉さまが、悪いもん。ぼくたちのお家に勝手に、こいつ呼んだんだもん」
「……お父様とお義母様には、許可を得てるわ」
ミランが諭すような口調で、そう言ったけれど、マインには全く効果がなかった。
「でも、ぼくはいいっていってない!」
……なるほど?
もしかして、マインはミランがマインに許可を取らなかったことを拗ねているのだろうか。
「あの、ミラン様。マインくんはもしかして……」
「ぼくの名前を勝手に呼ぶな!」
「マイン!」
怒ったミランがマインに詰め寄った。
「……いい加減にしなさい。ブレンダさんは、私の大切なひとよ」
ミランの言葉に、マインは目を大きく見開いた。
そして――きっ、と私を睨むと、席を立つ。
「こいつも……姉さまもだいっきらい!」
マインは、そういうとばたばたとダイニングを去っていった。
「っ、マイン!」
……ミランは、マインに手を伸ばしかけて、やめた。
「ブレンダさん、本当にごめんなさい。マインが失礼なことを言ったわ」
頭を下げたミランに、慌てて首を振る。
「いえ、気にしてませんよ。……それより、追いかけなくていいんですか?」
「いいのよ。マインはやっぱり私のことが嫌いみたいだし」
ミランはため息をつきながら、諦めたようにそう言ったけど。
……そうだろうか。
私には、むしろ――……。
でも、家庭のことだし、どこまで口をはさむか、悩ましい部分でもある。
「……それより、食事にしましょう。うちのシェフの料理とっても美味しいのよ」
「それはとても楽しみです」
――でも、ミランには笑っていて欲しいと思う。
そう思いながら、席についた。
ミランの言葉通り、夕食はとても美味しかった。
明日の朝食もとても楽しみだ。
お風呂につかりながら――侯爵邸はお風呂も広い――考える。
ミランが私をかばうと大嫌いと言った点や悪戯をミランにだけする、という点もひっかかる。
私には、マインは、素直になれていないだけのように見えた。マインは嫌われていると言っていたけれど、おそらくミランのことを嫌っていない……どころか、慕っているように思った。
悪戯も少しでもミランの気を引きたくて、しているんじゃないだろうか。
ミランは、マインのことを自分なりに可愛がっている、といっていたから、マインのことを嫌ってはいないはずだ。
たとえ、お互い好意だけではない複雑な感情はあるとしても。
母の言葉が蘇る。
――あなたたちは、二人きりの兄妹よ。だから。ずっと、ずっと、仲よくしてね。
仲良くできるなら、それに越したことはないものね。
「よし」
どこまで口をはさむか、悩んでいた心がすっきりした。
私は、ただのブレンダで、だけどミランの大親友だ。だから自分にできることなら、力になりたい。
「まずは……聞き込みかしら」
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