カトラール家
私は――ブレンダさんもご存じの通り――カトラール侯爵家の長女として、生まれたの。
優しい母に、厳しいけれど時折甘やかしてくれる父。
そして、貴族の……政略結婚ではあったけれど、相思相愛な二人の間に生まれた私は、二人に愛されて育っていた。
とても、とても幸せな時間だったわ。
――けれどその幸せな時間は、終わってしまった。
母が、病気で亡くなったの。
母を失った私と父はとても悲しんだ。
それはそうよね。父と母はどう見ても愛し合っていたし。
でもね、その一年後、父は再婚したの。
我が家は侯爵家で、まだ跡取りもいない。だから、いつか再婚が必要だってことは理解してた。
でも早すぎる再婚にとまどう私をよそに、父と新たな母――お義母様は、愛を育んだ。
誤解しないで欲しいのだけれど――お義母様は父が選んだ人なだけあって、決して悪い人でないの。むしろ、優しい人だとも思うわ。
……どこまで話したかしら。
ああ、そうそれで――、愛を育んだ二人の間には子供ができたの。
子供……弟はとても可愛くて。私なりに、可愛がってきたつもり。
だけど、あの子は……マインは私のことが嫌いなんだと思うわ。私は、マインの大好きなお義母様の血を受け継いでいないし、いつも、いい子なのに私にだけ悪戯をするの。
だから、お兄様と仲良しなあなたが羨ましいって思ったのよ。
それに、私は見ての通り黒髪で赤目で……、私を生んでくれた母の特徴を受け継いだことが誇りだったはずなのに。家にいると、この見た目が嫌になるの。
マインも父もお義母様もみんな茶髪で青目なのに、私だけ違うから。
でも、本当はそうやって思う自分も嫌になる。
もう、十六にもなったのに、未だに母に縋り付いて、置いていかないでと夢をみることも。
そんな夢をみるほど大好きな母の見た目を疎んでしまう、弱い私も。
◇◇◇
「……なるほど、そんな事情があったんですね」
「ええ。聞いてくれて、ありがとう。ブレンダさん」
私は、握っていた手に込める力を強くした。
「いいえ、こちらこそ話して下さりありがとうございます」
ミランのことをより深く知られて、とても嬉しい。
……と、丁度そこで馬車が止まった。
御者に扉を開けてもらい、馬車から降りる。
一足先に馬車を降りたミランは、微笑んだ。
「ようこそ、カトラール家へ」
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