天文塔2
「ブレンダ」
なんでアレクシス殿下が、ここに。
もしかして、私、アレクシス殿下を下敷きにしてる!?
冷静に状況を分析すると、そのもしかして、だった。
「も、申し訳ございません!」
慌てて上から退こうとすると、手をがしりとつかまれる。
「アレクシス殿下……?」
「――」
新緑の瞳に見つめられて、息が、できない。
どくどくと心臓が鳴って、思い知らされる。――私が、この人に恋をしているのだと。
アレクシス殿下は、私を上にのせたまま、ゆっくりと上体を起こし、そして――……。
私の手を掴んでいない、もう片方の手で、私の頬に触れた。そして、まるで慈しむように、頬を撫でられる。
「……っ!」
なんで、どうして、そんな。
疑問の言葉は声にならず、代わりに体が沸騰したように熱くなる。
――このままじゃ、だめだ。
このままだと、全てが見透かされてしまう。私が、アレクシス殿下に恋をしていることも。今、こんなにもときめいていることも。
アレクシス殿下の顔がゆっくりと近づく。その瞳に、全てを知られることを恐れた私は、ぎゅっと目を閉じた。
「あれー、見学生ちゃん、いないなー?」
ケイリーさんだ。
「!」
一気に、現実に引き戻される。
――私は、ただのブレンダで、この人は第二王子。そして、私が今ここにいるのは、将来の就職先探しのため。
私が、今度こそ、上から離れようとすると、アレクシス殿下も手を離してくれた。
「お怪我はありませんか?」
「ああ、ブレンダこそ大丈夫か?」
「はい。かばってくださり、ありがとうございます」
立ち上がって、お礼を言う。
「いや、私が急に声をかけたのが悪かったから。こちらこそ、驚かせてすまない」
アレクシス殿下がそう言ったのと、ケイリーさんの足音がぱたぱたと聞こえたのは同時だった。
「探したよー。見学生ちゃん」
「すみません、どこで待っていたらいいのかわからなくて……」
「いやいや、こちらこそごめんね。暗くてこわかったでしょ? ここはさ、光に弱い資料が多かったから、明かりを点けずにいてくれて助かったよ」
そう言いながら、ケイリーさんは私の隣にいるアレクシス殿下を見て、首をかしげた。
「あら、見学生くんじゃない。もしかして、案内人のジムとはぐれた?」
「はい」
「もージムってば、仕方ないなぁ」
ケイリーさんは盛大にため息をついた。
「二人とも、ついてきて」
――その後は、ケイリーさんが入れてくれた紅茶を飲みながら、給与や休日などの待遇について話した。ケイリーさんはかなり赤裸々に語ってくれて、こちらはイメージしやすかったけど、大丈夫かな。少し、心配だ。
一通り話し終えた後は、そのまま解散となったので、塔長に臨時入塔証を返却し、学生証と成績証明書を返してもらった。
「本日は、貴重なお時間をいただきありがとうございました」
「いいえ、少しでもこの天文塔のことを知ってくれたなら嬉しいよ」
「では、失礼します」
「ブレンダ」
お辞儀をして、乗合馬車に乗ろうとすると――引き留められた。
「アレクシス殿下?」
「……その。せっかくだから、どこか店で話さないか?」
緊張したように、頬をかいたアレクシス殿下に微笑んだ。
「そうですね」
いつもお読みくださりありがとうございます。
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発売日は、9月20日です!
レーベルはTOブックス様です!
また本作の先行配信が本日より始まっております。
何卒よろしくお願い申し上げます。




