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【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
三章

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ぼんやりとした将来

 翌朝、ついに夏季休暇が始まった。正確には、昨日の放課後から始まってはいたんだけど。


 丸一日学園がない、という休みは今日からだ。一か月と少しという長期休暇なので、とても嬉しい。ベッドの上であくびをしながら、大きく伸びをすると、ふと昨夜のジルバルトの表情を思い出した。

 なぜ、あんな表情をしたのか気になる、けど……。

 そればかりを考えていても仕方がない。


 時間は有限だ。気持ちを切り替えて、夏季休暇を楽しもう!

「……何をしようかな?」

 とりあえず、服を寝間着から休日用の服に着替える。

 せっかく女子寮に一人だから、「おひとりさま」な寮生活を楽しむのもいいし、街でも「おひとりさま」として散策するのも楽しそうではあるけれど。

 やっぱりまずは……。


「夏季休暇の課題からよね」

 夏季休暇あけには、小テストが行われることを考えながら、課題を勉強机に広げる。

そういえば、期末テストの結果はいつ届くのかな。

頑張った、自分に出来ることはやった、という自信はあるけど、やっぱりその結果を見るまでは、どうしても気にしてしまう。

「……考えていても仕方ないわ」


 成績表が届くまでは、わからないのだし。とりあえず、課題に集中しよう。

 課題の一つである問題集はざっと見たところ、前期の復習が主だった。あと、後期の予習のような内容が少し。

 この課題は問題なさそうね。

 でも――もう一つの課題である一枚の紙を見る。

 紙には、こう、記されていた。

――あなたの夏季休暇を表す芸術作品を何か一つ作成しなさい。

 手っ取り早いのは、貴族時代に身に付けた、刺繍かな。


 でも、せっかくだし、何か今までしたことがなかったことをするのもいいかもしれない。

 たとえば、作曲や作詞をしてみるだとか。絵を描いてみるとか。

 芸術、と一言にいっても表現方法は様々だ。

 たぶん、そういう方法を模索するのも、課題のひとつなのだろう。

 とりあえず、芸術作品のことは忘れないようにして、取り組みやすい問題集から解こう。そしてついでに自主課題として、いつもの問題集もできる範囲を解こう。


「……ふぅ」

 窓から西日が差し込む時間になった。

 適度に休憩しつつ集中して取り組んだおかげで、夏季休暇の問題集の三分の一は終わった。

 いつもの問題集も、かなり進んだ。

 今日の勉強はここまでにして、散歩でも行こうかな。きっと、夕方だから涼しいだろうし。

 

 机の上を片付けてから自室をでる。

 ……今日は、どのあたりを散歩しようかな。

少し悩んだ後、せっかく時間があるのだから、学園が所有する敷地内を一周することにした。


 淡いオレンジの光で満たされた世界は、幻想的で、少し寂しい。

 ――歩いていると、まるで、世界に一人ぼっちになってしまった気がする。

 ……なんて、感傷的なことを考えていると、学園の校舎から誰か出てくるのが見えた。

 は、恥ずかしいー。ぜんぜん、世界に一人ぼっちじゃなかった。


 出てきた誰かに、手を振られ、誰だろうと。目を凝らす。

「……あ」

 ジルバルトだった。昨夜のことを思い出しながら私も手を振り、ジルバルトに駆け寄る。

「ジルバルト様、こんにちは…

…?」

「こんにちは、ブレンダ」

 ジルバルトは、にこにこしていて、とても機嫌がよさそうだった。

 ……何か、いいことでもあったのかな?

 尋ねようとして、ふと、ジルバルトの手に気づいた。何か――筒状の物を持っている。

「ジルバルト様、もしかして、それは――」

「うん。貰えたんだ、推薦状」

 ジルバルトが心底嬉しそうに笑った。大変破壊力のある笑みだ。


 その素晴らしい成績から考えると、その推薦状がどこか、はすぐに考察ができた。


「おめでとうございます! ……もしかして、天文塔ですか?」

「うん、そうだよ。ありがと、ブレンダ」

さすがジルバルトだ。国内最高峰の研究機関である天文塔の推薦状を本当に貰うなんて。

 

 拍手をすると照れくさそうにしながら、ジルバルトは微笑んだ。

「ずっと行きたかったんだ。だから、嬉しい」

「本当におめでとうございます! あれ、でも……」 

推薦状がもらえたってことは、もうテストの結果が出てるってことよね。

 でも、まだ、さっき自室を出た時点で成績表が寮に届いてなかった。


 私がそのことを伝えると、ジルバルトが教えてくれた。

「……ああ、それは今回の期末テストだけ、三年生の成績を先に出すんだ」

「なるほど」

だって、三年生の前期の期末テストは、推薦状の可否が決まる最後のテストだものね。


「ジルバルト様、一位もおめでとうございます」

 直接は聞いてないけどジルバルトなら、今回のテストも一位だろう。


「うん、ありがと」

 やっぱり、一位だったようだ。今日は、とてもめでたい日ね。

「お祝いをしましょう! ジルバルト様は何がお好きですか?」

「ブレンダ」

「?」

 名前を呼ばれて首をかしげる。


「ありがと。この推薦状をもらったとき、真っ先にブレンダに伝えたいって思ったんだ。だから、ブレンダに祝ってもらえて、嬉しい」

「!」

 そんな風に想ってもらえるなんて、こちらこそ嬉しい。

 それはきっと、私がジルバルトの「可愛い後輩」だからだろうけど。


「それでジルバルト様は、今何が食べたいですか?」

「ブレンダってさ、料理したことある?」

 貴族だったら、あまりしたことがない人が多いだろうけど……。

「はい、ありますよ」

 貴族時代にルドフィルと一緒にクッキーを焼いたこともあるし、平民となってからは、学園に通うまでの間に何度かした。


「じゃあ、いつかブレンダの手料理が食べたい」

「今日じゃなくて、ですか?」

「うん。いつか」

 いつか、なんて曖昧過ぎる言葉をジルバルトは繰り返した。

そして子供のような顔で、小指を差し出す。

「ほら、ブレンダ」

「……わかりました」

 私も小指を差し出し、ジルバルトと絡める。

「約束ね」

「はい」

 大きく頷いて、そっと小指を離した。


「……ところで、ブレンダは将来の就職先、考えてる? 貴族には戻りたくないみたいだけど……」

 将来の就職先。私が今考えているのは、やはり。

「研究職――特に天文塔に行きたいと考えてます」

「そっか。ボクと同じだね」

 なら……、とジルバルトは続けた。


「天文塔に一度見学に行ってみるといいよ。ボクも一年のこの時期に行ったから」

「見学できるんですね。知りませんでした」

 ジルバルトによると、学生証の他に成績証明書を学校で発行してもらえば、見学の許可がおりるとのことだった。


 ジルバルトと寮に向かって歩きながら――今日の散歩はやめにした――私は、頭の中でまだぼんやりしていた卒業後の自分について、考え始めていた。


お読みくださりありがとうございます。

お読みくださるみなさまのおかげで、本作の書籍化が決定しました!


発売日・9月20日

レーベル・TOブックス様


です!購入する場所によっては、特典SSもつくそうです!

何卒よろしくお願い申し上げます!

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