懐かしい夢
女子寮は、いつもはわいわいと騒がしい時間だけど、静まり返っていた。
寮母さんによると、女子寮に残っているのは、私だけのようだった。
静寂が支配する寮はまるで、知らない場所みたいで、少しだけ心細い。
「……何やってるんだか」
くせで、ミランの部屋にお話をしに行こうとして、苦笑する。
――ミラン。かつては、ライバルのようだった彼女。でも、今ではかけがえのない友人、大親友になった彼女。
先ほどミランと別れたばかりだというのに、もう、ミランが恋しい。
そんな自分にまた苦笑して、自室に入った。
自室は、当たり前だけど、いつも通りで安心する。
「……ふぅ」
制服から、部屋着に着替え、ベッドに転がる。
この数か月、忙しかったけど、充実してたなぁ。それこそ、ミランと友人になったことを筆頭に、本当に様々なことがあった。
生徒会の執行役員になったり、アレクシス殿下と友人になったり、ルドフィルから告白されたり、ジルバルトに味方だっていってもらえたり……。
でも、その中でも、一番大きな出来事と言えば。
……恋を、したこと。
母をなくして狂っていく父を見ていた私が、恋ができるなんて思わなかった。
「私は、恋をしてるのよね……」
きっかけは、あまり覚えていないけど。『かくれんぼ』という学校行事を境に、私の世界は確実に変わった。
好きなひと――アレクシス殿下の存在をたった一つの行動ですら意識してしまうようになった。いつもより、丁寧に髪を梳かしてみたり、少しだけ色が濃いリップを塗ってみたり。
……といっても、この恋を叶えるつもりはないのだけれど。
だって、私は、ただの平民であまりに身分が違い過ぎるし、分不相応な恋だから。
それでも、少しでもよく見られたいと願ってしまうのだから、恋とは、実に厄介ね。
病と称されることもあるのも実に納得だ。
そんなことをつらつらと考えていると、眠くなってきた。
……テストが終わって、気が緩んだのかな。
――私はゆっくりと眠りの世界に落ちていった。
「……ダ、ブレンダ」
穏やかで美しい、声が聞こえる。その声に導かれて目を開けると、母が笑っていた。
「ふふ、私の可愛いお寝坊さん」
私と同じ水色の髪と瞳そして、その表情は間違いなく母の物だった。
「お母さま……」
どうして、母がいるの。私は、今まで夢でも見ていたのかな。
「あらあら。不安そうな顔をしてどうしたの、私のお姫様」
ほら、お母様になんでも話してみなさい。
そう言って、笑う母は記憶の中の姿のままだった。
「あのね、お母様――」
「お母様は、いっつもブレンダのことばっかり」
私の話を遮るように、母に抱きついたのは、兄だった。
「あら、リヒトだって私の小さな王子様よ」
王子様、という言葉に反応した兄は、少しだけ恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑った。
「……ならいいけど」
「ねぇ、ブレンダ、リヒト。覚えておいて――」
あなたたちは、二人きりの兄妹よ。だから。
――ずっと、ずっと、仲よくしてね。
母の言葉が終わると同時に、世界が回る。
私は頷いたけど、兄は――リヒトお兄様は、あのとき、なんていったんだっけ。
疑問に思っている間に、意識は浮上し、母の笑みも兄の戸惑った顔も掻き消えた。
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
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