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【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
三章

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まなざし

 そうして、迎えた放課後。期末テストが近いので、生徒会の仕事はお休みだ。

 なので、三年生の教室に向かう。


 そこで、丁度クライヴとすれ違った。

「やぁ、ブレンダ嬢」

「こんにちは、アルバート様」

「ジルに用事なら、教室にいたぞ」

 急いでいるのか、クライヴは少し早口で教えてくれた。


「ありがとうございます」

 私がお礼をいうと、ああ、とひらひら手を振って、去って行ってしまった。

 ミランといつも登下校を一緒にしているから、おそらく、ミランの下へ行くのだろう。


 ……仲良しだなぁ。


 そんなことを思いながら、ジルバルトの教室に行くと、席に座っていた。


「――」

 夕日が、ジルバルトを照らしている。

 淡いオレンジの光に包まれながら、窓の外を眺めているその姿は、息をのむほど、美しかった。

 ――宵闇の貴公子。


 そんな言葉が頭の中に浮かぶ。


 二つ名であるそれを、ジルバルトは嫌っていたけれど。

 そう女子生徒たちが噂するのも頷ける。

 その絵画のような姿に呼吸も忘れて見惚れていると、目があった。


「!」

 私を捉えたその瞳が細められ、近寄りがたい美しさを持った少年から、親しみやすい、いつものジルバルトに変わる。


「どうしたの、ぼーっとして。勉強、しに来たんでしょ」

 悪戯っぽい笑みを見て、ようやく呼吸を思い出した。


「……ジルバルト様が」

「うん?」


 立ち上がって首をかしげながら、ジルバルトが近づく。

「あまりにも美しかったので、見惚れてしまいました」


「っ!」


 私の言葉に、ジルバルトが足を止めた。

「……はぁ。本当にブレンダは素直だよね。でも、ブレンダにそう言ってもらえるなら、この顔も悪くないね」


 気恥ずかしそうに、頬を少し赤くしてそういうと、ほら、と椅子を引いた。


「座りなよ」

「ありがとうございます」

「……うん」


 ジルバルトは小さく頷くと、自分もその隣の席に座った。そして、机を寄せ、机と机の境目に問題集を置いた。


「じゃあ、始めるよ」

「はい、よろしくお願いします!」

「うん。まずはこの問題からだけれど――」




 ジルバルトは、丁寧に――分かりにくいところは図解しながら教えてくれた。


 ……可愛い。


 その図には可愛い猫のイラストも添えられており、とても分かりやすいと同時に癒される。


「……というわけで、ここは――」


 でも、今回の目的は、ジルバルトのイラストを眺めに来たわけではないので、ジルバルトの説明に集中する。

「……ブレンダ」

「どうしました?」


 少しだけ呆れた声に、首をかしげる。

「図に近付きすぎ。目、悪くなっちゃうよ」


 はっ! いつの間に!? 


 ジルバルトの言う通り、集中するあまり、顔を近付けすぎていた。

 慌てて、図から適切な距離をとる。

「でも、それだけ一生懸命聞いてくれてありがと。ブレンダに教えるのは、ボク自身も勉強になるから、助かってる」


「いえ、こちらこそありがとうございます」

 ジルバルトに教えてもらえてよかった。


 苦手な箇所だったけど、得意とまではいかなくとも、それなりにわかるようになった……と思う。

 少なくとも、この問題集の問は、間違えずに自分で解けそうだ。

 そのことを伝えると、ジルバルトは微笑んだ。


「それなら良かった。じゃあ、帰ろうか。女子寮の前まで送るよ」

「えっ、でも……」

 勉強も教えてもらって、送りまで頼むのは、申し訳ない。


「ブレンダとまだ話したいからさ。それに、可愛い後輩を送るのは、先輩なら当然でしょ?」

 少しおどけたように言われたその言葉に、思わず笑う。


 先輩と後輩。少しくすぐったくもあるその関係は、胸の中を温かい気持ちで満たした。


「では、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます、先輩」




 ジルバルトと話をしながらの下校は、とても楽しかった。

「おやすみ、ブレンダ。勉強は大事だけど、あんまり根を詰めすぎないようにね」

「はい、ありがとうございます。ジルバルト様も、おやすみなさい」


 お別れの挨拶をして、女子寮の扉の前まで行き、ふと、振り返った。


 当然、ジルバルトはもう帰っ――ていなかった。


「――」

 とても優しい瞳でこちらを見ていた。まるで、包み込むような温かいまなざしに、戸惑う。

 ……なんで。どうして、それじゃ、まるで――。


 あまりにも、自意識過剰すぎる答えが浮かびそうになったところで、後輩、という言葉が思い浮かんだ。

 

 後輩、だから。……なのかな。


 ジルバルトは、あまり人を寄せ付けない。それはきっと、知り合った昔も今も変わっていない。


 でも、私の味方だっていってくれたり、可愛い後輩といって、こうして送ってくれたり。

 きっとジルバルトは一度懐に入れた人に優しい性格なのだろう。


 ……罪な、ひと。


 私だから良かったものの、他の誰かだったら勘違いしかねない――なんて、自意識過剰さは棚において、そんなことを考えつつ。


 最後にジルバルトに手を振って、女子寮の中に入った。



いつもお読みくださりありがとうございます。

次回から毎週月曜日更新にする予定です!

また、現在も書籍の予約を受付中です。

何卒よろしくお願い申し上げます。

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