婚約解消
──お前の笑い方は下品だと、言われた。
だから、笑うのをやめた。
──お前の涙は、鬱陶しいと言われた。
だから、泣くのをやめた。
そして、今。
「ブレンダ、君のように無機質な令嬢と結婚なんて無理だ。だから、婚約を解消させて欲しい」
ちらりと父の方を見ると、父は怒りで顔を真っ赤にして私を見ていた。それでも、父は公爵で、目の前のこの人は、第二王子。そんな尊い血をひく人の前で、怒鳴り付けたりはしなかった。
「……かしこまりました」
そっと、目を伏せる。
「そんなときでも、君は、泣かないんだな」
呆然と呟かれた言葉は、あなたが私を知ろうとしなかったという証明でもある。私はそのことを実感しながら、黙って退出の礼をした。
「ブレンダ」
「……はい」
王城から家に帰って、父の書斎に呼び出される。
「お前はただ今から、スコット公爵家の人間ではない。スコット公爵家から追放する。ブレンダ・スコットではなく、ただのブレンダとして生きるがいい」
──そうして本当に父はスコット公爵家から、私を追放し、私は貴族ではなくなり、平民のただのブレンダになった。
平民となった私は、自分の力で食べていかなければならない。
そして、平民でもそれなりの生活水準を維持しようとしたら、学が必要だ。
本来なら、貴族の一員として入学するはずだった全寮制の学園がある。そこで、設けられた、特待生制度──入学テストで優秀な成績を修めれば、学費や教科書代など学園での生活に必要なお金は免除される──を利用することにした。
私は、公爵令嬢であり、また、第二王子の婚約者でもあったので、家庭教師がつけられていた。そして、勉強自体を苦だと思わなかった性格も幸いして、入学テストで、優秀な成績を修めることができた。そして、見事特待生枠をとることができたのだった。
そして、ついに、私の全寮制の学園での生活が始まるのだった。
入学式が行われる前日から荷ほどきのため、新入生も寮に立ち入ることが許される。
学園の門をくぐり、女子寮にいく。
「あらぁ、平民のブレンダさんじゃない」
聞き覚えのある声に振り向くと、侯爵令嬢のミランだった。彼女と私は、周囲からはライバルのような扱いを受けており、やることなすこと全て彼女と比較されてきた。
「……っ! なによ、その面倒そうな顔は! あなた、いつも何を言っても無表情だったじゃない!」
私は、感情を表現することを父に禁じられた。だから、いつも感情を殺してきた。でも彼女の言う通り、私は公爵令嬢ではなく平民のブレンダなのだ。そして、公爵家から追放された今、父に従う理由もなくなった。
いつもならミランに何を言われても黙っているのだけれど。この学園の間だけ、身分制度は関係ないと決められている。
私は、口を開いた。
「もう、そういったことは、やめにしました。私は自由に生きていきます」
私がはっきりとそういうとミランは、少し戸惑ったように、何かをぶつぶつと呟いた後、宣言した。
「まぁ、あなたは平民だものね。つまり、もう私のライバルでもないわ。だから、その、……。ゆっ、友人になって差し上げても、よろしくてよ!」