姫様はこの国を救うためならケツにダイナマイトだって入れるのかい!?
【ケーナ】
職業:王女
好きな物:スノードーム、唐揚げ
嫌いな物:じいや
「ひ、姫様っ!? そのお尻のダイナマイトは何事で御座いますかっ!?」
杖をついた白髪の老人の出し慣れた大声が城内に轟いた。老人の目の前にいる女性―――この国の王女である【ケーナ・マルダーシ・プリケーツ】はその頭にはやや大きな王冠を被りながらも服装は極めて質素な材質で、ケツにはダイナマイトを挿していた。
「じいや、そんな大きな声を出さなくても聞こえております。これは国のため仕方なく―――」
「姫様がその様な事をする必要は御座いません!! 代わりに雑用係のコバヤカワにでも挿せば良いので御座います!!」
「わたくしはこの国の王女です。他者を犠牲にしてまで上に立ちとうないですわ!」
「姫様……!!」
事の発端は、ある日城に届いた小包みだった。
小包みには一通の手紙とダイナマイトが入っており、手紙には『今日一日コイツを王女のケツに入れなければ、川に毒を流す』と無機質な文字で書かれていたのだ。
ケーナは躊躇わなかった。この国の住人全てが自分の家族であるように振る舞ってきたケーナにとって、家族の命に比べたらケツにダイナマイトを挿す位なんて事はなかった。
「なりません! なりませぬぞ!! 万が一導火線に火が着いて爆発でもしたらじいやは亡くなった御父上様になんとお詫びしたらよいか―――!!」
じいやが壁画を指さした。壁に描かれた男は凛々しく剣を掲げ、靡いた金髪と逞しい体付きは王たる風格を現していた。
「この国の民を救うべくして死ぬのなら本望です。あの世でふんぞり返って自慢出来ましょう」
「この国はどうするのです!!」
「じいやが治めれば宜しいですわ!」
ケーナは頑として意志を曲げなかった。
「じいや……」
「なんでございましょう?」
半分べそをかいているじいやを静かに手招きし、こっそりと耳打ちをするケーナ。
「……実は少し気に入っている」
「―――姫様!!!!」
じいやは血管がはち切れんばかりに怒り狂った。
「と、言う訳だ。今日一日見苦しいが許せ」
自室にて立ちながら紅茶を飲むケーナ。お付きのメイド【カタリーナ】は「はぁ…………」としか言えず、お尻のダイナマイトから目を離す事が出来なくなっていた。
ケーナの部屋には趣味で集めたスノードームが所狭しと並べられており、時折いじっては楽しんでいる。
「万が一導火線に火が着いても問題は無い。つまらぬ物を斬らせたら世界一と呼ばれた【エモン】を控えさせておる」
「…………」
ケーナのすぐ後ろには異国の剣士が剣に手をかけており、いつ何時であろうが瞬時に抜き身を振るう準備をしていた。
「じいやに部屋から出るなと言われたからな。全くスノードームをいじる以外にやる事が無いわい」
クルリと後ろを向く度にエモンが素早くケーナのお尻の近くへと移動する。
──ジ、ジジ……!
「……む?」
ケーナはお尻に響く僅かな振動を感知した。それは紛れもなくケツに挿したダイナマイトからであった。
「いつの間にか火が着いているではないか!!」
──スパッ!
エモンが素早い居合いでダイナマイトの導火線を斬る。導火線の先端が落ち、静かに消えてなくなった。
「つまらぬ物を斬ってしまった…………」
「でかしたエモン。危うくケツが破裂するところであったぞ」
ケーナがエモンの頭をなでなですると、それまで不躾に愛想の悪かったエモンの頬が緩み、珍妙な笑みを見せた。その一連の流れを見たカタリーナは、何も言えずただただ呆然としていた。
「何故いきなり火が着いたのだ……?」
ケーナが部屋を見渡すと、窓の傍に置かれたスノードームが目に付いた。眩しい太陽の光に照らされたスノードームは一際強く輝いている。
「……これか?」
太陽の光がスノードームを通じて近くの壁の一点を熱くしており、どうやらその間に立ったケーナの導火線にたまたま火が着いたようであった。
「窓際にスノードームを置くのを止めよう」
ケーナは一つ学習した。そして部屋に居ても危険があると思ったケーナは広い原っぱで昼寝をしようと、カタリーナとエモンを連れ立った。
「ふぁぁ……良い天気で眠い…………Zzz」
ケーナはあっと言う間に寝てしまった。しかし直ぐに焼け焦げるような異臭に気付き目を覚ました。
「何事だ!?」
「姫様ー!! 大変で御座います! 近くの家が燃えております!! 直ぐにお逃げ下さいませ!!」
部屋にケーナが居ないことを知ったじいやが血相を変えて走ってきた。すぐ近くの家は黒い煙をモクモクと上げて炎に包まれており、ケーナは居ても立っても居られず駆け出した!
「ああっ! 家が燃えておる!!」
ケーナ達が駆け付けると、炎は一段と勢いを増し、最早玄関が何処かすらも分からない程に炎に包まれていた。
「―――今、中から何か聞こえませんでしたか!?」
カタリーナが叫んだ。それを聞いたケーナは躊躇いなく燃え盛る家へと突入した。
「姫様!!!!」
じいやが叫ぶがケーナは振り向かない。エモンが慌ててケーナの後を追った。
「クッ! 熱い!!」
家の中は灼熱の炎と煙以外何も見えず、直ぐさまケツのダイナマイトに火が着いた。
──ジジジ……!
──スパッ!
「すまんなエモン。帰ったら沢山よしよししてやるからな」
「…………(ニヤッ)」
服が焦げることも厭わず、ケーナとエモンは家の中を探索し、誰も居ないことを確認して外へと出た。
「―――姫様っ!!!!」
あちこち黒く焦げたケーナにじいやが駆け寄りすすを払う。カタリーナも直ぐさま火傷の手当を始めた。
「姫様なんと言う事を!! ケツにダイナマイトを挿したまま炎の中へと入るなんてバカな真似は今後一切お止め下さいませ!!」
じいやが血相を変えてケーナの身を案じた。しかしケーナは憮然とした態度で言い放った。
「ならぬ。目の前で我が民―――我が家族を見殺しにする事なぞ出来ぬ」
「ひ、姫様…………」
じいやは言葉を失い何も言えなくなった。そしてケーナは一つの結論に辿り着いた。
「わたくしは、此度の犯人は身内にいると考えておりました」
一同が驚きケーナを見つめた。
「犯人の目的は私を辱め、あわよくば死ね。と言ったところでしょうが、そもそもわたくしが律儀にダイナマイトを入れるかどうかすら分からない。そして一般人に見せる訳がないので、どう考えても身内の犯行」
「姫様……?」
ケーナはじっと一人を見据えた。
「激しく燃え盛る炎の中、あたかも中に誰か居るかのように仕向けたのはあなたですね? そして窓際にスノードームを置いたのも…………」
皆の視線が彼女に集まった。
「カタリーナ。このダイナマイトは貴女ですわね?」
カタリーナは震えを押さえるように両手を強く握り締めた。
「……そうです。私がダイナマイトと手紙を送りつけました…………」
「カタリーナが!? 一体何故!?」
じいやがあたふたとカタリーナに詰め寄った。
「今から十年前、先代の王様がお忍びで母の営む酒場へとやって来た事がありました」
「む、しばしば城を抜け出して遊んでいたとは聞いてはいたが……」
「閉店後も母と二人で酒を飲み…………そして……夜具を共にした」
「―――!!」
「な、なんと!!」
「そして母は身籠もった……」
「…………」
「そ、その様な事は聞いたことが―――!!」
「先代の王は秘密裏に無かった事にした。母にあらぬ罪を着せ、余計なことを喋る前に……跡目争いが起きぬ前に母を追放した!」
「…………」
「も、もしや10年前の王宮爆破事件の犯人の女性は…………!!」
「先代の王が自分で爆破した王宮を、母がやったと言い、でっち上げた目撃者と買収した裁判官で母を貶めた!!」
カタリーナは止め処なく溢れる涙を惜しげも無く流し続けた。それまで胸の内に秘めた情念が溢れ出し、全てを吐き出した!
「すまん…………全ては父の不始末。娘の私の責任だ」
「姫様っ!? なりませぬ、なりませぬぞ!!」
ケーナは地面に頭を下げた。じいやが必死で起こそうとするが、鉄の意志は曲がらない。
「母と私ははその後隠れるように暮らしたわ。お腹の子と一緒に…………私は復讐を果たすために城のメイドとして潜入して今日に至るわ」
「すまん、この通りだ…………」
ケーナはひたすらに土下座をし、地に頭をつけた。
「許さない……母を弄んだ挙げ句追放した愚かな男……絶対に許さない!!」
ケーナは再び拳を握り締めた。
「し、しかし王の子が他に居るとすれば、それは男子であれば継承権は……!!」
「……生まれたのは男の子だったわ」
「な、なんと―――!!」
「…………アフロの褐色肌に育ったけどね」
「…………は?」
「へ?」
ケーナは思わず顔を上げた。
じいやは口をあんぐりと開け、杖を倒してしまった。
「母はビッチだった!! あろう事に同時期に複数の男とイチャコラぶっこいて浮気三昧不倫三昧で隙あらば男と寝るかやるかのふしだら女だったのよ!!!!」
ケーナの口調が変わり、怒りの矛先があらぬ方向へと向き出した。
「と、なると……?」
「王の子ではなかったわ!! お陰でこっちは良い迷惑だわ!! うわーん!!!!」
カタリーナは地面にもんどり打ってジタバタと手足をバタつかせた。
「……そうか」
「姫様!? 『そうか』ではありませぬ! 此奴は姫様を爆破しようとした殺人犯になりますぞ!?」
落ち着きを取り戻したじいやが杖を拾い上げ叫いた。
「……言ったはずだぞじいや。この国の民は我が家族。元々は父の不始末のせいだ。この件は不問とする……」
「ひ、姫様……」
こうしてケーナは無事に一日を過ごした。
その後改心したカタリーナはメイドとしてケーナの傍に付き添い、ケーナもまたカタリーナを大事にしたという。
読んで頂きましてありがとうございました!!
(*´д`*)