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1話:ルーナ、目覚める

「……ナ、ルーナ!」

「お嬢さま、お嬢さま!」

誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえる。男性と女性、それぞれ一人ずつ。ルーナって誰だろう? お嬢さま、って誰だろう……。

「ルーナ、しっかりしなさい!」

「お嬢さま、お嬢さま、目を開けて!」

二人の声はだんだんと大きく、より鮮明に聞こえ、「私」を眠りの底から引き起こした。

な、何、一体何ごと……?

目を開けると、若い男性と女性が二人して私の顔を覗き込んでいる。彼らは目にいっぱい涙を浮かべ、今にも泣き出さんばかりの表情だった。男性が勢いよく私を抱きしめ、「ルーナ!」と叫ぶ。彼の腕の力はたいそう強く、私は「ぐぇ」とカエルが潰れたような呻き声が出た。

「お嬢さま、ああお嬢さま、よかった……先生、お嬢さまが目を覚ましました!」

女性の方は涙を拭うと、ベッドの脇に控えていた白衣の男を呼ぶ。ん、ベッド? 私はあたりを見回そうとして、体が全く動かないことに気づいた。何だ、何これ、めちゃくちゃ全身が痛む。頭もぼーっとしてるし、喉の奥がカラカラだ。声は出せそうになく、ヒューヒューとした呼吸を繰り返すしかできなかった。それでも息苦しいくらい。

恰幅の良い白衣の男性──先生、と呼ばれていたし医師だろう──は私の目の前に丸々とした掌をかざし、呪文のような言葉をぶつぶつと呟いた。突如、ぽっと淡い光の玉が現れ、すーっと私の胸元は降りてそのまま中に入った。何が起きたか理解できないまま、私の呼吸は段々と落ち着き始める。全身の痛みも和らいでいた。

「うむ、もう峠は越したようですな。軽く処置もしておきました。これから熱も下がることでしょう」

「ありがとうございます!」

さっきまで私に抱きついていた若い男性が深々と頭を下げる。「お嬢さま」と叫んでいた女性も、他に周りにいる幾人かの人々も続いてお辞儀した。彼らは皆本で見たような使用人、例えばメイドや執事みたいな服を着ている。んんん? ここはお屋敷かどこか?

「では私は次の患者の回診がありますので」

「はい、先生、本当にありがとうございました……ホッブズ、見送りを頼む」

「かしこまりました、旦那様」

「他の皆ももう下がってよろしい。エイミーだけ残ってくれ」

使用人らしき人々のうち最も年配の、一番偉そうな男性(ホッブズと呼ばれた人だ)が医師を連れて部屋を出た後、ぞろぞろと他の人々も続いていく。最後に残ったのは私を「ルーナ」「お嬢さま」と呼んでいた若い男女だけだ。

「ああルーナ、今回は本当にもう、ダメかと思った……。あまり私を心配させないでくれ」

「お兄さま……」

項垂れる男性に向かって思わず零れた言葉に私はぎょっとした。「お兄さま」だって? 私に上のきょうだいはいないはず。この男の人にも全然見覚えがないのに、何で? もうろうとしていた私の意識は徐々に覚醒していく。項垂れた「兄」が顔を上げると、私とばっちりと目が合った。

色素の薄いプラチナブロンドの髪を後ろに撫でつけた、青みがかった灰色の瞳は切れ長で、少し神経質そうな顔をした、この人は、そう──確かに私の「兄」なのだ。

「うっ」

突如、ズキズキと頭が痛みだす。頭蓋骨の内側が焼けるように熱い。額を手で押さえると、兄は慌てて再び医師を呼ぼうとした。

「大丈夫、お兄さま、大丈夫だから……けほっ」

「顔色がまた悪くなっている。エイミー、早く先生を」

「ちがっ、違うの、これは違うのよ。え、エイミー、お願い、鏡を取ってくれる……?」

かすれた声で私は懸命に乞う。確かめなければいけないことがある、どうしても、今すぐに。鏡を見ればきっとすぐわかるはず。「私」付きの侍女であるエイミーは、兄妹の指示の間でおろおろしていたものの、すぐ側にある「私」の鏡台に置いていた小さな手鏡を渡してくれた。

「エイミー!」

兄が叫ぶと、彼女は慌てて部屋を出て行った。

頭の痛みを堪えながら、私は鏡に自分の顔を映す。

そこにいたのは、兄と同じプラチナブロンドの長い髪とブルーグレイの瞳を持つ、不健康そうな青白い肌の少女、「私」──伯爵令嬢ルーナ・ヌーン。

見覚えがあって、見覚えがない姿。今朝鏡で見たのはもっと平凡な容姿の大人の女性だったはずであり、かつ、私は確かにこの病弱な少女だ、という記憶も持っている。私は天を仰いだ。見慣れているけれど、見慣れないベッドの天蓋が見えた。




ああ、私……この高熱で、「前世」を思い出しちゃったんだわ!

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