第2話 夜のお祭り
ガチャ
その時森の頂上にある祠は開かれた。
その中から何かが姿を現した。顔を白い布で隠してある。
それは前からも横からも表情が伺えないほど。服装は青色の袴。
首には色とりどりの宝石がついた首飾り。胸のふくらみから、その存在が女性だということを知らせる。
そんな彼女の視線の先は山の麓に向かれている。
そして彼女は静かに山を下りていく。ゆっくりとゆっくりと。
彼女の瞳に何を映しているのかわからない。
彼女が今何を思っているのかわからない。
それがわかるのは本人だけ。それ以外誰にも知ることができないのだ。
太陽が沈み、月が姿を現したとき。
準備はすでに終えていた。あとは主役を待つばかり。
今宵は祭り、空の化身が山から姿を現す。村全体が賑わい始めても、樹月はあの場所にいた。
「樹月ぃ、お前まだここにいたのかよ。……行くぞ!」
そんな樹月に声をかけたのは、あの時の少年、龍だった。
彼は相変わらず無表情な少女に眉間に皺を寄せながら、少女の手を引いて、無理やりそこから連れ出した。
「なぁ樹月。空巫女は村の反対側の入り口から現れるみたいだぜ。なぁ、誰よりも先にその“空巫女”とやらを拝みに行こうぜ」
実は彼らは空巫女をその目で見たことがないのだ。
と言うのもこの祭りに参加するのも初体験なのだ。この村に古くから伝わる村のしきたりで、この祭りに参加できるものは、満十歳からだ。
理由は分からないが。だからこそ龍は空巫女を見たいのだ。空の化身と言われる存在を。
「……………」
しかし樹月はその場から動かなかった。ただただその顔を俯かせているだけ。
「どうしたんだよ、樹月。早く行こうぜ」
動かない樹月に龍は問う。その言葉に彼女は静かに首を横に振った。
「大丈夫だって、俺がいればお前は怒られないよ」
そう言って動こうとしない樹月の足を無理やり動かし、龍は村の反対の入り口に向かって足を進めて行った。