第1話 年に一度のイベント
とある地方には、その麓に住む民族にとって空の山と呼ばれる霊山がある。
その山はまるで天に届くと思われるくらい高い。
その頂上には小さな祠と建物がある。
そしてその建物には、「空巫女」と呼ばれる空の化身と呼ばれる巫女が住んでいる。
山の麓に住んでいる民族にとって、その巫女は神同然の存在。
巫女は年に一度だけ、頂上から村まで山を下りてくる。
それは決まって寒露と呼ばれる秋が深まり始まるとき。
それに伴い村の人達は祭りを開く。
その神を崇めるために。
山の麓の大人達は、朝から大忙しだった。
年に一度の祭り。それは大人だけではなく、子供もその祭の準備を手伝わされる。
誰もがその祭を楽しみにしている中、なにも作業をしないで、ただぽつんと立っている子供がいる。
「樹月ぃ、お前突っ立っていないで手伝えよ」
樹月と呼ばれた子供は、その声に顔をあげる。
彼女は長く綺麗な黒髪を持つ女の子だ。
しかしその前髪は重く、彼女の瞳まで覆いつくしてしまうほど。
極めつけはその無表情な顔。それはまるで日本人形のようだった。
「龍。その子なんか放っておいてこっちを手伝って!」
その時出てきた彼の母親が、龍と呼んだ子供の手を引いてどこかに連れていく。
それを見つめる樹月。彼女は何もしないでそこに立っているだけ。
「本当、あの子は気持ち悪いんだから。
せっかく家に置いてあげているんだから少しは笑えばいいのに」
そんな母親の独り言は少年には聞こえたが、少女には聞こえなかった。