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プロローグ

 

 正義とは何だろうか。

 誰もが賞賛する心の澄み渡るような行いを為すことだろうか。それとも、悪逆なる暴力から弱き人々を救う英雄譚に載るような活動のことだろうか。誇り高い気概は暗闇を照らす光そのものなのだろうか。

 否、正義とはもっと自己中で他者を蔑ろにするおぞましい行いを指す言葉である。



 目の前を虫が這っている。

 弱い、路傍に生える雑草よりも命の軽いモノが誰の視界にも入らず、ただ無為に動いている。

 その虫は困ったように周囲の顔色を伺い、しかし誰もが無視をするので己の意思を告げることもできずに右往左往するしかできないでいた。

 誰も助けない。

 誰も意に介さない。

 それは()()の存在が世界に認められていないのと同じ。


「お嬢ちゃん、迷子かい? 良かったらおじさんが一緒にお母さんを探してあげようね」


 一人の老紳士が社会の爪弾きに遭いそうな少女に声をかける。

 人の良さそうな柔和な表情で皺まみれの手を彼女の頭に乗せ、いい子いい子と遠慮のない愛撫を与える。

 誰が見ても微笑ましい光景。

 何処から見ても、平和な日常を象徴する一場面。

 だが、本当に彼は少女を救う誉れ高い人物なのだろうか。

 よく見れば、彼の細めた目の奥にはどす黒い欲望の光が潜み、薄く開いた口からは興奮のためか荒い息遣いが感じられる。正視すべきではないが彼の下半身に不自然な膨らみがあり、よからぬ企みを計画しているるのは一目瞭然である。

 それでも、やはり彼の行いを責めるものは誰もいない。邪悪なる行いがこれから始められようとしても、それを咎める者はおらず、皆表面上の出来事しか見ていない。

 そして、彼は少女の手を握り何処かへと連れ去っていく。

 その先が光のない陰惨たる場所であることは彼しか知らない。少女の行く末を知るのも彼しかいない。


 これは何処にでもある日常。

 糞ったれな世界の、誰の気にもとめないどうでもいい一幕である。

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