来世と現世と前世 [完]
ある日、かねてより聞いてみたいと思っていた質問を、大神様の暇をみてぶっつけてみた。
「宗教界では、前世の因縁とか、来世に生まれ変わるなどとよく云うようですが、この、前世や来世や現世などについて教えていただけませんか?」
大神様はにっこり笑って答えてくれた。
「確かにそうですね、神が住むのは今だけで、過去も未来もありませんが、人間の生きる世界では、未来を手繰り寄せて今を生き、その今を使い捨てて過去に残すという生き方をしています。
宗教は、その未来を来世と云い、今は現世、過去は前世と呼ぶのです。
だから、これを宗教的に言い換えれば、人は来世を手繰り寄せて現世に生き、現世を使い捨てて前世に残すと云うことになりますから、来世というのは生まれ変わる場所ではなくてこれから行く方向なのです。
また、現世は今であって、今は次々に過去へ送り込まれますから、現世に踏み止まることは絶対にできません。
人々は思いのままに今を使い捨てるのですが、捨てたつもりがゴミになって自分たちの環境を汚し、積もり積もって山になったゴミは、人生の重荷になります。宗教ではこの重荷を因縁といっているのです。」
聞いているうちに目の前がパッと開けたような思いがしたが、更に
「先ほど、神の世界は今だけで、過去や未来の区別はないと云われましたが、そのことをもう少しお聞かせ下さい」
と聞いてみた。
「そこが肝心なところです。
神の世界では、人の一生は一枚の紙に描かれた絵巻物に見えます。
だから、その人の過去や現世はもちろん、未来の選択肢までが順に描かれていて、一目で見られるようになっているのです。
そのうちに、あなたにも見えるようになります。」
「それなら、本人の絵巻物を見れば、今非常に危険な岐路にいて、どちらを選べばその危険を免れるか分かるのですね」
と私。
「だったら、それを早く教えてあげて、助けられるのではありませんか」
「そうですね、だが、それを教えると人間はパニックを起こします。
よく《知らぬが仏》と云いますが、先のことはともかくとして、今は知らないから安心なのです。
それに、未来(来世)は過去(前世)の延長ですから、来世を直すにはその人自身で過去を清算しなければなりません。
過去を放っておいて未来だけ直すということは到底無理な話ですから、神は手出しをしないのです」
「なるほど、それで宿題の意味が分かりかけてきました。
要するに、神が何でもしてくれるではなくて、どう生きれば良いのかを学ぶのが信仰であって、神は、人がそれに気付くのをじっと待っているというわけですね・・・」
大神様は大きくうなずいて
「その通りです。だから神は感傷的になったり、同情したり、その上に口や手を出すことは堅く禁じられているのです。
それは、人間社会に要らぬ混乱を招かないために絶対必要なことなのです。」
「よくわかりました。動物の世界には神様が必要ないように、人間が神になれば、人間社会にも神様は不要になるのですから、それを目標に、私も神様の見習いを頑張ってみます・・・」
この作品は、私が創作したフィクションです。
金集めや宗教や人殺し宗教など、いろんな紛い宗教の続出によって混乱する社会を静めるにはどうしたら良いか、正しい信仰の有り方とはなどと考えながら纏めてみました。
人にはいろんな生き方があって、それぞれに自由ですが、騙されたと知って悔やんでも後の祭りです。
だから、おかしいと思ったら事前に回避しなければいけません。
そのために、この作品が参考になりますようにと祈っています。