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第7話

介護とは、最後の愛の試練です。全て終わった時、あなたは真実の愛に気づくでしょう。


教会付属治療院所属 ウワズ・キミー司祭


「ウ”……ウ"ウ”……ガアッ…アッ……、ッカハーーヒュッ、ッカハーーヒュッ、グッ………ッハーーーヒュッ、ガィッ……………ッハーーーーーヒュッ」


 風呂を作ってから数ヶ月。彼女の叫び声は、段々、段々小さくなってる。


 石化の進行には気付いてたが起きてる時の様子がそう変わらなかったからあまり不安に思っていなかった。つい一ヶ月ほど前までは。


 その頃からだろうか。まず毎朝の叫び声の調子が変わってきた。


 今迄は兎に角叫び倒していた。…正直煩いと思った事も何度かある。勿論思うだけだ。彼女のほうが辛いんだ。


 でも最近は叫ぶというより呻くと言った感じになってきた。


 叫ぶエネルギーを少しでも痛みに耐えるエネルギーに回したいのか、叫ぶとよりいっそう痛くなってしまうからかなのかは解らない。


 どちらにしろモニが無意識でやっていることだ。俺はただ、手を握って頭を撫で続けるしか。


 「グッ………………ッハーーーーーーーヒュッ、ガィッ…………………ッハーーーーーーヒュッ、ア"グッ……………ッハーーーーーーーーヒュッ、ィ”ィ”ィ”ィ”ィ”ィ”ィ” ……………………ッハーーーーーーーーヒュッ」


 落ち着く迄の時間も長くなっている。


 前は宥めると直ぐ落ち着いてくれてた。本当、直ぐにさ。


 でも最近では声を掛け始めてから10分位は呻いている。多い時は30分掛かる時もある。俺はずっと声を掛け続ける。それしか出来ることがないから。


 もっと俺に出来る事があるんじゃないかと思って治癒魔法みたいなものはないかと聞いた。石化の呪いの解呪は出来なくても進行を止めたり遅らせたり位は出来るんじゃって、思って…。


 治癒魔法という物はある、とは言われた。治癒魔法も幾つかの種類があるらしいがその何れもリヴェータ教が独占していて一般人はその手法を知ることが出来ない…。これはリヴェータ教の生命線らしく、例えば他の魔法使いが独自に治癒魔法を開発してもそれを全力で潰しに来るんだそうだ。だからリヴェータ教以外の人間が治癒魔法を習得することは出来ず、出来たとしてもその方法は絶対に広まらない。俺も色々治癒魔法の訓練をしてみたけど…全然うまくいかない。


 なんで…。俺には魔法の才能があると…。


「……………ッハーーーーーーーーヒュッ、…………………ッハーーーーーーーーヒュッ、………………ッハーーーーーーーーヒュッ、……………………ッハーーーーーーーーヒュッ」


 彼女の頭を撫で続ける。ゆっくりと。もう一方の手はお腹を撫でている。今までは手を握っていたのだがもう感覚が全く無いそうだ。それよりは感覚がある所を擦って欲しいと言われた。多少痛みが和らぐようだ。


「大丈夫だよ…………後もう少しで楽になるからね……………」


 恥ずかしがっていてやめていたけどまた声を掛けてる。


 モニの痛みと比べれば俺の恥ずかしさなんて些細な事だから。


 …魔法の訓練といえばだ属性魔法と肉体強化と身体強化以外の訓練は上手くいっている。


 つまり殆ど変わってない。


 訓練は継続しているが目に見えた成長がない。これで打ち止めかと思ってもう辞めようと思ったらモニに叱られた。こういう基礎的な訓練は毎日続けるから意味があるのだと。目に見えて成長がないなんて言うのは当たり前のことだと。それでも、続けることに意味があるのだと。


 訓練出来る事自体が幸せなことなんだと。そう言われた。


 モニが言うからこそ言葉に重みがあり無下には出来ない。


 だから訓練は続けている。少しでもサボったらモニに失礼な気がして。ちゃんと生きている、偉大な彼女に。


 魔力の増加訓練と操作訓練は順調な気がする。


 一日中ナイフを作り続けても魔力が減ることは無くなってしまった。ただナイフの刃先に魔力を集中して加工すると魔力の劇的に減ることに気づいてからは、その方法を使ってナイフを作り続けている。それと一緒に魔力操作の方も上達していると感じる。特にスピードが早くなっている。それになんの意味があるかは分からないが、まぁ魔力を増やすためには丁度いい。


 最近はナイフを使わなくても石が加工出来るようになった。手の爪の先端の部分に魔力を集中させ自分の手がナイフになったイメージを持つと、ゆっくりとではあるが石が削れることに気付いた。それからは自分の手だけで石のナイフを作るようにしている。一日一個作れば魔力が空っ穴になるから最近嵌っている。


「………………ッハーーーーーーーーヒュッ………………ッハーーーーーヒュッハーーーーーー……スーーー…ハーーーーー……スーーーーー」


 …最近は特に訓練するための時間が無い。


 モニの体調が悪くなり始めてモニに時間を割くことが多くなった。


 それ自体は別に苦でもないが、モニの言葉もあるしせっかく今まで続けた訓練も無駄にはしたくない。


 だから試行錯誤して短時間で終わらせることが出来るこの訓練方法を見つけたのは運がよかった。


 彼女はもう…食事も満足にできない。


 もう固形物を余り食べられない。調子が良い時は一口二口食べるが、それ以上はもうどんなに頑張っても無理だ。


 アルゴの実のような果物は絞ってジュースにして飲ませている。このジュースを絞る器具も自作した。親父がレモンサワーを家で作ってる時に見た物だが、メキシコ人の帽子みたいな物を作れば果汁が絞れる。非常にシンプルで効果が高い。何より作り易いのが良かった。


 とはいっても果汁ジュースだけだと体力が無くなるから普通の食事も取って貰う。出汁を取ったスープとじっくりと火を通した鶏肉、野草類をペースト状になるまですり潰す。水っぽいドロドロな状態にして食べて貰っている。もんじゃ焼きの状態だ。味自体は結構好きな味なんだよね。因みにすり潰す為の乳鉢と乳棒は自分で上手く作れた。


 …最近は困ったら取り敢えず自分で作るかって思考になってる。何処でも生き延びる自信はついたかな。


 ん?


 「スーーーーーーーー…スーーーーーーー…スーーーーーー…パチッ」


 モニの目が覚めたか。


 「おはよう。モニ」


 「…………………」


 返事はない。


 俺は、いつもどおり朝食の用意を始める。


 最近は薄く削り出した石の箱を作り川に沈めている。最近暑くなってきたからアルゴの実をその箱に保管しておくと腐らない。川の近くに拠点を構えているからアルゴの実自体は近くの木に沢山なっている。わざわざ捥いで置く必要もないのだがこうしておくとすごく冷える。朝からキンキンのアルゴジュースが楽しめる訳。川の水って意外と冷たいんだな。


 ついでにこの石の箱を他にも幾つか作り鶏肉を保管している。結構長持ちするようだ。このストーンボックスのお陰で我々の食事事情は少し豊かになった。


 アルゴジュースの準備をしている間にごっちゃんこスープが煮立った。勿論こまめにアク取りは忘れない。今日は荒汁風のスープになった。まずいつもどおり山菜と、きのこ類を投入しその後魚を入れている。


 この魚、川の上流の方に生息していることが判明して兎に角必死で捕まえた。最初はモニに教えて貰った糸を使い釣り竿を作った。針の部分は石だ。餌は鶏肉をどろどろに擦り潰してつくねみたいな状態にした。虫でいいじゃんって言われたけどさ、嫌でぇ~っす虫嫌いでぇ~っす。


 しかし釣れなかった。全く釣れなかった。餌が悪かったのだろうか…。


 だから次は罠を試した。前にテレビで見たことがある。鉄◯ダッシュという番組だったかな。竹細工で出来た籠を2重に重ね、一つは底に穴を開け魚が戻らないように返しをつける。もう一つはただの籠だ。もちろん水は抜けるが、魚は抜けない程度の網目にしていた。


 俺はこの罠を試した。もちろん材質は石だ。他の川の流れの部分は堰き止め罠の部分だけ水が流れるようにした。その後反対側から大騒ぎして罠に近づいていく。成果としては大漁だった。


 魚の調理法もモニに教えて貰った。


 とは言っても鱗を剥いで内臓を取り出す位のものだった。それを火で焼き塩を振って食べた。久しぶりの魚料理に感動した。


 こういった感じで定期的に魚を取っている。この魚を使ったスープの出汁が非常に美味い。鶏肉がコンソメ風だとすると魚は味噌汁風というか…。とにかく日本人の俺に合った味付けとなった。


 魚入り山菜のスープはいつもなら塩だけの味付けなのだが今回はジチの実も追加する。これはある木に大量に生っていた2~3ミリ位の黒い実なんだけど、これをすり潰すとコショウのような味になる。いやコショウよりも多少辛味があるだろうか。でもこれを使えば塩コショウの味付けっぽくなった。大体この2つが揃えば味が引き締まる。


さて。味付けが終了したらスープの中の具材を全て取り出しすり鉢に投入。乳棒ですり潰す。時間はかかるがこれでモニ用の食事は完成だ。


 「はい。どーぞ」


 因みにこのスプーンも作り出した。これは木で作った。石で作るとちょっと口触りが気になる。木を削り出したほうが何となく食べる時に違和感が無い。


 「…………………………今日は食べたくない」


 「そっかー…じゃあアルゴジュースは飲む?喉乾いてるでしょ?」


 「味付いているのが嫌だ。水が良い」

 

 「分かった。じゃあ川から水を汲んでくる。少し待ってて」


 俺は川に向かって水を汲みに行く。


 因みにアルゴジュースも魚入り山菜もんじゃもモニの目の前で作っていた。


 俺は川の水を汲んできて彼女の口元に持っていった。


 彼女はそれを一口飲んだ後言った。


 「アタシ冷たいの嫌って言ったじゃん!冷たいの飲むとお腹が痛くなるの!すっごい痛くなるの!」


 「ごめん、ごめん。すっかり忘れてたよ。今から温めて白湯にするね?」


 「何で忘れるの!?あたしの事動どうでもいいって思ってるんでしょ!?どうせ死ぬから!覚えても無駄だって!思ってるんでしょ!!!!」


 「そんなことないよ。そんなことない。ちょっと最近寝不足でさ。朝は頭が働いて無いんだ」


 「あたしのせいってこと!?あたしの世話で寝る時間も無いってことなんでしょ!」


 「いや、違うよ。魔力の増加訓練が最近上手くいっててさ。ついつい夜更かししちゃうんだ。勘違いさせてごめん」


 「…………………………喉乾いた」


 「ん。わかった」


 俺は鍋に水を半分投入し沸騰する迄待つ。熱々の状態だと飲めないのでちょうどいい温度にするため残りの水で温度調整をする。我が姫は繊細なのだ。もちろん料理中は笑顔を絶やさない。真面目な顔をすると「怒ってるんでしょ?」と仰る。我が姫は臣下の気遣いも出来るのだ。


 丁度良い温度になった白湯をモニの口元に持っていく。


 「………ゴクッゴクッゴクッ」


 今度はお気に召した様で、一気に飲み干す。


 「…………………おかわり」


 「はいはい」


 二杯目の白湯も飲み干す。二杯目は一杯目よりも少し熱めにする。ふふ…ここが出来る臣下の腕の見せ所よ。一杯目で慣れた舌に丁度良い温度の筈だ。石田三成先生、貴方の意思はここに受け継がれておりますよ。


 二杯目を飲み干した頃合いを見計らって、声をかける。


 「どう?魚じゃなくて鶏肉なら食べられる?」


 「………………食べる」


 俺は今朝の料理の魚を鶏肉に入れ替えたバージョンを作り直す。


 先程作ったアラ汁風もんじゃは後ほど私めが頂くとしよう。


 一連の調理が再び終わり鶏肉もんじゃをモニに食べさせた後、一息つく。


 「ん~~~~~、今日は結構いい天気だね」


 「…………………」


 「だんだん暖かくなってきたし、やっぱりこっちにも季節ってあるんだね」


 「……………………」


 「でも、花粉が無くて良かったよ。あ、知ってる?花粉症って病気が地球にはあったんだけどさ、春先は大変でもう涙鼻水ダラダラでさ~本当つらいんだから。鼻の無いメリィが羨ましいよ」


 「ギュシッwwwwwwギュシッwwwwww」


 「……………………」


 最近はメリィが良く話に乗ってくれる。モニが構ってくれないから暇なんだろう。まぁ、場が持つから正直助かってるが。


 「そうだ!今日は天気が良いから浮島の端にピクニックに行こう。風景も綺麗だし布団も日干ししたいしさ!」


 「…………………行く」


 「よし!そうと決まれば準備だ準備!メリィ!お前は食料運び係な!」


 「ギュシッ!」


 最近気づいたのだがメリィは結構重量のある物を運べる。


 意外と力持ちなのだ。


 だからストーンボックスにアルゴの実と日干しした魚、山菜類と調味料、あと調理器具類を仕舞いメリィに持たせる。


 俺は敷布団を屋根付きベッドの屋根の上に掛け日干しの準備を終える。


 その後彼女を背負い、川の下流に向かって歩く。


 昔だったら速攻で息切れしてただろうが、今はそんなことは無い。


 頻繁に島を探索したりして体力がついてきた。筋トレもしてるし彼女を背負って歩く位訳無い。


 あと肉体強化だが実は歩くだけなら強化出来るようになった。早く走ることは出来ないし高くジャンプしたりも出来ないから余り上手くいってる訳じゃないだろう。でもまぁ、長く歩き続けることは出来るようになった。…スピードは結構遅くなるが。ただこの肉体強化を使えば、全くと言って良い程疲れない。


 なんかちょっと楽しいな。あそこの風景を見ればモニも少しは気分が晴れる。


 「おっ!変わった鳥発見!」


 「あれ?ここにも魚いたんか!」


 「メリィ隊員!ふらついてるようでありますぞ!」


 「ギュシッ!wwwwギュシッ!wwwww」


 「……………………プッ」


 「…………………ギュッチ」


 お、笑った。久しぶりにモニが笑ったようなきがする。


 あ、最後のやつは俺がメリィの鳴き声を真似ただけだから。


 結構似てると評判だ。細かすぎても通じるっていいよね。


 は~やっぱりこの景色は絶景だ。こんなの地球じゃ見れない。ここに来て良い事の一つだな。


 今日は雲が多い。この浮島の下に敷き詰めるように雲が漂っている。


 雲海…というのだろうか。まるで海みたいだ。他の浮島も見える。大きいのから小さいのまで、様々な島がある。南国の海の景色みたいだな。小島が沢山ある風景と似てる。あれ?なんか城が見えるんだけど。そういうこともあるのか。ほらあそこなんて雲を泳いでる蛇みたいな生き物が見える。あ~いう生き物もいるんだなぁ。


 …ん?あれでかくね?かなり遠くにあるから遠近掴み損ねたが大分遠くだよな。それであの大きさって…。


 「あれはドラゴンよ。ドラゴン族の浮遊種。生まれてから死ぬまでずっと空を漂い続けると言われてるわ」


 「っへー寝る時もってこと?交尾とかどうするんだろう」


 「空を飛びながら交わると言われているわ」


 「そりゃ贅沢な生き物だね」


 「?なんで?」

 

 「ベッドが雲海で天蓋が大空ってことでしょ?豪華な交尾だ」


 「フッ…そうね」


 久しぶりに穏やかな時間だ。


 せっかくだからと昼食の用意を始める。


 薪はそこらで集めてきたものだ。火をつけるのはもう簡単な作業になっている。だって魔法使えるし。


 島の端は風が強いから衝立を用意する。手で削り出すのも慣れ始めた。10分位で風から守るための石の板を削り出した。というより捏ねくり出してるって感じだけど。ま、ちょっと硬い土程度だったからかもしれないがかなり早く出来た。


 さて今回の調理道具はフライパンだ。


 山菜と鳥の油を混ぜて炒める。


 炒めた後、塩、ジチの実で味付けする。


 これをすり潰した後今朝の残りの鶏肉スープの汁と混ぜる。少しおかゆのような感じになったがなかなかイケる。


 「はい、どーぞ」


 「……………モグモグ…………モグモグ」


 うん。今回は気に入ったようだ。


 といっても機嫌が悪い時の時間帯は大体決まっている。朝と夜だ。昼は割と調子が良い時が多い。


 俺も干し魚を囓る。ジチの実があってよかった。魚の保存にも役立つ。今日は魚をどうしても食べたかったからな。やっぱり魚はうまい。


 メリィはアルゴの実を囓っている。奴はこの実が大好物だ。何だったら毎日食べてる。


 三者三様の食事が終わるとみんなしてぼけーっと空からの景色を眺める。


 「上を向いて♪歩こうよ♪、涙が♪こぼれないよ~~~~に…」


 適当に思い出した曲を歌う。別に上手い訳でも無いが、長閑だったからつい口ずさんでしまった。


 「…………初めて聞く歌ね。故郷の歌?」


 「そうそう。俺も少ししか知らないけど悲しい時でも上を向けば涙が溢れないよ、涙を堪えて歩き続けようって曲だったと思う」


 あれ?違ったかな?歌詞をそのまま翻訳した感じになっちゃったか。


 「………………良い曲ね」


 「そうそう、良い曲だから少し聞いただけでも耳に残るんだ」


 「…ねぇ、故郷の歌聞かせてよ」


 「え~~~正直うろ覚えの奴ばっかりだよ?」


 「適当で良い。聞きたいの」


 姫からのご要望だ。お答えしようじゃないか。俺は知ってる曲をずっと歌った。色々知ってる限り歌ってみたが、特にカントリーロードを気に入ったようだ。歌詞の意味まで一つ一つ確かめるお好みっぷりだ。俺は日が暮れるまでこの歌を歌い続けた。モニも少し口ずさんでる。


 日が暮れた後、俺達は拠点に戻る。


 ふかふかになった敷布団をベッドに戻し、モニを布団の上に戻す。


 そこで一旦モニには休んでもらい、俺は風呂の準備をする。


 水を貯めるのが結構重労働なんだ。最近はメリィも手伝ってくれる。大した量運べないと思ってたが俺がリビング用のゴミ箱ぐらいの量を一回で運ぶとしたら、メリィはバケツ一杯分ぐらいの量を運べる。結構…いや、体のサイズから考えればかなりの量を運んでる。俺に当て嵌めたら車一台分の量だからな。だから今となってはメリィ用のバケツを作って渡してある。結構助かる。十分水を貯めファイヤボールで水をお湯に変える。


 丁度良い温度になったので彼女を呼びに戻る。


 「ア"ア"ッッッッ!!!イ"タ"イ"ッ!!イ"タ"イ"ッ!イ"タ"イ"ッ!イ"タ"イ"ヨ"~~~~!ウウウ~~~!イタイイタイイタイイタイイタイイタイ!イタイ~~~~!イタイ~~~~!」


 発作だ。


 今迄は朝しか無かった発作が、今は夜にも起こるようになった。


 本当につい最近の話だ。しかも起きてる時に発作が起こる。今迄は寝ている時に起きていたから耐えていられたんだと思う。この発作が始まってからどんどん窶れていって…。


 「大丈夫……落ち着いて…ゆっくり深呼吸するんだ…」


 俺は彼女の頭とお腹を撫でながら、落ち着かせる。


 「大丈夫!?大丈夫じゃない!痛いの!痛いのぉ!なんとかしてよ!大丈夫なんでしょ!」


 「そうだね。ごめん…。適当なこと言って…。でも、心配で。何か出来ないかなって」


 「はぁ!?なにそれ!適当なこと言ってたわけ!?ぜんぜん大丈夫じぃぃぃぃ!大丈夫じゃないじゃん!痛い!」


 「ごめん。ごめんね……」


 「嘘ばっかり!!!あたしは所詮他人だもんね!!!どんなに苦しんでてもショーには関係ないもんね!!」


 「そんなことない。モニが苦しいと、俺も辛いよ」


 「お前は痛くないだろ!!痛く!ないだろうがよ!!!何が辛いんだよ!!」


 「………………………」


 「あたしは!!痛いの!!すっごいすっごい痛いの!!痛いんだよ!!!!」


 「……………………」


 「あ”~~~~~~~痛い痛い痛い痛い痛い!!!痛い!!どうにかしてよ!!」


 「……………」


 「痛い~~~~~!!う”~~~~~~!痛い~~~~~~~!痛い~~~~~~~!痛い~~~~~~~~~~~~!!!!う”う”う”~~~~~~~!!!!」


 「う”う”~~~~~~~う”う”~~~~~~~う”う”~~~~~~~」


 「…なぁ、やっぱりヴィドフニルに行こう。なんとしてでもリヴェータ教の奴に呪いを解呪してもらおう。俺も強くなったし、モニを連れて逃げるくらい出来るさ」


 「う”う”~~~~~~~う”う”~~~~~~~う”う”~~~~~~~」


 「ナガルス族のことを話さなきゃいけないんだったら、話しちゃおう。モニがこんなに苦しむことなんてないじゃないか」


 「う”う”~~~~~~~……………それは、だめ!絶対、だめ!」


 「なんでだよ!!何でモニだけが苦しまなきゃいけないんだ!!おかしいだろ!!」


 「だめ!!絶対に!だめよ!…だめだから。…大丈夫。しばらく我慢すれば収まるから」


 涙を流しながら言ったって説得力はない。絶対に大丈夫じゃないんだ。理由も分からず、俺も泣いてしまう。


 彼女に毎晩なじられていると、涙が出て挫けそうになる。


 「う”う”~~~~~~~……ふぅ~~~~~~~、う”う”~~~~~~~……ふぅ~~~~~~~」


 どうやら落ち着いてきたようだ。ここからしばらく待てば、痛みが引いてくるようだ。


 「ふぅ~~~~~~~、ふぅ~~~~~~~、ふぅ~~~~~~~、ふぅ~~~~~~~………………」


 「……………………………」


 「スーーーーーーー、ハーーーーーーーーーー、スーーーーーー、ハーーーーーーーーーー」


 「…………………………」


 「…………………」


 「…お風呂、入ろうか」


 「…うん…」


 すっかりぬるくなってしまったお湯に、もう一度ファイヤボールを放り投げる。今度は少し熱めにしよう。体を動かしたから、大分体温が上がってるはずだ。ぬるい温度じゃ温まった気にならないだろう。


 十分温かい温度になってから、彼女を風呂に入れる。


 彼女の体をカラシの実で十分に洗っていく。さっき運動をしたからか少しベタついている。体を洗いながら石化してない部分をゆっくりとマッサージしていく。気持ちよさそうだ。


 彼女は気持ち良い時、口を半開きにして少しパクパクする。


 鯉みたいだ。そこが少し可愛い。


 次は頭を洗う。カラシの実で洗うと髪がゴワゴワしちゃうのよね、と言っていた。やはりモニにも女の子の部分があるんだなぁと感慨深かった思い出がある。


 でも髪を洗っている時はどうやら気持ちいいようで、やはり目を瞑って口をパクパクさせている。


 「……ごめんね。……さっき言ったこと本心じゃないから…………」


 「大丈夫だって。最初から信じてないからさ」


 「……………ありがと」


 これだけで気分が良くなってしまう。


 俺ってチョロいなぁ~~~。


 でも。


 彼女の頭を洗っていて気付いてしまうことがある。


 彼女の後頭部、首に近い部分。少し石化が始まっている。本当に一部分だけ斑に石化してる部分がある。この部分が石化し始めてから彼女が怒りっぽくった気がする。


 なんというか、感情の起伏が激しくなったというか。モニが、モニでなくなったというか。


 いや、モニはモニだ。これは病気なんだ。病気にかかった後の性格がその人の全てじゃない。

 

 例え変わってしまったとしても俺はモニを見捨てることはしない。


 最後までずっといる。最後まで…。


 …なんとか。


 なんとかモニを救う方法はないのか。…くそ…。


 呪いを解く方法は?治癒魔術の訓練を今から始めるか。……いや属性魔法が全然上達しない今じゃ無理なんじゃないか。そもそも治癒魔術は水の属性魔法から派生しているらしい。火、土、風については少なくとも発動できるレベルにはなったが、水だけは殆ど発動していない。全然上手くいかない。


 そもそもモニの意識があるうちにヴィドフニルに辿り着けるのか?俺達は歩いて向かっているわけじゃない。この浮島の進むスピード以上の速さは出ない。全てが終わって辿り着いたとして、一体何の意味があるのか?


 「ねぇ、ショウ」


 「ん?」


 「たぶんね、ショウがヴィドフニルにつくまで私は持たないわ」


 「…………」


 「多分全部石化しちゃう」


 「…………なんとかしてみせるよ」


 「ふふ……子供みたいね。ショーは」


 「…………」


 「もし、ヴィドフニルに行ったとしても、私のことは人間達に黙っててほしいの。あいつらは何するか解らないから」


 「…………モニがそう言うなら、人間には絶対言わないよ」


 「ありがとう、ショウ。ショウはやっぱり優しいね」


 「………紳士だからね」


 「フフ……ショウ、好き。大好き」


 「……俺も好きだよ。愛してる」


 「うふふ……私達相思相愛だったのね」


 「あぁ…知らなかったよ」


 「……嘘つき」


 愛してるなんてセリフ、人生で絶対に言わないと思ってた。


 好きとか、大好きとかそんな言葉は言えたかもしれない。


 でも、愛してるって言うことはないと思っていた。


 でも、多分、これが一番正しい言葉なんだ。


 俺達はその日初めて一緒に寝た。


 彼女は殆どが石化してるから、思春期の男女らしいことはキスしかできなかったけど、それでも俺は幸せだった。


 「ショー、ありがとう。ありがとう。あたし、幸せだわ。こんなに幸せでいいのかっていうくらい幸せ」


 「ショー、強く抱きしめてくれる?好きな人に抱きしめられて眠るのが憧れだったの」


 「ショー、さっき歌ってくれたあの曲歌ってくれない。あの歌で眠りたい」


 「ショー、歌い疲れたら私のおでこにキスをして?優しく、何回もして?」


 「ショー、思い出した時でいい、好きって言って」


 「ショー、・・・・・・・・」


 「ショー、・・・・・」


 「ショー、・・・」


 彼女が眠りにつくその時まで、彼女の願いを叶え続けた。


 偶然だったのだろうか。彼女の願いは全て俺の願いと同じだった。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 次の日の朝から彼女は叫び声を上げなくなった。


 石化は進んでいる。ゆっくりと、確実に。ただ、脳まで進行してしまったのだろうか。


 彼女は俺のことを忘れてしまっていた。



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