第6話
人間のすべての愚かな行動は、恐怖心から生み出されるものなのです。
ルキウス・アンナエウス・セネカ
「ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーーー!!!!!ア”ーーーーーーーー!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーー!!!!!!」
彼女は毎朝、…辛そうだ。
石化の進行に気づいてから、もう数ヶ月。最初は手首と肘の間辺りまでだったのに、今は肩口の手前まで石化が進んでる。
石化は俺と会った時から徐々に進んでたんだ。ただ、俺が気付かなかっただけだ。
…いつも通り彼女の手を握り、頭を撫で続けることしか出来ない。何も出来ない。
俺は本当に糞ったれだ。
「ア”ーーーーーーー!!!!!!ア”ーーーーーーーー!!!!!ウ”ア”ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
毎朝の叫び声は…、段々酷くなっている。
「ア”ァ”ーーーーーーーーーー………………………、moniche……moni…che, moniche……moniche……………、 スーーーーー、スーーーーーー、スーーーーーー」
やっと安らかに寝息を立てるようになった。今日は…少し早かったな。この瞬間が一番好きだ。安心する。
結局monicheの意味は教えて貰ってない。
フッフッ…我慢できなくなって誰の名前なのか前に聞いたんだっけな。
Monicheなんて何処で聞いたんだと聞かれたから、毎朝君が寝言で言っているって言ったらムスッとした顔しちゃって…。あの顔もそんな嫌いじゃなかったんだな。最近はこの顔しなかったから分からなかったよ。
んで、根気強く待ったら「人の名前じゃない…」と言ったきり黙っちゃって。
俺は何故かほっとしつつ更に気になり、「誰のことなの?」とか「誰かのことを呼んでいたよね?」としつこく聞いちゃったんだよね。あぁ~何であんなこと…。
モニは案の定「うるさい!!しつこいのよ!」と怒ってさ。しばらく口を聞いてくれなかったなぁ…。
まぁ…しょうがない。話したくないことなんて誰だってあるさ。
…俺にだけは話してくれるんじゃないかって思っていたけど。
あ、モニの目が覚めた。
「おはよう。ショー」
「おはよう。モニ」
今は話すだけだったら流暢に話せる様になれた。モニと出会ってから半年は経っているか。もう俺の持っているノートは書く所がない。びっしりと訳とメモで埋まっている。ここまで真剣に何かを勉強したことは初めてかもしれない。
そろそろ朝ごはんの準備をするか。
今日は温かいスープ…の様な物を作ろう。
島中を探索したら岩塩らしきものがあったし、食べられる野草やきのこもかなりある。俺達の食卓は森の幸を中心に大分豊かで俺の料理の腕も上がった。
もうちょっと料理の事知ってりゃもっとマシなものを作れたんだろうけど。
俺って本当日本にいる時何も手伝ってなかったんだな…。
あとこの島には基本的に四足の動物はいないけど鳥類が結構いるのは驚いた。俺とモニ以外生き物はいないと思ってたからな。ハエとかはいるけど。
それで鳥の中で食いでがありそうなものを結構狩った。
結構簡単に狩れたのはありがたかった。最初は投げナイフで狩ろうとしたんだよな。ナイフの加工が趣味になってからナイフが結構大量に出来ちゃって。
このナイフを消費するため投げナイフをしたのが始まりだっけ。色々やってたら食材確保に利用できたのは、まぁ良かった。
そんな素人に簡単に出来る訳ねぇ!と思ってたけどね。
まぁ出来たは出来たよ。この島の鳥は人間に会った事が無いから人間が近づいても逃げない。2~3メートルの距離に近づいてもボケーッとしてる。
そこを魔力によるナイフの強化+鍛え抜かれたボディで全力で投げると見事ぶち抜くって寸法さ。
一度あまりに逃げなさすぎるからまさか…と思いゆっくりと鳥に近づいたら、捕まえられた。あの時のメリィの顔が未だに脳裏に浮かぶ。
なんであんなムカつく顔ができるんだろう。親の顔が見てみたいわ。
まぁ結局投げナイフじゃなくても良かったわけだが。悔しいから一応鍛錬は続けてる。遠くからの攻撃手段があれば何やかんや役立ちそうだし。
それより解体のほうがきつかったわ。正直初めてやったときはダメダメだったな。
血抜きもせずモニに「狩ったよ!今日は鶏鍋だ!」なんて言って…あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”。
今なら分かる。あの時モニの笑顔は引きつっていた。
結局厳しい先生の指導のお陰で滑らかに解体が出来るようになったんだから…よしだよな。食卓に鶏肉が追加されるようにもなったんだし。
乾燥したきのこと鳥の骨の出汁取りは終わったか。あとは、春菊やほうれん草に似ている野草と狩ってきた鶏肉を入れじっくりコトコト煮るだけ。
あ、アク取りと最後の塩の味付けは忘れないようにしなきゃ。
自分で言うのもなんだが、なかなか良く出来ている…よな?…うん、おいしい。自分で料理したからか?結構悪くないんじゃない?偶に彼女が食べきれない時もあるけど、大体俺が食べちゃう。だって美味しいし。…美味しいよね?不味いから残したんじゃないよね?
そういや家でも不思議だったんだよね。母さんの料理は不味くなかったしむしろ美味しかった。でも人気不人気は出てくる。煮物とか佃煮系だ。別に不味くないんだけど態々食べないかなっていうやつ。
そういった残り物を母さんはメインのおかずにして食べてた。正直残り物を食べさせているようで気分が悪かった。まずいから残ってるわけだし…それはもう捨ててみんなが食べてるやつを一緒に食べようやって…。
でも今ならちょっとわかる。自分が苦労して作ったものだ。どんなものでも美味い。実際に自分が味見して良しって思ったものでも残されると、まぁ辛いよね。地味に傷つく。だから残ったものは基本俺が食べるようになった。
モニは体調の関係もあってどうしても食べられない日が出てくる。そんなときは俺が全部食べてる。
…もしもう一度だけ母さんのご飯を食べれるなら全部食べる。残さず全部。
まぁそんなことはないんだろうけど。後悔先に立たずか…。昔の人は上手い事言うもんだな…。
あ、最初きのこはやばいんじゃないかと思ってたんだがメリィがここで役立った。
メリィはこの島の主と言っていい程この島については何でも知っている。いや実際に主らしい。モニはこの島の妖精かもとか言ってたな。こういった浮島には主のようなものがいる場合があるらしい。モニも初めて会った時はそんな事ないと思ってた言ってたし、珍しいもんなんだろう。
因みにモニとメリィが出会ったのが俺と出会った2日前だったって。それにしちゃ態度違いすぎませんかねぇ…。
「あ~おいし~~~~。ショーは料理がどんどん上手くなるねぇ」
「家の母親の見よう見まねだけどな」
「異世界にあるっていう故郷の話だっけ?」
「そうそう。それに学校の授業とかでも基本的な料理は習ったからね」
「…やっぱり故郷に帰りたいよね…」
「ん?あぁ故郷に帰るのは正直諦めてるんだ。なんとなくもう帰れないんじゃないかなって気がしてる。まぁもう少し学校できちんと勉強してれば良かったかなとは思ってるけど」
「ねぇねぇ、その学校のさぁ・・・」
俺が異世界から来たということを彼女には話してある。意外とすんなり信じてくれた。
俺みたいな、稀人?とか迷い人?と呼ばれる人間は昔から偶にではあるがいたらしい。最近では昔よりも頻繁に見つかっているんだと。恐らく時代が進んできたから、俺達のような人間に対しての差別や偏見が無くなってきて初動で殺されることが失くなったのだろうとモニは言っていた。
そのことを話してからか地球の事についてかなり興味を持っているようだ。俺がこの世界について聞いているのと同じくらい地球について聞いてくる。それに社会の教科書(世界史)を持っていたのが運の尽きだった。
彼女の好奇心に火をつけてしまったようだ。
日本と外国との政治情勢まで詳しくなってしまった。俺も彼女に説明するために毎晩予習復習したもんだ。学校にいた時より勉強してるぅ…。
別にそんな嫌じゃないけど。
社会の教科書を見ながら、日本語を勉強したいと言ってきた時は驚いた。
すごいガッツがあるんだなって。前向きだなって思った。
…だって…石化が進んでいて先がない筈なのに、まだ新しいことをしようとしているのに驚いたんだ。思いがけず聞いてしまった。
「そんな、そんな勉強することないじゃん。もう、その、モニは…。モニを苦しめる人なんていないんだから、辛いことなんてしなくたってさ…」
「んー、そう、まぁ、なんで私もこんな事してんのか良く分かんないんだよね」
「…でも、ある人が。例え死ぬことが分かってても少しでも前に進むべきだって。今進まないのなら生まれてからずっと進んできたことにも意味がなくなるだろう?って言ってたんだ。だって、私達は生まれた時に死ぬことは決まってるんだからって。死ぬ事が分かっていて前に進まないのなら、生まれた時から前に進んで居ない筈だろうって。」
「…そうだけど、そうだけどさ」
「変な顔しないでよー、笑える。ま、私もそこまで達観出来てるわけじゃないんだけど、なんか、それが頭に残っててね」
「…」
「それにショーの世界のこと知れるのは楽しい。うん、結構、今迄で一番楽しいかも。だから別に辛くない。楽しいから。ん?楽しいことをやってるってことは、別に前に進んでるってわけじゃない…?やべどうしよ…」
なんというか、モニとか多分この世界の人達って生きるってことに真摯な気がする。自分は…ここでもまだ嫌なことから逃げる思考だったのか。もっと。もっとちゃんと生きなきゃいけない。
…出来れば彼女みたいに。
だからそんな彼女に敬意を示して、簡単な単語から教えている。
ただこちらの聞きたい事も沢山教えてくれた。
この世界はまだ工業化とかはされてない。基本的に人の手で物を作り生産している。ただこういった職業の一つに地球にない特殊なやり方もある。
例えば、様々な素材を集める仕事として冒険者といった職業があるらしい。これは地球にない職業だ。いや、狩人とか日雇い労働者みたいな感じが正しいか?
魔物と呼ばれる動物を狩り、薬草と呼ばれる植物を集め、危険を顧みず依頼をこなす者達。冒険者。
この職業は基本的に来る者拒まずで誰にも仕事を与え身分も保証してくれるらしい。
もしこの世界で生きるのなら最初はその仕事につくのがいい。と言われた。
俺にそんなこと出来るかな?とも思ったが、モニによれば俺の身体能力と体の丈夫さを合わせればかなり高レベルの冒険者になれるはず。とのことだ。少し自信がでた。
この浮島から脱出する方法も教えてもらった。
この世界にはヴィドフニルの傘と呼ばれる大きな大きな木がハルダニヤ国にあるらしい。
天高くそびえ山脈と見間違うような太い根を国中に伸ばし、生命の樹とか大地の歴史とも呼ばれている。
大陸の何処にいても見える程の巨大さに、ヴィドフニルの傘と呼ばれるようになったとか。
それならハルダニヤの傘じゃないのかと思って聞いたら、「あいつらには、自然とそういう傲慢さが出るんだよね」と苦々しげに言っていた。
自分達の大陸の木に、自らの大陸の名を冠するのではなく世界の名を付ける。そこに傲慢さがあると言っているのだろう。
世界中に存在する浮島はこのヴィドフニルノ傘に向かうものがある。そしてその大樹に数日~数ヶ月滞在しまた世界中を漂うのだとか。大樹での滞空期間は、大きい浮島ほど長く小さい浮島ほど短い。但しその分、大きい浮島のほうが大樹に向かう頻度が少なく小さい浮島のほうが多い。この浮島の大きさだったら一年に一回位だろうといっていた。
俺の能力なら浮島の高さの枝から伝って降りるのも問題ないだろうと教えてくれた。
「ヴィドフニルに行けるならモニの呪いもリヴェータ教の人に解いて貰えるんじゃ?」
「…いや、無理だと思う。そもそも呪いを解く手段があるのかどうか…。それにナガルス種族全体が人間種に差別されているの。私をその国で連れ回したらそれだけであなたが危険になる。私は何も出来ないし。まぁ、直ぐに攫われるか殺されるかね」
「…」
「他にもある。ごく少数だけどナガルス族もヴィドフニルにいるわ。…奴隷としてね。私が誰かの奴隷って事にすればヴィドフニルで活動する事は出来るかもしれないけど…私は奴隷制そのものが嫌いだからね。やっぱりこれも無しだわ」
「じゃ、じゃあ、取り敢えず俺の奴隷ってことにすればいい。口でそう言っておけばわざわざ確認してくる奴も少ないだろ?呪いを解いたら別の大陸に逃げれば…」
「それは、嫌」
「別に本当の奴隷になるわけじゃない。それっぽい格好して、解呪まで誤魔化せればいいじゃないか。後は逃げてしまえばいいじゃん。」
「それでも、嫌なの。たとえ形だけでも。スパイのためだとしても、奴隷は嫌。奴隷になるのも、奴隷を持つのもね。私達に上下の差なんてないわ。人が人を隷属して、強制的に命令を聞かせて、そこに生まれるものは何?信頼や愛が芽生えるとでも?憎しみと恨みと諦めしか残らないわ」
「で、でも、奴隷を大切にする人もいるんだろ?優しくしてあげれば奴隷だって主人のことを信頼するかもしれないじゃないか」
「優しくしてあげる?随分と上から目線なのね?人が人に優しくしたり誠意を持って接するのは当然のこと。奴隷だろうが貴族だろうがそれは一緒よ。奴隷なのに優しくしてあげたから信頼してくれるなんて奴隷を持つ者の傲慢に過ぎないわ。一度でも奴隷になればその気持はわかる。…ショーもやっぱり人間なのね。奴隷制に賛成なんだ」
「ち、違う!俺だって奴隷制は嫌いだし奴隷なんか持ちたくない。でも、どうにかしてヴィドフニルに行かないと石化の呪いが解けないじゃないか!!」
モニに軽蔑されそうになったからか、自分が理解していなかった性根を指摘されてからか。つい声を荒げてしまった。こんな責めるように言うつもりは無かったんだ。
「…ありがとう。でもね、私がこうなったのは私のせいよ。他の誰のせいでもない。それにリヴェータ教の人間に解呪してもらったら結局また捕まって拷問されちゃう。奴らは私達ナガルス族の情報を取ろうとしてるのよ。だから貴方が気にする必要はないから」
「気にするって!モニは俺の命を助けてくれた!だから俺もモニを助ける!だからそんなこと言うなよ!」
そんな風に微笑まないでくれ。嬉しそうに…諦めたように俺を見るのはやめてくれ。
「…ありがとう。でもショーは私に沢山のものをくれたわ。命を救って貰う以上のことよ。だから私はもういいの」
「よくない!命が助かる以上のことなんてない!俺が勝手に言ったことだけど、でも、でも!必ず助けるって言ったじゃないか!」
「…そうねぇ~~、確かに言ってくれたわ。「モニ…君のことを必ず助けるから…、助けるからね」って。手をしっかりと握りしめて、頭を優しく撫でながら…」
…ッぐぅぅぅぅぅ…!
これが最近モニを宥めるときに喋らなくなった理由だよ。
前に一度いつも通りに朝彼女を落ち着かせていた事がある。
ただその時は一度彼女が落ち着いた後もずっと声をかけ続けていた。叫び声がすごく辛そうだったのもあるし落ち着いた後もポロポロ泣いていたから。
表情が段々穏やかになってもう大丈夫かな?って思ったらモニの体が震え始めてた。え?何かの発作か?と心配していたら。心配してあげていたら!「プッ…ククッ……プフッ」…なんと笑いをこらえていやがった。
「…起きてるよな、モニ」
「……ップク………グ~~~、グ~~~~」
「………」
「(チラッ)………ッウウ~~~~、…イタイ~~~~」
「イタイ~~~~…、ツライヨ~~~…、(チラッ)…ウ…ウウ~~~~…」
いつもそんな風に呻いてねぇだろ。
「イタイヨ~~~~、ダレカに優しく「君のことを助けるから…」って言われたいよ~~~」
「………」
「「モニ…君を一生守って見せる」って言われたいよ~~~、…グ~~~~」
「………」
「「モニ…、君は俺の太陽だ…」って言われ」
「言ってないだろ!そんなこと!捏造するな!」
「ブフッフッフッアッヒャッヒャッヒャ~~~~」
まぁそんなこんなでとんでもなく恥ずかしかったからそれ以降声は掛けていない。
…ただ偶にどうしてもモニが起きない時がある。いや絶対に起きてる筈なんだけど目を開けない。そういう時はしょうがなく声をかけてる。…もちろんしょうがなくだ。
しかし困ったのは味を占めたのか度々モニは俺に思い出させる。恥ずかしいセリフを。
しかもびびったのはバレたと思ってた時以外に掛けてたセリフも知っているようだ。…だ、大分前からバレてたんでしゅか…。
はぁ…まぁいいよ。別に気にしてネーし。それに訓練の方も順調だし。
恐らくヴィドフニルに着いたら冒険者をする事になる。実践的な戦いも自分なりに意識して訓練してるからか結構上手くいっている。
まずは魔力の増加訓練。これはすごく順調。うん。問題ないな。
一日中何かを削っていても魔力が途切れる事は無くなったし、物に魔力を流すという点でのみだが魔力の操作も上手くなってきた様な気がする。
あ、そうだ。その過程で気付いたんだけど石のナイフ全体に魔力を流すよりもナイフの刃先に魔力を集中したほうが切れ味が上がる。ただしその分ナイフの耐久性は下がるようで結構すぐ壊れてしまう事がある。剣とかナイフとか常に身につけておくような物にはこの魔力操作は適さないかもしれない。
ただ、投げナイフのように一回での使いきりを想定しているものにはかなり効果が有るんじゃないか?この方法で魔力を流してナイフを投げれば、木の表面で止まっていた程度の威力だったものが木の中程までめり込む。調子がいい日は貫通するときもある位だ。しかも壊れたとしてもそこらの石で作る投げナイフだから問題ない。良い飛び道具が手に入った。
そう。投げナイフ自体にも色々拘ってみた。手裏剣の様な物の方が投げ易いかと思い作ってみた。確かに投げ易くなったしどんな体勢からでもある程度の命中率が上がった。かなり良かったんだけど魔力を流すのが難しかったんだよな。多分複雑な形より単純な形の方が魔力を流し易く操作し易い様な気がする。あと耐久性も下がった。
他の形状も試してみた。CDみたいな円盤状とかダーツタイプ、針のような長い串みたいな物。大体俺のロマンを形にしただけなんだが。結局軌道が直線でなかったり、耐久力が脆すぎたり、取扱いが悪すぎたり余り良ろしく無かったな。やはりナイフのような形状が一番いいみたいだ。シンプルイズベストなんだろうか。なんやかんやで他の事にも使えたりするしね。
身体能力と体自体の強化魔法は…ぼちぼちか。体全体に魔力を覆わせ身体自体を頑丈にする方法はかなり上達してきてるって気はする…んだけど自分では実感が湧かない。モニが言うには相当の強度を誇っている筈だと言っていたのを鵜呑みにしているだけだ。
だって身体能力の強化が思うようにいってないんだもん。体が丈夫になっても自分程度の筋力では破壊力に違いが出た実感はないし成長してる感じが余り無いんだよなぁ…。
ぶっちゃけ身体能力の強化はかなり難しい。一部の筋肉の強化は出来るけどそれを連動させるのが難しい。身体能力を魔法で上昇させる訓練は続けるけどそれよりも体を鍛えたほうが効果があるような気さえするわ。
まぁ日々の探索と介護で体は鍛えられてる気がするし態々筋トレもしなくていいかな…うん。
属性魔法の訓練は…上手く行ってない。まぁ上手くいかない。
一応、火、風、土については使えるようになったけど使えるようになっただけだ。火についてはバレーボール大の火の玉を生み出すことが出来たが、そこから大きくすることは出来なかった。しかもこれ飛ばせないのだ。ヤム◯ャの繰気弾のように手のひらの上で浮かんでるだけ。繰気出来ないときた。
風魔法はそよ風程度の風は起こせる。大体ドライヤー位の勢いだ。つまり右手に火、左手に風で…ドライヤーが出来た…。戦闘には全然使えなかったがモニが絶賛していた。魔法で敵を倒すより百倍の価値があるそうだ。嬉しくないんですけどぉ…。
土魔法については微妙だ。少なくとも手から土が出ることはないしそこらにある土を操ることも出来ない。ただナイフを作っている時に土の属性魔法が発動していると言われた。ただ、土属性の魔法には詳しくないから良く分からないと言っていた。ふむ…分からん。
あ、水魔法は殆どできない。掌がしっとりする位かな。
メリィは最近大人しい。ククク…。実は最近メリィの奴を捕まえられるようになってきたんだ。とは言っても5回に3回は失敗する。でも2回は成功する訳だ。メリィも40%の確率は無視出来ないようだ。俺を馬鹿にするにも細心の注意を払ってやがる。
どうやら魔力という物には薄さがある。これは魔力が粒子だとしたら数が多い少ないという意味での濃度の事を言っているのではない。なんというか…魔力の存在みたいな物を薄くしたり濃くしたりすることが出来る。
丹田の部分にどうやら門のような物がありそこから魔力が来ているという事が何となく感覚的に理解できる。この門のようなものを掌に移動しそこの魔力を一部向こう側へやる。そうすると魔力の存在を薄く出来る…感じ?
これを奴の魔力の薄さに合わせてやると捕まえることが出来る。モニはこれを見て驚いていたがメリィはもっと驚いていた。「え…?また…?」みたいな顔をしていた。傑作。
島の探索の方でも成果があったんだった。
なんと、綿の様な物が着いてる花?らしき物を見つけた。これを見つけた時は大分テンションが上がったね。発見して早速大量に集めた。集めた綿を彼女のベッドに敷き詰めて落ち葉の代わりにした。ただこれだと小さい綿が舞ってしまって居心地悪そうなのでクッションを作ることにした。つまり敷布団だな。
そのためには糸を作る必要があったのだがそこはモニが教えてくれた。長い茎を持つ植物の皮を剥がして細い糸みたいなものを作る。これを2本合わせて撚ることで一本の長い糸が出来る。これをさらに半分に折り撚った方向と別の方向に捻ることで丈夫な糸というか紐が出来た。
この紐を俺が作った大きめの針を使って布を縫い留めるのに使えた。モニの下に引いていた布を使って大きめの袋のような物を作りそこに綿を詰めて最後に糸で口を閉める。これでふかふかの敷布団の完成だ。底にモニを寝かせたら「ふぁ……」とうっとりした声を出しすぐ寝てしまった。
翌朝、あんな気持ちいいベッドは初めて、ショーは最高だって。…ま、悪くないよね。
それと念願の風呂である。
やっと完成した。窪みをやっと削り出せたのだ。
いやー、大変だったね、マジで。モニが入りやすいようになだらかな傾きのある背もたれを作ったよ。介護のCMかなんかでこんな風呂があったような気がしたからさ。
木で削り出した大きめのバケツを使い水を大量に入れてゆく。たっぷりと入った水に魔法の火の玉を投入。大体6個程投入した時点でいい具合の温度になった。この作業を興味深そうにモニは眺めていた。
実は風呂を作っていることはずっと隠していたんだよね。出来てからのお楽しみだと言い続けてさぁ。最初は何だと見ていたモニも裸にひん剥かれた時点で自分が中に入れられるのだと気づいた。「え…ちょっとやめてよ。これアタシが入るの?川で良くない?ぬるいと気持ち悪くない?」って言ってたっけなぁ。
どうやらナガルス族では風呂という文化は無かったようだ。水は貴重らしい。構わず入れると「おっほぉ…ぉ…ぉぉ……」と親父みたいな声を出し暫く固まった後、また変な声を挙げてた。マッサージしながら体と髪を洗ってやると何と寝息を立て始めた。
えぇ…流石に川の水浴びじゃこんなんなんなかったけどさ。それにしたって…。
のぼせない程度に待ってやった後いつもの様に着替えさせていたら、こんな堕落するようなものを知っているなんてショーは悪魔だ。最低。と言われた。えー…じゃあもうやらないよ…と言ったらそれこそ悪魔の所業でしょ!やっぱり最低じゃない!との仰っしゃりよう。俺は世の理不尽を学ぶことが出来ました。すぅいませぇんでぇしたぁ~~。
この時から毎日の風呂が日課となった。風呂に入ると気が緩むのだろうか。色々とお互い他愛もない話をした。
子供の頃遊んだ遊びとか家族の話。好きな食べ物…学校では余り友達がいなかったことも話した。これは自分が地球から来たことを話すより勇気が必要だった。
でも何となく自分が悪かったから友達が出来なかったんじゃないかということも話した。彼女はずっと黙って聞いてくれた後「私も、友達居なかった」と言った。
居なかったと言ってくれたことが少し照れ臭さかった。一日の中でこの時間が一番の楽しみだ。時間がゆっくりと過ぎていくのが分かる。
ただ、彼女の石化は進んでいた。ゆっくりではあるが、確実に進んでいた。