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第15話

四、冒険者は依頼を二回連続未達成とした時、冒険者たる資格を失う

冒険者十番通則 四項



 「おーい!こっちだ!こっち!ショー!」


 「あ!お早う御座います!ガルーザさん!」


 「時間より早いじゃないか。時間にキッチリしてるのはいいことだ、冒険者としてね。」


 「男としては最低だがな。いつも時間にうるさくネチネチとしみったれた奴だ。お前は。」


 「アンナ!!君がいつも遅れてくるからだろう!護衛依頼に遅れてくるっていうのはどういう了見なんだい?」


 「うるさい!私には私のルールが有るんだ!!それが終わるまで戦いに向かうことはできん!!」


 「なんだよそれ…」


 「あ、あの、家長級冒険者のショーです。今日はよろしくお願いします!!」


 「うむ。気持ちのいい挨拶だ。ちゃんと挨拶ができればそれだけで信頼に値するからな。私は、アンナ・ハーロック。そこのしみったれと同じパーティーを組んでいる。私がリーダーだ。」


 「おい!!いつリーダーになったんだよ!リーダーは僕だろ!?」


 「他のパーティーや依頼者、ギルドとの交渉を言ってに担っている。もう私が実質的なリーダーだろう。」


 「ぜ、全体の方針とか…、あ、あと儲け話を持ってくるのは僕だろう。それにパーティーの財布を管理してるのも僕だ。君じゃくだらないことばっかりに使うからね!」


 「ふん。時間の次は金か。ますますしみったれた男だ。こんな男にパーティーの未来を任せていいものなのか…」


 「いいんだよ!!お金は大事なんだからね!!ねぇ!そう思うだろ?!ショー君!」


 「え、あぁ、そうですね。お金は大事ですね…」


 「はいはい。そこら辺にしましょーよ。ショーくんが困ってますよ。いいじゃないですか。どっちがリーダーでも。私は、ミジィ・イリスタム。リヴェータ教の助祭をやってます。冒険者も兼任してますがね。それとこの子は愛しの蛇のマナリアちゃん。よろしくね。」


 蛇かよ…。何だよリヴェータ教は必ずペット飼わなきゃいけない掟でもあんのかよ。


 「冒険者と兼任?助祭をやっているような人がどうして冒険者なんて…?」


 「あー…まぁ、派遣と言うか兼任と言うか。リヴェータ教と冒険者ギルドはある種契約をしていてね。こういう風に冒険者の補助や回復役として派遣される代わりに、ほぼ無償で修道院関係の依頼を優先的に受けてくれるんだよ。」


 「あぁ!あれってそういう契約だったんですか!読み書きを教えてくれるっていうのが報酬だと思ってました。」


 「お!ショーくんも受けてくれたの?あれはね~、読み書きなんて冒険者にとってそんなに価値が無いんです。ぶっちゃけほとんどの冒険者は真面目に勉強しなくて。でも、これをやらないとギルドからの評価が下がるわけじゃないけど悪くなるからって。皆さん嫌々やってるんですよ。」


 「そうだったんですか…。もったいないですね…。」


 「私もそう思いますよ。読み書きは出来たほうがいいと思うんですけどねぇ…」


 「まぁまぁ。真面目な話はここまでにして、早速狩りに行こうじゃないか。今日は家長級の討伐対象害獣の狩りだよね。早速狩場へ向かおう。」


 そう言って、正門を抜けた後、平原に向かう。


 「基本的に害獣と呼ばれるものは森に住んでいる。平原に住んでいるものは比較的害のない生き物だ。いや、害がないというより人間の特になる部分が多いと言ったところだろうか。」


 「森に近づくに連れ、危険な生き物が増えてくる。こいつらは人間に害を及ぼすばかりで、狩ったところであまり旨味はない。ただ一つ、魔石に関しては需要がある。魔物が必ず持っている魔力が含まれた石だ。害獣討伐は基本的に、魔石と討伐証明箇所を集める仕事と言っていい。ま、魔物が強くなってくると利用できる部分も多くなってくるんだが、基本的に食用には向かない。ものすごくまずいんだ。」


 「ものすごいんですか…。」


 「あぁ。毒ってわけじゃないんだけどね。苦味と臭みと、絶妙な触感の悪さ。最悪とはあのことだね。」


 「食べたこと…ありそうな感じですね…」


 「あぁ…、一口だけね。その日から俺は虫を食べられるようになった。あれと比べたら絶品だね。」


 「む…!?そ、そうですか…。と、ところで今回狩る害獣はどういう魔物なんですか?」


 「む…。まだ教えてなかったか。今日の獲物は子鬼だ。ゴブリンとも呼ばれている。あまり一般的な呼び方ではないがね。」


 「一般的じゃないんですか?」


 おいおい。俺らの世界じゃ全人類が知ってるぜ。


 「あぁ、冒険者たちの間では、ゴキブリと呼んでいる。」


 「ゴ、ゴキブリですか…」


 実はいるんだな~。こっちの世界にもゴキブリが。こっちに来て、初めて見た地球と同じ生き物だ。…少し懐かしさを感じてしまったのがほんとに悔しい。…むかっ腹が立ってくるわい。でも、同じゴキブリって名前なんだな。


 「あぁ、あいつらは姑息で何より数が多い。そして、危機察知能力というか、索敵能力が高い。こっちが奴らの内の一匹を見つけて調子に乗って追いかけていると、いつの間にか大量のゴブリンに囲まれているって寸法さ。ゴキブリみたいだろ?」


 「確かに…。しかし、それだけ聞くとものすごく恐ろしい魔物のように思えますが…。本当に家長級なんですか?」


 「まぁ、一匹一匹は一角うさぎより弱いからね…。それに簡単な攻略法さえ知っていればそんなに怖くはない。」


 「攻略法なんてあるんですか?」


 「あぁ。基本的に奴らを見かけたら追わない。追わせるんだ。」


 「そんな簡単に行くもんですかね。」


 「あぁ、存外簡単さ。そこら辺にある石を投げて挑発すればいい。奴らを指差して爆笑してやってもいいかな。奴らは姑息だが、理性というものが全くといっていいほどない。だから、怒りや欲望といったものを抑えられないんだ。奴らに自分を追わせて十分群れと引き離した後倒すのさ一匹づつね。…一角をあれだけ狩れる君なら、一度に4匹を相手取っても引けは取らないだろうけどね。」


 「なるほど・・・。でも、理性がないのにチームプレイっていうのも変な感じですね。」


 「あぁ、それは害獣生態研究学会の大きなテーマの一つとされているよ。僕は難しいことはよくわからないが…、長年あいつらを見てて思うのは、個として動いていると言うより、全体が一つの生き物として動いている印象を受けるね。チームプレイというより、その群れ全体が一つの生物みたいなもんなんだ。僕らが右手を振るときにチームプレイもクソもないだろう?なんというかそんな感じがするよ。まぁ、ただの勘なんだけどね。」


 害獣生態研究学会ってなんやねん…。


 「…そういう生物が指一本を無くしたとしても、あまり怯んだりはしなさそうですね…」


 「そのとおりだよ。奴らとの戦いを終わらせるためにはこちらが全員死ぬか、あちらが全員死ぬかだ。そして、冒険者ギルドも奴らの殲滅を推進している。」


 「殲滅ですか…穏やかじゃないですね…」


 「あぁ。他の討伐害獣については魔石がいくらかの価値になる。けど、今回のゴブリンの魔石は、ほとんど価値がない。クズ魔石と呼ばれている。にも関わらず、冒険者ギルドはこのクズ魔石を銅貨50枚で買い取っている。」


 「それってすごいんですか?」


 「あぁ、破格の値段だ。それほどのお金を払ってでもいなくなって欲しいのさ。なんてったって、奴らは女性冒険者に大変好かれてるからね。」


 「ふん。たしかにそうだな。女の冒険者は奴らを見つけたら全力で駆け寄るからな。」


 「しかも、奴らは女性を大変丁重に扱ってくれるんだ。紳士だよね。」


 「奴らの苗床としてだがな。」


 「な…!?苗床…ですか!?」


 「あぁ。奴らは人間の女を孕ませて数を増やす。殺されることもないし、食事も与えてくれるらしいぞ。大規模な巣を殲滅した後は必ず奴らに飼われていた女が見つかるもんだ。もちろん皆気が狂っているがな。」


 「ま、そういうことだから、どこの国でも、国を挙げてゴブリンの殲滅を国是としているのさ。当然冒険者ギルドもそれに倣っているわけだ。」


 「今回はそのゴブリンを狩る。慣れてくれば一人でもかれるようになる。コンスタントに倒せるようになれば生活できるし、冒険者ギルドや冒険者達からの評価も高まるってもんさ。」


 「なるほど。緊張しますね……。」


 「なに。軽いもんさ。慣れてしまえばね。でも…、そうだな。万が一がないとは限らない。一応お互いの武器と戦いのスタイルを打ち合わせておこうか。各スタイルに合わせて戦術を組めば、更に確実に依頼を達成できるからね。」


 「うむ。そうだな。この重厚な鎧と盾を見て分かる通り、私は前衛だ。前に出て、敵の注意を引きつけ、攻撃を防ぐ。」


 おお!確かにでかい盾だ。これなら防御は問題なさそうだな。


 それに、重厚だ。彼女の鎧は全身を覆っており、一分の隙間もない。更に彼女の持っている盾は、少し屈めば全身が隠れるほどの大きさだ。それを軽々と持ち上げる力を想像すれば、確かに前衛向きだとわかる。


 さらに、腰につけているのは、棒というか昆のようなものに棘がついたものだ。っていうか、鬼の金棒じゃね?あれ…。敵にとどめを指すというより、とにかく敵の邪魔をするスタイルだとわかる。敵のどこかしらにあれが当たれば、まともに動くことはできなくなるだろう。


 「私も見て分かる通り、後衛ですね。仲間の回復と補助を行います。最低限の防具はつけてますが、基本的に攻撃は受けることを想定していないので、逃げ回りますよ。」


 ミジィは髪をかきあげながら答え…どうでもいいけど、なんかこの人色っぽいな…。


 彼女はアンナと比べて軽装だ。厚手のコートの下に鎖帷子のようなものを着ている。小さくはあるが盾を持ち、革の兜を冠っている。しかし、全体の色合いがリヴェータ教の青色だ。野外で目立たないようにするためか、色は濃いが。敵の攻撃に耐え続けるというよりも、一撃二撃受けて逃げることを想定しているようなきがする。


 「さて、最後は僕だね。基本僕は遊撃だね。アンナが耐えて、敵の攻撃を受けている間に一匹づつ始末していく役さ。後衛の補助にも前衛の補助にも回る。まぁ、何でも屋だね。」


 レジィよりも重装備だが、確かに動きやすそうな格好をしている。ガルーザが掲げている剣は、両刃のどこにでもありそうなロングソードだった。短いがもう一刀腰に下げている。予備用だろうか。


 「ま、基本的に僕らはこんな感じさ。魔法なんか全然使えないからね。多少鼻が利く位で、剣と棍棒で叩き潰していくスタイルかな?君はどこらへんに配置したらいいかな?」


 「そうですね…。この中で言えば後衛ということになるんでしょうか。僕は魔法を使ったナイフの投擲がメインの攻撃です。飛距離は…20mくらいでしょうか。あと、魔物の探索ができます。」


 少し距離は控えめにしておこう。確実に急所を狙える距離という意味では間違っていないし。まぁ、魔力を込めたナイフが何処かに当たれば致命傷は免れない。当たるってだけを念頭に置けば、50mはいけるが。


 「探索?敵の居場所がわかるってことかい?どれくらい先までいけるんだい?」


 「大体100mといったところでしょうか。大体の大きさと数、それと速さぐらいがわかるだけですけどね。」


 ある方向のみだったら200m以上はいけるけど。魔法の棒みたいに、自分を中心に一本の糸を回転させれば、全方位の探索ができる。ただ、これだと上空はわからないし、一周が結構遅い。不意打ちされることを考えると、多少狭くなっても上空を含んだ全方位に糸を張り巡らせていたほうが安心する。


 「すごいじゃないか…。僕も多少鼻が効くけど、とてもそこまでは…。うん、それがあれば今回の狩りは恐らく格段に楽になるはずだ。腰ほどの高さの生き物が4匹以上集まって歩いていたらそいつがゴブリンだ。」


 「そんなに単純なんですか…。」


 「この森で徒党を組んでいるのは、ゴブリンと擦れ狼だけだからね。掠れ狼は、四足だし、大きさは人間程だからね。」


 「それよりも、ナイフを見せてくれ。どんなものを使っているんだ?」


 「アンは武器マニアでね。色々な武器を見たり集めたりするのが好きなんだ。宿を移動するときに邪魔になるからやめろと言っているんだけどね…」


 「いいだろう。別に。好きなものは好きなんだ。」


 ま、いいか別に、見せた所で減るもんじゃないだろ。


 「これを使っています。数に限りがあるので、使ったナイフは毎回できるだけ回収してますね。」


 「ほう…これは…かなりいいナイフじゃないのか?これを投げるというのはちょっともったいないような気もするな。」


 「いえ、問題ありません。これは全部僕が作りましたので。」


 「!?作った?!作ったって鍛冶ができるってことか?」


 「ん~…、鍛冶といいますか、土の属性魔法を使って加工しているんです。鉄くずさえあれば何本も作れます。」


 「魔法で…!?そんな魔法は聞いたことが…」


 「いや…、ドワーフの鍛冶魔法の一つにそういったものがあると聞いたことがある。しかし、君は…ドワーフには見えないね…」


 「まぁ、そうですね。師匠から教えて貰いました。自分流にアレンジした部分もありますが。」


 適当にかましておく。


 「よかったらどれくらいの威力か見せてもらえないだろうか。戦術を組み立てる上で助かるんだ。無理にとは言わないが。」


 「いえ、構いませんよ。そうですね…あそこに大きめの岩があるのであそこに向かって投げますね。」


 ちょうど十数mの位置にある岩に狙いをつけて竜巻を作る。魔力は…軽くでいいか。その代わり竜巻の威力はあげよう。自分の外套をはためかせるように強い竜巻を作り上げる。うん。ここまですればいいだろう。やはり初めはなるべく派手に行きたいからな。ガルーザ達は魔法の発動に気付いているようだが、振りかぶる様子がないのを見て気を抜いている。もう準備は終わってるんだぜ…。俺はそっとナイフを手放す。


 放したナイフは一直線に岩に向かい岩の中ほどまで到達した。すんげぇ音したな…。


 「あ、ナイフ一本損しちゃった。もう少し強くすればよかったな…」


 「…」


 「…」


 「…」


 「すごいね…、とんでもない威力だ…。僕らの遠距離攻撃不足が一気に解消しそうだ。ねぇ、レジ?」

 

 「…えぇ、私は後衛ですが攻撃手段がなかったんです。攻撃は前衛に頼るしかなくて…」


 「加えて索敵ができるなら敵に不意打ちできるかもしれないというわけか。まさに、私たちにピッタリの人材というわけだ。少々出来すぎてる気もするぐらいだな。」


 「アン…、自分に都合がいいことが起こるとすぐ疑心暗鬼になるのはあなたの悪いところですよ。いいところでもありますけどね。可愛いですね~。」


 「か、可愛いってなんだよ。ふざけるな。レジィ」


 「はいはい。カワイ子アンナちゃんに叱られたので黙りま~す。」


 「何言ってんだよ君達は…、とにかく君はかなり僕らの穴を埋めてくれる人材だよ。試しに索敵しながらついてきてもらっていいかい?僕が先導するから、それらしきものが見つかったら教えてくれ。」


 「わかりました。見つけたら声をかければいいんですね?」


 「いや、肩を叩いて教えてくれ。なるべく音は立てたくない。森のなかでの人の声は意外と響くからね。匂いと一緒に。」


 「わかりました。僕はいつでもいけますので。」


 「うん。じゃあ、僕、ショー、アンナ、レジィの順で行こうか。探索と言っても後方の注意を主にお願いするよ。後ろを取られるのが一番まずいからね。」


 「了解です。」


 ガルーザを先頭に森の中を進んでいく。音を立てたくないと言っただけあり、彼の歩きは静かだ。後ろのアンナもレジィも静かな歩き方をしている。草原での静かなあるきかたはなんとなくわかっているが、森のなかではまた勝手が違う。他の皆と比べてやはり自分の歩き方が雑だと感じる。


 ジックリ歩き方を観察していると、なるべく小股で歩いている。そして足の裏全体をいっぺんに地面につけ、いっぺんに地面から離している。それと、まっすぐ歩かない時があると思ったら、枯れ葉や枝を除けて歩いている。音がなるものは極力踏まないようにしているのだ。


 早速真似する。


 …結構きついな。ストレスが溜まる。だが、さっきよりは静かになったように感じる。


 「…足の裏全体に力を入れて、肉から地面に触り、骨で踏みしめる様に歩くことをイメージしろ。」


「随分優しいじゃなか。アン。」


「…同じパーティーの技術が上がれば、私達が生き残る確率は上がる。それだけだ。」


「へ~、ゴキブリ駆除に随分と心配症だね。」


 アンナさんが言っていたことを意識すると確かに少し静かに歩けているような気がする。


「こういうものは長い経験と慣れだ。焦ってやってもろくなことにならん。」


「…ありがとうございます。」


 でも、早く強くなるに越したことはない。いつまで生きられるかなんて誰もわからないのだから。


 不思議だな。学校で勉強や体育をさせられてたときはこんなに熱心じゃなかった。そうしなきゃ生き残れないということをなんとなくわかっているっていうのもあるんだろうけど、それよりも、少しでもサボったり、諦めたりしたらモニに失礼な気がする。彼女はあんなに痛くて、辛くても決して諦めなかった。死ぬ最後の時まで俺のことを口にしていた。


 だから、がんばる。自分の出来る限り、頑張るんだ。


 !


 右前方。距離は…40m先かな。二匹の子供大の大きさの生物がいる。これは…二…足歩行かな?まぁ、それはいい。問題は、この2匹の周りを囲うように10匹前後の生物がいることだ。かといって激しく動いているわけでもない。2匹の動きに合わせるように周りの生物も動いている。


 俺はガルーザさんの肩を叩き、耳元に口を寄せる。


 「ガルーザさん。右前方の少し先に、合計12匹程度の生き物たちがいます。2匹を中心として残りの生物が周りを囲んでいます。争っている様子は、ありません。」


 「…ゴブリンの釣りだな。よくあるやつだ。ゆっくり進んで、ギャーギャー騒いでる二匹がいたらあたりだ。方向を指してくれるか。」


 言われたとおり、ガルーザの頭の真上からまっすぐに指をさす。


 ガルーザは方向を念入りに確認した後、小声で僕に指示を出す。


 「ここからは気配を消していこう。後ろの二人はおいていく。俺と君で先行し、外側から削っていこう。削りに気づかれたら、囮になり全速力でアンナのところまで下がる。そこからは彼女が囮になるから、その間に僕が削っていく。君は、ミジィを守りつつ、その投げナイフで倒せるときは倒してくれ。」


 「わかりました。」


 すごいな。ここまで瞬時に作戦を組み立てられるものなのか。それとも、ある程度決まった動き方があるのだろうか。どちらにしろ、アンナとミジィに一言も声をかけず、ハンドサインで意思を伝えているのを見て、慣れていることだけはわかった。


 アンナが盾を両手で構えるように装備し、ミジィがその後ろに隠れるように位置取ったのをみて、ガルーザは静かに進み初めた。


 さっきの進み方でも十分静かだったが、今のガルーザは全く音を立てていない。


 彼の気配すら静かになっているようだ。


 試しに、魔力の糸を彼に張り巡らせてみる。すると、通常の人間の状態では考えられないほど、魔力が外に出ていない。魔力を外に出さないと気配を消せるのだろうか。そもそも、自分の魔力が体の外に出ているのかどうかすら気にしたことは無かった。これから少し気をつけてみよう。


 しかし今は目の前のゴブリンだ。


 ガルーザの歩みがさらに遅くなり、ゆっくりと止まる。目の前には木が二本連なって生えており、間から向こうが見える。ガルーザは間の向こう側を指差した。


 ゴブリンだ。


 二匹のゴブリンは、少し大げさに周りの木や草に当たり散らしている。ように見える。


 魔力の糸を全方位に張り巡らせる。


 前方にはやはり、あの二匹を囲うように10匹の生物が息を潜めている。


 この周りにも、俺達とアンナさんたちとの間にも敵はいない。念のため、アンナさんたちの向こう側まで糸を伸ばし、確認する。よし。敵らしき生物はいない。


 ガルーザさんが俺の肩を叩き、ナイフを投げる真似をする。


 やれということだろう。


 俺は、魔力の糸を前方に集中し、敵を探った。


どうやら周りを囲っている奴らは、きれいな円になっているわけじゃないようだ。俺たちを釣る前に見つかったらシャレにならないからか、見えづらいところに隠れている。そのためか、円の外側にいる個体や、集中力を欠いている個体がいるようだ。


狙いは外側にいる個体から狙っていく。そしてなるべく座り込んでる奴らからだ。倒れたときの音で気づかれる可能性がある。


ただ、物陰に隠れている個体が多いせいか、ここから全てが狙えるわけではない。


場所を移動するか。


ガルーザに、手振りでここにいてほしい事を伝える。彼が頷いた後、ゆっくりと移動した。


一番初めはこいつだ。一番外側におり、木の幹を背に座っている。

 

倒したときに一番音が少なく、だれにも気づかれない可能性が高い。


俺は目の前に細い竜巻を作り上げる。静かで、鋭い竜巻だ。


細い竜巻はなるべく長く伸ばす。そのほうが狙いがつきやすいからだ。その分気づかれることもあるのだが、今回はなるべくギリギリを狙おう。失敗するとしても俺の仲間がいる内の方がいい。


ナイフを自分の右目の前に構える。最近気づいたが、ものすごい精度良く投げようと思うと、自分の目と的の間にナイフを置き、手を話すのが一番精度良く投げられる。この方法なら70m位先の的にも当てることが出来た。10m程度しか離れていない今なら、目だって撃ち抜ける。投げるのに時間がかかるのが欠点だけど。


 魔力は込めない。後ろの木を貫通してしまったらその音で気づかれてしまうからだ。ただのナイフでも、十分なスピードがあるから問題ない。


 放した手からナイフが音もなく進み、脳天に刺さる。


 「ッ………」


 叫び声を上げる間もなく絶命したようだ。体制はうまいことそのままだった。


 まず一匹目。


 二匹目。一匹目と同様に仕留められた。


 三匹、四匹と続いたところで、違和感を持ち始めたようだ。


 そろそろ潮時だろうか。


 最後に仕留めるために、二本のナイフを構え、二つの竜巻を同時に生成する。魔力は十分に込める。どこにあたっても致命傷となるようにだ。もうそろそろ気づかれるだろうからな。


 そしてためらうことなく両方のナイフを放る。丁寧に、落ち着け。


 「グギャッ!!」


 「ゲェッ!!」


 二人の心臓付近にあたり、大きな貫通穴を残してナイフは地面にめり込んだ。中心にいる二匹のゴブリンの向こう側をわざと狙ったからか、俺とは反対の方向を見ている。


 あともう二匹行けるか…?


 「うおらぁぁぁ!!!」


 その時ガルーザが大声を上げて石を投げた。


 ゴブリンたちが一斉にガルーザの方を向く。


 更に、2投目を投げ、一体のゴブリンに命中させる。大した怪我にはなっていないが、その後ガルーザは全力でゴブリンを指差し大爆笑し始めた。


 ひとしきり笑った後、アンナ達がいる方向へ全力で駆けていく。


 「グぎゃーーーー!」


 怒りに我を失ったゴブリン達は各々全力でガルーザを追いかける。まとまりはない。


 最後尾のゴブリンを追いながら、投げナイフのための竜巻を作ろうとする。


 !!


作れない!うまく竜巻が作れない!


 そうか!走りながらだとうまく作れないのか。くそっ!知らなかった。


 俺はナイフに魔力を込めるだけこめ、手を振りかぶっての投擲に切り替えた。


 ダン!


 一匹目。腰のあたりを撃ち抜いた。


 ダン!!


 二匹目。右足の付け根を撃ち抜いた。片足じゃもう動けないだろう。


 ダン!!!


三匹目。俺の存在に気づき、こちらを向いた瞬間、もう片方のナイフで左肩を撃ち抜く。


まだ生きている。だが武器はもう持てない。


俺は全速力を緩めずに近づき、思い切り前蹴りをかます。


木の幹に叩きつけられた後、取り出したナイフに魔力を込め奴の目の前からナイフを叩きつけるように投げた。


前方では、アンナさんに攻撃を仕掛けているゴブリンが二匹。


一匹はガルーザに斬り伏せられていた。


ガルーザがゴブリンを殺したのを見届けた後、アンナさんは二匹に盾ごと体当たりをかます。


二匹の体制が崩れた瞬間、ガルーザが一匹の喉を突き刺し、アンナさんが金棒をゴブリンの頭に叩きつけた。


その間俺は、魔力の糸を全方位に張り巡らせ周囲を警戒する。


「さて、とにかくまずはクズ魔石の回収だ。戦いの音を聞きつけて他の魔物が近寄ってくるかもしれないからね。」


そう言って、彼らは迅速に魔石を回収する。


やり方はシンプルだ。胸を突き刺し、手を突っ込み、心臓ごと引きずり出す。魔石は心臓に癒着するようにくっついていた。


見様見真似で俺も魔石を回収する。慣れるほどでもなく直ぐに回収できるようになる。


気持ち悪いとか、そんなことを感じる暇もない。これが今日の食い扶持にもなるし、生き残る確率を上げるためにも迅速にやらねば。


「今日はあたりがないようだな。」


「ああ、ま、早々ないもんだよ。堅実が一番さ。」


「しかし、実際に当たったというやつがいるからな…、やはり期待してしまう。」


「ほう?僕は聞いたことがあるだけだけど…、当たったやつにあったことがあるのかい?」


 魔石を回収し、その場から離れている間にそんな会話が繰り広げられた。

 

「当たり?ですか?」


 「ん?あぁ、ショーは知らないか。そう、当たりだよ、当たり。」


 「ゴブリンを狩っているとな、たまに珍しいものを持っていたりするんだ。」


 「珍しいもの?」


 「あぁ、どこで作られたかわからない、だれが作ったのかわからない、ただ、二つとないものが多く、商家や王族に熱心なファンが多い。当たりについては色々逸話があるんだよ。」


 「逸話…ですか?」


 「うむ。そうだな…いちばん有名なのは、靴だな。」


 「靴、ですか?ゴブリンが履いていたってことですか?」


 「あぁ、そうだ。あるゴブリンの群れの中に一匹しぶといのがいたらしくてな。そいつを倒したあと調べてみると変わった靴を履いていたそうだ。これは当たりだと踏んだ冒険者はそいつを持ち帰り、オークションに掛けたんだ。するとどうだ、ある商会がそいつを白金貨100枚で競り落としたそうだ。」


 「白金貨100枚!?金貨一万枚ってことですか!?」


 「そういうことになる。随分計算が早いな。まぁ、ここまで高値がつくのは滅多にない。当たりの中でも大当たりの部類だということだ。」


 十分離れたのを見計らい、ガルーザとリジィは先程の魔石の整えているようだ。


 「その逸話の面白いところは、続きがあるってことだよね。」


 ガルーザが合いの手を入れてきた。


 「続き…?あぁ、コーネット商会のことか…競りで高値が付いたこと以外あまり興味が無いんだがな…」


 「ほんと、目先にしか興味ないよね。アンナは。」


 「冒険者が将来のことなんて考えてどうする。どうせ夢見るなら、目先の大金だ。」


 「はいはい。そのコーネット商会っていうのが白金貨100枚出して競り落とした商会なんだけどね、当初は馬鹿にされていたんだ。いくら当たりとは言え、つぎ込み過ぎだと。コーネット商会は終わったとかも言われていたな。」


 「しかし、コーネット商会のすごいところはこのゴブリンの靴を参考にして全く新しい靴の製作・販売を行ったんだ。するとどうだい。今やハルダニヤ国どころか大陸を超えて求められる商品になった。当然大陸を跨いでコーネット商会は成長していき、今ではハルダニヤ国一の商会って寸法さ。すごいのはたった一代でここまで成し遂げたということだよね。」


 「は~、すごい目利きもいたもんですね。その当たりってゴブリンが作ったんですかね?」


 「色々諸説あるよ。ゴブリンが作ったといっている人もいるけど少数派だね。一番有力なのは古代文明があった時代に作られたものじゃないかって言われている。ソレをたまたまゴブリンが探り当てて使っているんじゃないかとね。」


 「古代文明ですか……夢がありますね。」


 「わかるかい?古代文明、古代都市…夢があるよねぇ…」


 「はぁ~~、さっぱりわからないですねぇ~。男性の夢ていうものは…。ソレよりもショーさんすごいじゃないですか。ゴブリンほとんどショーさんが倒してましたよね。」


 「そういえばそうだな。ショーの投擲は遠距離攻撃の範疇を超えている。とんでもない破壊力だ。いつもの10倍楽だったぞ。」


 「あぁ、ほんとすごかったねぇ。最初の段階でかなり削れてたしね。攻撃力もあるのに状況に応じて静かに殺せる…、これは使い勝手のいい武器だね。」


 「武器というよりもショーだからこそと言った感じだな。それは独自の技なんだろう?」


 「独自かどうかはわかりませんが、少なくとも誰にも教わらずに鍛えました。」


 「はぁ~~~、すごいですねぇ。その年で一流魔法使いの仲間入りですか。なかなかできることじゃないですよぉ。」


 「一流魔法使い?ではないと思いますが…」


 「いえいえ~!一流魔法使いなんですよぉ。自分だけの魔法を持って戦える魔法使いはその時点で一流魔法使いです。独自の魔法を持っている人間には手を出そうとおもいませんからね。だから一流なんです。」


 「そうなんですか…」


 「ハハッ、これじゃ、僕らが教えることなんて無かったかな。恥ずかしい限りだよ。」


 「いえ、そんなことはありません。すごく勉強になります。」


 「そうかい?じゃあ、せっかくだから今日一日はゴブリン退治と行こうじゃないか。ねぇ?みんな?」


 「そうですね~。ガンガン狩ってがっぽり儲けましょう!!」


 「はい!いろいろ教えてください!」


 「…あまり熱心になるものでもない。ゆとりを持ってゆっくりやっていけばいいんだ。ショーには時間だって、才能だって十分にある。」


 「やっぱりアンは優しいなぁ~」


 「そこが可愛いんですよね~、アン?」


 「…うるさい。私だってやるべきことはわかっているさ。」


 「ならいいんだけどさ。ショー、早速次にいこうか。」

 

 「はい。」


 その日俺たちは日が暮れるまでゴブリンを狩り続けた。



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