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第100話 外伝2 「異世界」、『転移』物語 =「ಂ」、『××』ౠ

ぼくと妹は、天の国で、幸せに、幸せに暮らすことができたのですから

故・宮沢賢治に捧ぐ

ちゃわん


…!


…。


…?


何だ?何か剣を受け止めた音が…。


「っは。どうしたんだよ、ラディ。自慢の策略は終いか?」


「…佑樹様…。」


ユーキが、ショーの剣を受け止めていた。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


「佑樹…様…。」


「どうしたラディ。いつも腹黒くふてぶてしい態度は何処にいったんだよ。」


「…そんな…ことは…私は…佑樹様…私は…。」


「ギュシィ!ギュシシシ!」


…ユーキの野郎。あんなに強かったか?


あと何でメリィまで一緒に居るんだ。っていうかほんと何なんだよあの生物は。


「どうして…佑樹様…なぜ…。」


「…ま、ハルダニヤがやべぇって話を噂で聞いてな。助けに来たんだよ。」


「…逃げたあなたが…何を…。…。何を…うゔ…。うゔゔゔぅ……グズッ…。」


「…。」


「…ど、どうか…助けて、ぐだざい…民を…守らねば…。」


「…民はお前が守れ。俺にその資格はねぇ。…その代わり、お前は俺が守ってやる。」


「…うゔゔゔゔ…ッヒグ…ッヒッグ…うゔゔゔゔ。」


「ビャア!!ビョオオオオオオ!!」


「この…トチ狂ってんじゃねぇ!!馬鹿野郎!!」


ユーキは、ラドチェリー王女と話している時、片手で剣を持っていた。それでショーの剣を抑えていた。


迷宮に潜っている時の印象だが、ショーもユーキも確かに強かった。強かったが、ショーのほうが2段階は上の強さだったと思う。


あくまで俺の勘だが…。


少なくとも、ダックスを倒すほどのショーを、片手でいなせる程の力量じゃねぇ。それは間違いねぇ。


だが今のユーキは…それ程の強さを感じる。


何故だ?


「おぉ…っらぁ!!」


片手で抑えていた剣でショーの大剣を巻き込み、残りの腕で腹を殴った。…殴ったぁ?!


吹っ飛…吹っ飛んだぁ?!


ショーが、あの化け物が片手の拳1つで?!


んなアホな?!


ユーキは…長剣から湯気を出してる。


その湯気が体を伝い空へ流れていく。


その様はまるで、ユーキの闘志が具現化したかのようだ。


「ビョオオオオオ!!!」


ブチ切れてやがる。そりゃそうだ。今にも獲物を狩ろうとしたのを邪魔されたんだからな。


「とっとと目ぇ覚ませ馬鹿!!」


ユーキは、ありえない程の速さで飛び出した。


そのまま矢の如く、真っ直ぐにショーの元に辿りつき、その長剣を大剣に叩きつける。


「ビョア!?」


めり込んだ?!ショーの足が、叩きつけられた勢いで地面にめり込んでやがる!?


馬鹿な!


明らかに強すぎる!?


ユーキは迷宮じゃあれ程の強さじゃなかった!ミキ嬢とどっこいって所だったろ?


それが何で昨日の今日でここまで強くなってやがる?


おかしいだろ?!


特効薬を飲んだのか?…いや、そんな感じはしねぇ。


そんな禍々しさは感じない。随分健康的な…いや、ともすれば聖なる力をすら感じる。


…勇者の力?何でここに来て急に?あいつは普段は酒の匂いしかしねぇぞ?…いや俺の匂いだったか?


だがユーキの野郎が、ショーとタメ張ってるのは間違いない。


ユーキから繰り出される無数の剣戟は、確かにショーを押している。


まるで息継ぎなど必要ないかのように、絶え間なく剣を振ってやがる。


ショーの方は、細かく速い攻撃には対応できねぇのか、殆どを体で受けている。


だが当然、切りつけれられても瞬間に治っていくから意味がねぇ。


…どうやらショーの方もそれに気づいたようだ。防御する必要はねぇ、と。


今まで大剣は1つだけだったが、もう一つ作り出し、二刀流になった。


大剣二刀流だ。


少なくとも俺は、あんなやべぇやつに会ったら、速攻で逃げるね。頭も悪そうな武器だしな。


だが、まともな奴なら選択しない武器でも、ショーが持つとなりゃ話は別だ。あのでかくて、無限の膂力がある奴が持てば、それはとんでもねぇ悪夢だ。


大剣二刀流から繰り出されるショーの攻撃は、まさに嵐、だった。


ユーキの攻撃が、洗練された人間の攻撃なら、ショーの攻撃は大自然の暴風雨だ。


最初は、なんとか長剣だけで受けていたユーキも、次第に劣勢だ。


糞…ユーキ、逃げろ。後ろの王女つれて逃げろよ。お前じゃ勝てねぇだろ。


…なんであいつの仲間はバカばっかり何だよ…畜生が…。


…?


…いや、捉えきれて、ない?


大剣二刀流で終いだと思ってたが、なんとかいなして、受けている?


何故?


ユーキの左手には何が…ナイフ?ありゃ…黒のナイフか?


そうか!ユーキも確か黒のナイフを持っていやがった。


大剣と同じ材料なら、受ける事は出来るってか。


ナイフで大分不利だが、それでも何とかなってやがる。


…いや、またユーキが押し始めてるのか?


おかしいだろ、どんだけだよ…。


どんどん、どんどんユーキが押し始めてる。


あの圧倒的に不利な武器で、ショーを圧倒するってのはどういう事だ?


っていうかユーキの魔力の色が変わってねぇか?別の色が混ざり始めている?


何となくラドチェリー王女に似た色の様な…?


「ビョアアアア!!」


ショーの体の無数の穴から、強い衝撃波が生まれ、その反動を利用して斬りかかり始めた。


その力と速さは今までとは段違いに上がる。


押されていたショーがまた押し返す。


ユーキも流石にこれを捌き切るのは難しくなってるみてぇだ。


そしてついに、決定的な隙を見せたユーキに、ショーが斬りかかろうとした瞬間。


全くの予備動作無く、魔力の流れすら俺には見えないまま、ユーキは魔法を発動した。


地面から巨大な氷の槍が、無数に生み出される。


その攻撃に負けたというより、その攻撃の勢いに吹き飛ばされ、大きくショーは後退する。


そして何より、その氷が巻き込むようにしてショーの大剣を氷漬けにする。


「ビャアア!!ビャアアア!!!!」


めちゃくちゃブチ切れてる。


だが、切れる必要すらない事に気付かねぇのか。いくらでも武器は生み出せるんだからな。


一拍して、その事に気づいたショーは、地面から大剣を作り出そうとする。


「ビャッ!?」


しかし作れない。


作れない?!


そうか…氷を生み出した瞬間、辺りの地面を氷で全部覆ったんだ。


氷を挟んだことで、土魔法が発動しないのか。


…だが、この氷、王都全ての地面を覆ってるんじゃないか?


ユーキにこんな魔力量はなかった。明らかに途中から混ざった魔力のせいだ。


だがそのお陰で、ショーの武器は間違いなく1つ封じた。


いや、地面の土を使えない時点で殆ど勝負は決まったようなもんか?


だがショーの不気味さはまだ無くなってない。


「…ビョァ…ビョアアアアア!!!」


奴の黒い全身が、更に黒くなっていく。


黒い光沢を帯び、その全身に銀色の線が混ざる。まるで、ショーが作り出した黒いナイフの様に。


奴は、自分の全身を大剣と同じ様な材質に変えたんだ。


そしてユーキに突っ込んでいく。


より早く、より繊細で複雑な攻撃が可能になったショーは、再びユーキを圧倒し始める。


…もう、ユーキは無理か?


「ギュシッ!」


…ありゃ、メリィか?


なんでまだユーキに付いてるんだ?


いや、触れられないから何処にいようが問題ないのか?


しかしあれは、ショーのペットじゃ…。


「ギュシュロロオ"オ"ア"ア"ア"ア"!!」


あの小さな外見から出たとは思えないほど、野性的な叫びが放たれる。


なんだ?あの生き物は一体何なんだ?本当に妖精種なのか?


そしてその叫びを聞き、ショーの体が一瞬硬直する。


「ビョォッ…!!」


そして何故か、奴の全身の黒いマントが、少し緩んだ様に見えた。


ギチギチと全身を締め上げてたマントが、少しほだされた様に見えた。


そしてその一瞬を見逃さず、ユーキはショーの腹に全力の拳をお見舞いする。


「早く…目…馬鹿野郎…。」


「オ…グ……ビョッ……!!」


呻くようなショーの声が聞こえる。


その声は、マントが緩んだ影響かどうかは知らねぇが、本来のショーの声だった。


あの不気味な化け物の声じゃない。


「はぁっ…はぁっ…。…俺は…俺は臆病者じゃねぇ!!!」


何だ?!


更にユーキの魔力が膨れた?!


そして大量の、ショーが生み出した巨大な鉄球と同じ様な大きさの氷玉を生み出し、ショーに叩きつける。


明らかに、本来のショーが戻り始めている様に見えるのに。


ショーは背後の壁まで吹き飛ばされ、それでも更に氷玉が叩きつけられる。


氷で四肢を壁に縫い付けられ、それでもまだ少し動いている。


「はぁっ…はぁっ…俺は、俺は…勇者だ。…勇者なんだよ…!!」


あいつは何を切れてんだよ。


こりゃ、もう勝負は付いただろ?


まだ攻撃を続けるのか?


そして未だ、異常なほど、ユーキの力が増し続けている。


「ビョオ…」


その残った力を振り絞る様に、ショーはうめき声を上げる。


いや…あれは…。


助けを、求めている?


しかしユーキは、構わず魔力を自身の剣に収束させていく。


その剣には、炎が纏わりついていた。


ありゃ…魔剣か?


魔剣の使い方なんざ知ってたか?奴ぁアダウロラ会派じゃねぇだろ?


奴の剣に纏わり付いた炎は更に変化している。


赤い色だった炎が、青くなり、白くなった。


その炎の熱波がここまで届く。だが不思議なことに、本人は全く暑さを感じていないようだ。


炎の色の変化は、確か熱の変化だ。


高い温度の炎は色が変わると聞いたことがある。学士共からな。


…まだ変化してる?


白い炎はやがて姿を消し、透明になる。


そして更に小さく爆ぜる音が…。


「ビャア…ビャ…ア…。」


その間も、ショーは小さく呻いている。


しかしユーキの変化を止めることはできてない。


爆ぜる音はどんどん大きくなり、やがて沢山の小石を激しく混ぜ合わせたような音になった。


そうなった時、ユーキの周りに変化が訪れた。


小さな、小さな青い光が煌めいている。


その小さな煌めきは徐々に大きくなり、やがて雷だとわかる。


そうわかってすぐ、ユーキの周りには雷雲から生み出される巨大な雷が轟いていることに気づく。


空気を切り裂く音と共に。


まるでひとつの天災になったかのようなユーキは、小さく呟いた。


「俺の紫電を喰らってみろ。」


ユーキが剣をショーに向けたと思った瞬間、剣からショーへ雷が落ちた。


全身を雷に打たれたショーは、破壊された氷とともに、地面に倒れる。


少し前は不死身だと思ったのに、全く動く様子はない。


いや、むしろ、あの黒いマントがショーの体から解けていく。


まるでもう、役目は終えたと言わんばかりに。


「畜生…畜生…。」


ユーキの呟きは誰に向けたものか。ショーに放った言葉か。それとも自分か。


しかしショーから感じていた莫大な魔力は、もう残っていなかった。


その解けていくマントのように、魔力が消えていくのがわかる。


これは…終わった…のか?


ハルダニヤ兵も、ナガルス兵ですらも喋らない。


誰も動けない。


いや、その中で一人、ユーキだけが動いた。


ラドチェリー王女の元へ向かい、優しく彼女の目元を拭い、片手を掴み立たせる。


ユーキはラドチェリー王女に何事かを呟いた。


そしてラドチェリー王女が吠える。


「たった今、敵は我らが勇者が討滅した!我らの勝利だ!勝鬨を上げろ!!」


「う、うおおおおおおおお!!!!!」


一拍おき、ハルダニヤ兵から爆発するような歓声が轟いた。


そしてその響きが徐々に徐々に広がり、王都全体を震わせる程になった。


そして王都の震えは、徐々に大きくなる。


徐々に、徐々に大きくなり、遂にみんなが気付き始める。


この震えは、歓声だけのせいじゃないと。


地面が揺れているんだと。


そして閃光が広がる。


光の中心は、王城の中。


誰もが目を開けない中、ラドチェリー王女の悲鳴の様な声が響く。


「ほ、宝珠が!!」


宝珠…?


ハルダニヤ王家が守っているというあの宝珠か?


何かあったのか?


…いや、ナガルスか?


あのダックスが戦っている時に、隠れるように王城へ向かっていったナガルス達が何かしたのか?


辺りを照らす光は、朝日を塗りつぶすように強くなっていく。その揺れとともに。


俺も何が起こっているか分からない。


立っていることすらできない。


だが、揺れの激しさと、地面同士がぶつかるような音が、事態の異常さを伝えてくる。


まるで世界が怒っているような…。


地面が割れているかのような…。


どれほどの時が経ったのか分からない。


直ぐに終わったようにも感じたし、長い時を過ごしたようにも感じた。


しかしあの大陸中を包んでしまうかのような光は、既に無くなった。


巨大な揺れも。


そして俺達の前には、大きな大きなヴィドフニルの大樹が変わらず聳え立っている。


そしてその背後にあった巨大な山脈が、消えていた。


いや、違う。消えているんじゃない。


…遠く離れていた。


割れていたのだ。大地が。


大樹と、山脈の間に亀裂が入り、それが広がり、遂には大陸を割ったんだ。


そう確信できる程、離れている。


山脈は、こちらから全て見えるほど離れていた。山脈が根付く大地とともに。


そして向こうの大地は浮いていた。浮島のように。


そして間違いなく、俺達が立っている大地も浮いているのだろう。


なぜなら、割れた俺達の大地の下には、もう一つの大地があったからだ。


その大地は様々な形をしており、俺は今まで見た地図にも、旅先でもあんな形は見たことがなかった。


そして下に見える大地と大地の間には、濃い青が敷き詰められていた。あれは何だ?


『…日本…列島…か?』


ユーキが呟いた言葉の意味を考える余裕すらない。ただ1つわかるのは、これから世界は変わってしまうということ。


もう今までのように過ごすことはできないということ。


今日の朝、二人の英傑が落ちた。


一人は、古代の竜の力と共に在りし、古龍の騎士。


一人は、世界最強の剣士。


二人の英傑はたった一人の男によって打ち砕かれた。


今日の朝、二人の英傑が生まれた。


一人は光の中、大きな歓声の中で。


名はユーキ・ガナリ。光の勇者と言われる男。


一人は闇の中、泥に塗れた土の上で。


名はショータ・ハシダメ。奴隷の星と呼ばれた男だった。




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今後とも本作品をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初は主人公がダメな感じがしたけど 異世界に行って成熟していくのがとても面白く 一章の最後で引き込まれ最新話までとても面白く読ませていただきました ありがとうございます
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