赤井潮のとても長い一日・4
「ふう、さっさと帰って一休み……」
瞬間、両足を下から掴まれた。
何が起きたのか、さっぱりわからない。
そのまま地面に引きずり込まれる。あり得るはずもないトンネルが現れていた。
永遠にも似た時間を穴の底まで落ちていく。
「ぐっ……!」
地面に叩きつけられ、両膝が悲鳴を上げる。
生身なら間違いなく激突死していただろう。
「一体何が……」
そこは真っ暗な洞窟。ホッパーアイでようやく見えるくらいだから闇の中と言っていい。
「うわっ?」
突如光がともる。
見ると、正面にはガラスが張られていた。
いや、上下左右すべてがガラスで閉じられている。
小突いてみるが、強化ガラスなのかびくともしない。
「ククク! かかったな! 仮面バッター!」
現れたのはドクトル悪魔。
その隣には、オケラとドリルを組み合わせたような怪人が立っていた。
この組織のネーミングセンスなら、たぶん名前はオケラドリルだ。
シャベルめいた両腕に加え、鼻に当たる部分のドリルが不規則に回転しているのは、どこかシュールですらあった。
「ガラス内の空気を抜け!」
「ポィー!」
いつの間にかたくさん現れていた戦闘員たちが壁の計器を操作する。
すると掃除機のような音が鳴り響き、空気が吸い上げられていく。
「ククク……苦しかろうホッパーよ。貴様を設計したのはショックネス。その情報は全て引き継いでいる。貴様の人工肺は真空状態で活動できるようには作られていないことなど調査済みよ!」
得意満面のドクトル悪魔。
悪いが、全然平気だ。
何しろ宇宙から来たギガントマンと融合しているのだ。真空状態に何時間曝されようが何ともない。
そんな事より、オレの頭の中は一つの事で一杯だった。
「ホッパー……変身!」
「何だとおぉっ!?」
早く帰りたい!
家でゆっくり寝たい!
「ホッパーパンチ!」
ギガント念動力を込め、ガラスをたたき割る。
「……くっ、だがこのオケラドリルはただの怪人では……」
「ホッパーパンチ!」
「ケラァ!」
「ホッパーパンチ!」
「ケラ……」
「ホッパーパンチ! ホッパーパンチ! ホッパーパンチ!」
右右左右左左右右右アッパー!
怒りのパンチ連打で、オケラドリルの頭が洞窟の天井に突き刺さる。
そこを目がけ――
「ホッパーケェアアアアアアアアアアアアアア!」
思い切りキックを叩き込んだ。
その勢いで岩盤をぶち抜き、一気に地上まで駆け上っていく。
「ケラアーーーーー」
そして、コーヒーショップ・フジマツの駐車場のアスファルトをぶち破って飛び出した。
反転して着地するも、怪人はそのままの勢いで天高く吹き飛ばされ――
「オケラアーーーーーーーー!」
珍妙な断末魔と共に花火と散った。
下の方で崩落している音が聞こえるが、おそらくドクトル悪魔は逃げ出しているだろう。
組織が壊滅した後も次の組織で出てきそうな顔してるし。
追いかけたいところだが、そんな体力はない。
変身を解き、またスーパーセルにまたがると、オレは家を目指した。
ゴリュウブレスが鳴っているような気がするが、気のせいだろう。
うん。