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赤井潮のとても長い一日・3

 気がつくと、オレは路地裏のゴミ捨て場で寝ていた。

 最近はもう何か意識を失ってばかりだが目覚めた先が、RE:ショックネスの手術台でないだけまだマシだ。

 改造人間であっても、全部が機械なわけじゃない。

 全身が悲鳴を上げている。

 連戦連戦で体はもうガタガタだ。

 とにかく、どこかで体を休めたい……。

 オレの意志を察知してか、スーパーセルが現れた。

 コイツには高性能AIが搭載されているらしく、いつもピンチの時に助けてくれる。

 バイクが自走している姿はショッキングだっただろうが、賢いコイツなら人目につかない場所を通って来るだろう。

「……わかってくれるのはお前だけだな」

 自嘲気味に呟くと、目のようにも見えるヘッドライトが明滅した。

 いっそこのままスーパーセルに乗って逃げちまうか。

 ……なんてな。

 逃げやしないさ。

 そのままスーパーセルにまたがり、自動操縦に任せて移動する。

 行き先は一つしかない。

 コーヒーショップ・フジマツ。

 かつて、RE:ショックネスとの戦いで傷ついたスーパーセルを修理していると、中から1号の手紙が出て来たことがある。

 そこにはこんな事が書かれていた。

「お前がこれを読んでいる頃、傷つき、疲れ果てている事だろう。正義とは孤独なものだが、一時の休息を得たいのならばそこを訪ねるといいだろう。オーナーに美ノ郷の知人と言えばわかる」

 っていうかいつ準備したんだ1号。本名美ノ郷なのか?

 そんなの書いてるヒマがあるなら、改造前に助けてくれよ。

 バイパス下にある一〇人も入れば満員であろう、こじんまりとした喫茶店。

 それがコーヒーショップ・フジマツだ。

「いらっしゃい……と、お前か」

 中に入ると、白髪混じりの男性が、ガンコそうな顔で柔和に笑って言った。

 ここのオーナー、藤松橘平ふじまつきっぺいだ。

 どうもオレや一号の秘密にうすうす勘付いているようなんだが、それに言及したりする事はない。

 それどころか、精神的にも物理的にも様々な支援をしてくれる頼もしいおやじさんだ。

「なんだお前その格好は」

「え?」

 言われて気づいたが、服は泥まみれな上、ゴミ捨て場の匂いが染みつき悪臭を放っていた。

「裏にウチの制服あるからそれでも着てこい」

「う、うっす」

 言われるがまま、バックヤードに行き、白のワイシャツに黒ズボン、それに黒いエプロンの制服に着替える。

 ちなみに、おやじさんはエプロンの下は私服だ。

 めんどいかららしい。

 そもそも、一人で回せる店なので、勢いで作った制服はダダあまりしてるとか。

「ちょうどいいや。店番頼む。ちょっくら昼飯買ってくる」

「え? ちょっ……」

 言うや否や、おやじさんは店を出て行った。

 店番頼むって言われても、このへろへろな体力じゃまともな接客なんて無理だ。

 コーヒー、普通に淹れるくらいしか出来ないし。

 まぁ、滅多に客なんか来ないけどな。ここ。

 店の片隅にある昭和の遺産・インベーダーゲームつきテーブル目当てのマニアくらしか来ないのだ。

「開いてます~?」

 ……とか言ってたら来るんだよな。くそう。

「は、はい」

 入って来たのは、パーマがかったショートカットの若い女性と、おやじさんよりももっとガンコそうな顔をしたおじさんだった。

 女性は二〇代前半で、男性は40歳といったところだろう。

 カップルには見えないし、親子にも見えない。

 何だろう? と思っていると――

「全く、ギガントマンにも困ったものだな」

「司令……言いすぎですよ」

「しかしだなサソリ隊員。我々地球防衛軍としても、ああも気ままに現れられては、戦力としても見れん。作戦の立てようもないじゃないか」

「ぶふぉ!」

 思わず吹き出した。

「え? どうかされましたか?」

「あ、いえ、ちょっとスパイスを吸いこんでしまって……お気になさらず」

 地球防衛軍かいっ!

 そんな風に思ってたのかよ!

 しかも何でよりによってこの店に来てんだよ。

「おーい、帰ったぞー……お、いらっしゃい」

 そうこうしていると、弁当片手におやじさんが戻ってきた。

 ふう……これで帰れ――

「お邪魔してますよ、フジマツキャプテン」

 おやじさんの姿を見た防衛軍の隊員が立ち上がって敬礼をした。その表情は畏まっており、冗談でやっているようには見えない。

 いや、キャプテンって何だ?

「おお、岩山君じゃないか。キャプテンはやめてくれ。とうに引退した身だ。敬礼もやめてくれ」

「地球防衛軍の前身、科捜隊の伝説のキャプテンにそれは無理というものでしょう。私もだいぶしごかれましたからね」

「ぶふぉあ!?」

 また大きく吹き出す。

 おやじさん、そんな過去持ってんの!?

「それより、そっちのほうはどうなんだ。今日も怪獣が出たそうじゃないか」

「……お手上げですよ」

「し、司令!」

 司令の気弱な姿に泡を食うサソリ隊員。

「この人に隠してもしようがないよ。サソリ君。……事実、我々の武器は怪獣に通用せず。せめてあのゴリュウロボとか言うロボが支給されれば違うんだろうが……」

 地球防衛軍は国連管轄、ゴリュウジャーは日本の科学技術庁の管轄。

 予算の出どころも違えば、お互い協力することもない。

 というより、国連主導の「気候変動に関する怪獣対策条約」によって怪獣退治のため各国に設立されたのが地球防衛軍であり、日本の一存で運用できないのが大きい。

 怪獣なんて、宇宙怪獣が落ちてきた日本にしかまず出ないのに。

「我々がいくら頑張ったところで、結局ギガントマン頼みですよ」

 その顔には、深い疲労の色があった。

「そう情けない事を言うな。だいいち、いつもギガントマンが助けてくれるとは限らんだろう」

「そうですよ司令。私たちも頑張りますから、気を落とさないでください」

「……すまん。私としたことが……しかし、いっそ彼がうちの隊員になってくれればいいんですがね」

 言って笑う。

 ユーモアを取り戻した司令の様子に、おやじさんとサソリ隊員が笑う。

 笑えないのは、オレだ。

 このままここにいたら、何かのはずみで勧誘されそうだし、もうとにかく疲れていたので、そっと店を抜け出した――

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