異世界戦隊ナロウジャー ~俺と悪役令嬢と女モンスターとVRMMO廃人とやれやれ系VS悪のクラス転移怪人~
俺の目の前には、崩れるビルと逃げ惑う人々。
そして暴れまわる紫色の毛並みのトラと人の合体したようなザ・悪の怪人! という変な奴がいる。
こいつを倒すのが俺の正義のヒーローとしての仕事だ。
「よし、いくぞ! ナロウチェインジ!!」
掛け声に応じてナロウエネルギーが俺を別人のように強化してくれる。
真っ赤な特殊強化スーツを身に纏えば、異世界戦隊ナロウジャーのナロウレッドとして戦闘準備は完了だ。
「ナロウチェンジ!!」
同じスーツに変身した四人の仲間の声が、ビルの倒壊する音でかき消されるが問題ない。変身は完了した。
「ノジャー! 解析を頼む」
「あいつは死立冥界学園 四年四組の出席番号四番 佐藤君じゃ。通称『孤独な蠱毒』佐藤。あらゆる毒を生成するチート能力を暗黒神から貰ったクラス転移怪人じゃ。気をつけるのじゃぞ」
基地にいるノジャーから、通信機に映像とともに詳しい解析が送られてくる。
ノジャーは美少女の姿をしたサポートロボットだ。
「なるほど、眉毛と脇の下に一滴でアフリカ象を瞬殺できる毒があるのか。サンキューノジャー」
「むっ、そこにいるのは誰だあ!!」
口から紫色の煙を吐き出しながらこちらを睨みつける佐藤。口からも毒出てるじゃないか。
「正義とヒーローを愛する男、ナロウレッド!」
ここから名乗り作業に入る。ヒーローは戦闘前に聞かれたら名乗るのが礼儀だ。儀式といえる。
怪人もこの間だけは待ってくれるから心置きなく名乗ろう。
「悪役令嬢に転生したらヒーローになりましてございますわ。ナロウブルー!」
ブルーはファンタジー世界の令嬢に転生した日本人だ。
その飽くなき金と地位とイケメンへの執着心を本部にスコップ――――別世界からヒーローの素質があるものを見つけて連れてくることをこう呼ぶらしい――――された女性だ。
俺より年上で微妙に距離がある。どう接していいかわからないのでこのまま距離を置こう。
「目が覚めたらモンスターでした! ナロウグリーン!!」
グリーン。彼女はモンスターに転生した女性だ。
様々なモンスターが暮らす世界で、選り好みせずモンスターを食料にしていたら食べた敵に変身できるようになった。
普段は人間の、普通の女の子だった時代の姿で生活している。最近人間はどんな味がするのか気になっているらしい。彼女とは距離を置いたほうが身のためだ。
「VRMMO廃人してたら異世界に……ナロウピンク」
ピンクは別世界で超有名なVRMMOの廃人である。
リアル性別が女性であることを強調し、アイテムを貢がせ、働きもせず引きこもってゲームをしていたら連れてこられたらしい。
ゲームで使用していたキャラと素の自分との二つの姿を切り替えることができるぞ。素の姿は風呂に入らないからくさい。清潔になるまで少し時間と距離を置いて接していこう。
「やれやれ……ナロウブラックさ。やれやれだ」
やれやれうるさいのがナロウブラック。
神様からハイパー便利パワーを貰って、異世界を満喫していたらスコップされた。
このチームでは俺以外で唯一の人間の男だ。やたらめったらやれやれうるさいが、ステータスのある世界から来てカンストしているので頼りになる。しかもイケメンで基地に自分のハーレムまで作ったそうな。料理もできて、気のいいやつなので友達になった。理由はないけど距離を置いてみよう。
「我ら、異世界戦隊ナロウジャー!!」
後方で五色の煙をあげながら爆音が轟く。
キマった……ポーズもようやく五人で揃うようになってきた。
「貴様らか、俺達のクラスにちょっかいかけてきてるって連中は」
「やれやれ、君達が別世界にちょっかいかけなければいいことなのにねえ。やれやれだよ」
「やれやれうるせえ!! 俺達四年四組をなめると後悔するぜ。この世界のカスどものように、毒でドロドロに溶かしてやる!!」
なぜか知らないが、暗黒神に目をつけられるクラスは全員クズの素質を持っている。
クズになって異世界を破壊し続ける凶悪な存在となるのだ。
「どうでもいいから早く帰りたい……もうすぐネトゲのメンテが終わる」
「もうちょっと我慢してくれ。あいつを倒せば帰れるから」
「わたしもお腹減ったから帰りたいです! あの怪人食べてもいいですか?」
「食べるな。あいつ腋に毒があるから死ぬぞ」
俺達に団結という言葉はない。寄せ集めチームだからだ。
「やれやれ、もう後一撃で倒せるまでいためつけておいたよ」
「ナイスだブラック!」
「なに、それほど手間のかかる仕事じゃないさ。やれやれ」
ブラックは頼りになる。というか戦力としてまともに戦ってくれるだけで助かるぜ。
「最後は全員で決めましょう。じゃないと私にお報酬が入らないかもしれませんわよ」
「わかってる。それに心配しなくても給料は支払われる。ナロウバスター! カモン!」
五人で持たねばならないほど大きなバズーカ砲ナロウバスターが目の前に転送される。俺達五人の力を巨大なエネルギービームにして撃ち出す必殺技だ。
「ナロウチートパワー! セッートアーップ!!」
ナロウチートパワーはなんか色々と凄い力をよくわかんないけどみんな貰ってるらしい。
そういうアレだ。それがなんと五人分まとめて撃ち出される。
「ナロウトラックバスター!! ファイアー!!」
大型トラックの幻影がナロウチートパワーとともに撃ち出された。
あのトラックに轢き殺された怪人は善人になり、異世界を救うため転生するのだ。
「俺達は……負けない!!」
びしっとポーズを決めてから、転送装置で基地へ時間するのだった。
正義のヒーロー。少年時代に憧れた人もいるだろう。俺だってそうだ。
だが憧れとは憧れのままでいることが一番だったのかもしれない。最近そんなことを考えるようになった。
「よくやってくれたナロウレッド。これからも期待している」
「はっ!」
異世界にあるヒーローの秘密基地。その名も『ブレイブハート』だ。
ここは様々なヒーローが暮らすSFチックなハイテク基地である。
「では、約束通り君達は今この時より明後日の午前十一時まで休暇だ。ゆっくり羽を休めるといい」
「ありがとうございます! 失礼します!」
基地のリーダー、キャプテン・イーグルにビシっと敬礼して去る。
イーグルは平和の象徴であるハトの身体と熱き魂を持つ全ヒーローのリーダーだ。
「さて、問題はここからだ」
正直怪人なんてどうとでもなる。むしろ胃が痛くなるのはここからだ。
戦闘が終わった時と、週末にメンバーを集めて会議しなくてはいけない。あのメンバー相手にだ。
「さて、手早く終わってくれ……お願いだから」
俺が異世界戦隊ナロウジャーのナロウレッドとして、地球からスカウトされたときはもう死ぬほど嬉しかった。なんせ憧れのヒーローになれるんだから。
「遅いですわよ。一銭にもならないことに時間を使いたくないのでございますわ。もっと早く来なさいな」
「お腹すきました! なにか食べさせてください! 人でもいいですから!」
「ネトゲのアップデートだけ先にしてきていい?」
「やれやれ、それほど手間はかからないさ」
できればメンバーは自分で選びたかったよ……こいつらと本当にうまくやっていけるのか。一番の悩みはそこである。
「どうしてそんなにお金が欲しいんですか?」
「お金があればすべてが買えるのですわ。言ったでしょう。札束風呂でイケメン軍団に奉仕されるためにはお金が必要なのでございますわよ」
「そのお金の使い方は浪費じゃないのか」
「有意義な使い方ですわ。浪費しても溢れるくらい稼げばいいのですもの」
金髪くるくるヘアーのブルーはとにかくお金とイケメンへの執着が凄い。
これをもう少し戦闘や正義の為に使って欲しい。
「おネトゲに課金もできましてよ?」
「お金最高。お金があれば無料じゃないネトゲもできる。ガチャ制覇もできる」
一瞬でピンクを味方につけたな。やはり金の力は恐ろしい。
「限度額は決めておくんだピンク。月末に泣きを見るぞ」
「やれやれだね」
ニート生活に戻れないピンクはもうネトゲのために戦うマシーンとなりつつある。
年中ジャージで実戦もネトゲのギルド戦もする。ある意味戦闘民族だな。
「お金があれば、ご飯のおかわりもできますね!」
グリーンは食い意地だけで生きている。ある意味本能で生きているところがモンスターというか動物っぽいとは思う。これ以上会議が長くなるとまた腕に噛みつかれる。なんとか進行を早めよう。
「そうよ、お金があればなんでもできるのですわ!!」
「ブルー、ヒーローの自覚を持ってくれ」
「お金があれば最新装備も買えましてよ。基地の設備だってより良いものになれば救える人間も増える。お金はあるに越したことはないのでございますですわ」
「やれやれ、一理あるんじゃないかな」
本当に一理あることは控えて欲しい。どう言い返してヒーローの自覚を持たせればいいかさっぱりだ。
俺もリーダーとしてまだまだ半人前だな。
「キレイ事だけでヒーローはやっていけない。そう、私は今流行のダークヒーローなのよ!」
「ブルー、至急ダークヒーローに謝ってきてくれ。種類が豊富なアメリカ中心に頼む」
やはりいつも通りだ。会議が進まない。強引にいこう。
「今回のテーマは『食堂のメニュー』だ。なにか提案のあるものはいるか?」
このように決められた議題を話し合う。進行はリーダーである俺の役目だ。
「はい!」
「よしグリーン」
「食べていい人間さんを……」
「却下だ」
「なぜですか!?」
「人間は食料じゃない!」
人肉は食うなと規則に書いてある。書かないと食べられるからだ。
「だからちゃんと食用の人間さんを」
「そんなもんがあるか!」
「なければ作ればいいのです! そうして人類の歴史と文化は育まれたのです!」
「食人文化など育まれてたまるか!!」
言うまでもないが、基地にいるのは大半が人間である。
当然却下だ。人肉なんぞ申請したら悪とみなされる可能性もある。
「他に意見のあるものは?」
「イケメンをこう、女体盛りみたいにして出してみてはいかがかしら?」
「風紀が乱れるだろ!?」
ブルーよ。金とイケメン以外になにもないのか。
「人肌で温まると食材が痛むよ。やれやれだね」
ポイントはそこじゃないぞブラック。食べ物を無駄にするなという意見には大賛成だ。
ヒーローはよいこのお手本であるべし。
「いいのよ、イケメンのおつまみに食べ物があればいいの。まあつまみ食いするのはイケメンも、むしろイケメンメインでございますが」
「んんぅ? どういう意味ですか?」
「ブルー、グリーンの教育に悪いからやめてくれ」
「なら食べたいものを買うために札束でもお配りなさいまし」
「確実に赤字になるだろうが!」
「レッドだけにですね!」
うるさいぞグリーン。まるで俺が滑ったみたいになるだろうが。
「まず皿になるイケメンをどうやって連れて来るんだい? やれやれだね」
「そこはまあ……正義の力でアイドル事務所に突撃しましてよ」
「その時点で正義ではないぞブルー」
「性技の力ですわね!」
「うまいこと言ったつもりか!」
やはり会議は進まない。他の戦隊レッドはどうしているのだろう。
案外俺と同じように苦労しているのかもな。
「……出前取れるようにして」
「食堂まで近いんだから外に出るんだ。引きこもってばかりだと動けなくなる」
「……そこはVRパワーでなんとかする」
「ステータスは揚げてしまえば落ちないからね。便利でいいさ。やれやれ」
ピンクとブラックはステータスとレベルがある世界出身だ。
上げたら落ちないし、スキルは取れば忘れない。正直反則だと思う。
「本人が弱いと弱点が残るぞ」
「なら部屋の防壁を強化して」
「その時間で自分を強化するんだ」
「…………メンテの間しか動けないよ?」
「よし、とりあえずメンテの時間は運動すること!」
渋々了承を取り付けた。ヒーローなんだから体を鍛えておかないでどうする。
「話が逸れっぱなしよ」
「ん、いかんな。真面目に食堂のメニューを考えよう」
「はいはーい! 食堂にカレーが無いです!」
「……なに?」
グリーンが元気よくそんな事を言い出した。
「和洋中なんでもあるのにカレーが無いです! カレー!」
「わかる。カレーは欲しい」
ピンクも同意見らしい。カレーは俺も好きだ。基地オリジナルがあるなら食べてみたいとも思うが。
「カレーは食堂の匂いがカレーになるからダメなんじゃないかな? 食器だって色やにおいが取れなくなってしまう。やれやれだね」
それは本当にやれやれだな。ブラックのやれやれに同意できる日がこようとは。
「確かにカレーって全部カレーにしちゃいますわね。いっそカレーの日でも作ればどうかしら? 曜日限定なら被害も少ないんじゃなくって?」
「ふむ、割と建設的な意見だな。わかった、かけあってみよう」
議題は食事のことだが普通に会議が進んでいる。少し涙が出そうだ。このチームがまとまってきたのかもしれない。考えれば考えるほど泣きそうだ。
「まともに……まともに会議が進んだ……くうぅ……」
「そんなに感動することかい? やれやれ」
「男泣きですね! 辛い事があったら相談してください!」
原因はお前らだよ。そう言いたいけれど、グリーンの気遣いがうれしかったので黙っておく。
「やめなさいよもう……イケメン以外の涙なんて無価値でございましてよ?」
「……泣き落としは男じゃ使えない」
ブルーとピンクはどうしたものか。
「やれやれ、リーダーそろそろ纏めて欲しいな」
「おっと、そうだな。それじゃあ基地限定カレーができないか掛け合ってみるに決定だ!」
ここでサイレンが鳴り響く。また異世界にクラス転移怪人が現れたのか。
「緊急招集。ナロウジャーは至急、会議室に集合してください」
「やれやれ、呼び出しか」
「まだ積みゲーがあるのに」
「時間外お手当を付けてくださいまし」
「急ぎましょう! 次は食べていい怪人さんかもしれません!」
ナイスタイミングだ怪人。会議を続けていると俺の精神が磨耗する。
適度に来てくれる怪人はストレス発散ポイントになりつつあった。
「よーし! 異世界戦隊ナロウジャー、緊急出動!!」
「了解!!」
俺達の戦いはこれからだ!!