今日からここが私の家 中編
千鳥を主人公にしているつもりが燈紀に力を入れてしまうせんせいです。千鳥視点「今日からここが私の家 中編」スタートです。
玄関に入ってすぐ左手に六段の下駄箱があった。小さく『101 102 103 201 202 203』と段ごとに書いてある。共用らしい。燈紀さんが脱いだブーツを『201』の段に入れる。
右手下には長方形のタオルが敷かれてあり、その上を先生が歩く。
「とりあえず千鳥もこっちだ」
先生に言われ後に続く。
「黒センセイ 千鳥ちゃん待って」
振り向く。燈紀さんがヘルメットを脱ごうとしていた。先生が鼻息を吐く。固定されてるようでなかなか脱げないようだ。
「たいへんですね」
「そーなのよ っね」
ヘルメットが脱がれると下から小さな顔に大きな瞳と綺麗な鼻と張りのある唇が収まり、それを覆うように肩までの綺麗な黒髪の、上に細長い白いものが二本ついていた。それはまるで。
「うーん?気になる?」
燈紀さんの声に反応したようにそれがピクピク動く。でも顔の横には普通の耳が二つついている。
「遊ぶな その事もこれから千景と話せば良いだろう ほら着いてこい」
「はーい」
楽しそうに返事する燈紀さんと並んで先生の後ろについていく。玄関上がって左にダイアル式の黒電話。右側に二階へ続く階段がある。その二つを過ぎすぐ左を向く。
ドアがあり「101」と書かれてある。
「千景帰ったぞ 入るぞ」
「お帰りなさい どうぞ」
燈紀さんがノブを回しドアを開いた。
101号室は102号室との間の壁を取り外してあり、八畳部屋が二つと二畳ほどのキッチンの間取りだ。
左側には長方形のテーブルに奥行きのあるテレビがあり、左側にはソファベッドに木製の机にノート型パソコン、二つの本棚にはビッシリと本が収まってある。
そしてその中央に車椅子に座る一人の男性がニコリと微笑んでいた。
先生が車椅子の脇に座る。私は燈紀さんに背中を押されながら男性の前の座布団に座らされた。そしてその隣に燈紀さんが座る。
「先生 燈紀 ご苦労様」
男性が言い、続けて。
「そして 初めまして 千鳥ちゃん 改めまして天野千景です よろしく」
天野千景さんがニッコリ言う。
「はい よろしくおねがいします」
お辞儀をした私は天野千景さんを観察する。
足が不自由なのか車椅子に座っている。そういえばこの部屋の玄関にスロープがあった。服装は枯れ草色の着物を着ている。髪型は、、、目が合う。照れ臭くて下を向くと先生と視線が合った。先生の視線が隣に動く。
「色々話す事があると思うけど とりあえずお茶にしない?千景さん良いよね?」
燈紀さんが立ち上がる。
「うん 頼むよ 燈紀」
天野千景さんに頷き、燈紀さんが私を見る。
「千景さんは紅茶で黒センセイは冷たい緑茶で良いでしょ?で千鳥ちゃんは手伝ってくれる?」
先生を見ると先生が鼻先を奥に向けた。
「向こうがキッチンだ 手伝ってやれ」
「うん」
頷いて燈紀さんに着いていく。
キッチンには二つ口のガスコンロに流しと冷蔵庫と炊飯器など、そして大きめの食器棚が所狭しに置かれてあった。
燈紀さんの隣に立つ。燈紀さんが流しの下からヤカンを取り出し一度水洗いをすると水を入れて火にかける。それから急須に茶葉を入れた。冷蔵庫を開けながら私に振り返る。
「千鳥ちゃんは何が飲みたい?」
冷蔵庫には色々な食材と、麦茶や緑茶や牛乳が並んでいる。飲んで良いの?
「えーと 私と千景さんミルクティーにするんだけど 千鳥ちゃんも一緒で良いかな?」
「あっ はい」
私の答えを聞いて小さな鍋に少量の牛乳を入れて火にかける燈紀さん。先生と天野千景さんの会話が気になる。
「千鳥って先生が付けたんですね 彼女気にいってますか?」
「どうだろうな そういうのはお前に任したいんだが あの子を見てたら何となく付けた」
「なんとなくですか 先生らしい」
天野千景さんの笑い声が聞こえる。
「ねえ千鳥ちゃん」
振り向く。燈紀さんが食器棚からティーカップを三つと浅めのガラスカップを取り出していた。
「突然こんな所に連れて来られて驚いてる?」
頷いてから、カップを受け取り、お盆の上に置く。
「怖い?」
先生がいるんだから怖くない。首を振る。
「そっかぁ」
ヤカンが泣き出す。火を止める。
「黒センセイって無愛想だよね?」
頷く。ヤカンと鍋を空いているスペースで熱を冷ます。
「でも やさしいです せんせい」
ガラスカップに冷茶を注ぐ。
「うん 黒センセイの優しさに気付くなんて千鳥ちゃん凄いね」
ヤカンから急須にお湯を入れる。
「熱湯を少し冷ますのコツなの 千景さんも黒センセイと同じ位優しいんだよ」
燈紀の顔を見上げる。
「ひのりさんもやさしいとおもい ます」
目が合うと優しく微笑んでくれる。
「えへへ ありがとう」
温めた牛乳を小さなカップに入れてお盆に置く。
「良し じゃあ持っていこう」
私も微笑み返して着いていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。次回は09月26日に千鳥視点「今日からここが私の家 後編」更新予定です。