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事実は小説よりも奇なり、摩訶不思議

作者: 高村雪慈

「お父さん、私結婚しました」


電話越しに父は絶句、その後ろで母は大爆笑している。


「仕事も転勤のため、止めました。」


『…。うん、で。誰。相手は誰』


「北里さん」


『誰』


父よごめん。と思いつつも電話を切った。

そして母の携帯にかけ直す。


『はいはーい。アンタやるじゃないの!流石私の娘。決める時には決めてくるわね』

「好きかとか、結婚式はとか聞かれると困るけど…。とりあえず世間の流れにはのった、みたい」

『まぁ、別れる時は分かれるし。続く時は勝手に続いていくからね』


母は、あっけらかんとした人で、いつも父より逞しい。


『頑張って幸せになるのよ』


「おK」


****



そんな電話をしたのは区役所前。

北里さんもどこかに電話中。

しかし、今時の結婚て両家の顔合わせとかないのね。と自分をごまかしているが

そんなわけはもちろんない。私と北里さんがぶっ飛んだだけなのだ。

両家の家族よすまん。


「文乃さん、なにか言われた?」


電話を終えた北里さんが、少々心配そうに私の様子を伺う。


「頑張って幸せになりなさい、って言われたくらいよ」


「そっか。うちは、兄貴が大爆笑して、妹が大絶叫してたな」


北里さん、貴方お兄さんと妹さんがいるんですね…。


「ちなみにご両親は?」


事前の打ち合わせってみんなどうしているんだろうな〜。なんて思いながらも北里さんに問う


「海外旅行中だった。まぁ帰ってくる頃には僕たちの方も落ち着くし…。

でも取り急ぎは文乃さんのご両親に挨拶にいくね。」


「どうも…。でも今は父が絶句してたからやめた方がいいかも」


「そっか。でも文乃さんのご両親になに言おうかな〜」


北里さん。私は貴方からいったい両親になにを暴露されるのですか…。

そんなへんな性癖とか持ってないはず…といいますかそんな関係にもなってはいないし…。

そもそも恋人でもなかったのにいったいなにを言うんだ!


「でも取り急ぎ引っ越しが急務よね」


駅に向かって歩き始めたら、北里さんが手をにぎにぎしてきた。

最近気がついたのは、彼は機嫌が良い時は手を握ってくる。わかりやすい。でも

恥ずかしい。年齢的に恥ずかしい。


「文乃さん引っ越ししたことあるの?」

「あ〜。けっこうあります」


お互い前を向いて、北里さんがどんな顔しているかはわからない。


「大学の一人暮らしと、その出戻りからの再び舞い戻る的な」

「行ったり来たりだね」

「だんだん、人ってこなれてきますね。」

「僕もけっこうあちこち転勤で転々としたからな。荷物がどんどん最小限になったよ」

「なるほど」


いきなりの結婚でというか、入籍で(手続きあるので、会社にせかされた。何故…。)

会社もファミリー用の社宅を用意してくれた。

ご祝儀もかねているらしい。というのは北里さん情報。そうこうしているうちに駅に到着。

ここからバラバラに自分の家に帰る。

私は一人暮らしのマンションに。北里さんも自分のマンションに。


「気をつけてね」

「いい年のババアなので大丈夫です」


北里さんはため息を大げさにつく。


「文乃さんて、年齢の割に子供っぽいからなんか心配。今日だって学生さんみたいだし」


私の今日の格好はジーパンにリネンのシャツ。その上に毛糸のベスト。

その上にニットのロングカーデ。足元はスニーカー、カバンも革の肩掛け。

髪型もポニーテールです。


「30手前でこの格好は痛いのか…」


そういう北里さんは

ブルーブラックのチノパン?に赤系のトーンオントーン(というらしい、つまりチェック)のシャツ

その上にカーデ。アウターはダッフルコートをきている。


「北里さんは私服おしゃれですね」

「文乃さんはもっとおしゃれしたら。アクセサリーの一つでもすればいいのに」


「……。次回に乞うご期待……。では」


そういって北里さんを置いてさっさと改札を通った。あわてて追いかけてきたみたいだったけど

華麗に今度こそスルーしてさっさと帰宅した。自分でも少女っぽいところが抜け切れてないのは

わかっているが、どう直したものか…と。

自分に何が似合うかなんてわからない。そう思いながら引っ越し準備でぐちゃぐちゃな

部屋の中で寝た。


***


次の日もお休み。

スマホには、北里さんからのライン。を華麗に無視してお出かけの準備をする。

北里さんに言われたからではないが、アクセサリーの一つでも買いに行こうと寝る直前に思い立った。

30歳だ。アクセサリーを身につけるのも化粧と同様にマナーのようなもの。

そうしてふらふらと買いに出た。

アクセサリーをソコソコの店で買うので一応きちんとした格好をしたのは、きっとこれから対峙する

お店のお姉さんに向けてた。昨日あんな格好でごめん北里さん、と心の中で謝っておく。


アクセサリー屋さんをひやかしていると、指輪を見つけた。一粒オパールの綺麗なやつ。

指のサイズも始めて測ってもらう。そんなに高くないし、乳白色のオパールがとても綺麗で

指にはめると不思議としっくり馴染んだ。


「よくお似合いですね」


と店員さんも褒めてくれるし気に入ったので買うことにしようかと思っていたら

隣に結婚指輪を発見した、私。

おぉ!そういえば慌ただしい入籍になったので、婚約指輪も結婚指輪もない。

そしてそれに気がつかなかった私。

北里さんも気がついてないだろうな…。そもそもいるのかな…。いるか…。つけてないと

既婚者か未婚かわからないし…。

とぼーっと考えているとそちらはペアリングです。と店員さんが声をかけてくれる。


「とりあえず、その指輪にします。」



オパールの指輪をサクッとお買い上げしました。



***


帰り道。

歩いているとスマホがブーンブーンとバイブにもかかわらず主張してくるので

電話にでた。


「はい。文乃です」

『文乃さん。北里ですが』


声が心なしか不機嫌


「おぉ!どうしましたか」

あえてアホ装って、明るく反応してみる私


『ライン送ったの見てないの?』

「見てないや」

『まったく…。明日時間ある?色々と打ち合わせしたいから会社帰りにご飯行こう

予約しておくし、居酒屋ではないし、昨日のセリフ期待してるよ』


北里氏はさりげなくハードルを上げてくる。


「かしこまりました」


待ち合わせの場所と時間をきめて電話を切る。

私のほうは、仕事の引き継ぎが完了していて、辞職の手続きに入っているので明日も休みだ。

アクセサリーも買ったし!明日は出陣じゃ!


***


レストラン

北里さんはかなり不機嫌。

原因は、この指輪。


「なんで一人で買いに行ったの」

から始まって

色々、色々言われる。


「婚約指輪も、結婚指輪も一緒に見に行ってないのに」

「北里さん覚えてたんだね」


あ、失言と思った時にはすでに遅し…。


「文乃さんは忘れてたみたいだけどね」


北里さんからきたラインの内容が指輪の話だったのに、しかも昨日見に行こう

みたいなお誘いだったのに…。電話にも気がつかず、ラインもスルー。

当てつけのように(そのつもりは一切なかった)一人で指輪買ってればそりゃ感じ悪いよね…。うん。


「ごめんなさい」


私は真摯に謝るしかなかった。


「…。指輪、引越し後じゃないと買いに行けないけど…」

「いいよ。いいよ。私が悪いから」


北里さんはなんだか本当に残念そうでこちらが申し訳なる。


「その、オパールの指輪。文乃さんに似合いすぎててムカつくね」


北里さんは指輪を見つめてくる


「一緒に選びたかったなぁ」


その一言に、私はなんとなく驚く。

私の中の北里さんは、もっとひょうひょうとしていてさっぱりでスッキリな人の印象

だったけれど。最近の北里さんは、結構変人でねちっこい。


「なんだか、最近の北里さんは色々と意外」


「僕も。最近の文乃さんは色々と意外」


私は面白くなって尋ねる。どの辺が?と。


「僕は、文乃さんのことを、変な事が好きで面白そうな事が好きでトラブルが好きな人で

仕事の手が早くてなんか、丸くて硬いイメージだったんだけど」


「……丸くて硬いって何」


「イメージの話だから」


北里さんにおもいっきり流される。


「文乃さんて…ギャップ激しい」


「よくわかんないけど、それは北里さんもだと思う」


料理が勝手に運ばれてきた。

今日は北里さんオススメのイタリアンだ。


「それからね、文乃さん」

「なに」


「僕も北里さんだけどね」

「うん」


「文乃さんも、北里さんなんだけど」

「……。なかなか慣れないの」



結婚指輪って結婚したんだ!と思える。特に、付き合いの長い人こそ

つけてるのを見るとくすぐったいですね。

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