世界の終わりが月曜日だったら
(二)
こうして君と夕陽を見ていると、今日がまるでいつもの月曜日みたいだね。
旧校舎の屋上から沈んでいくオレンジを眺めていると、この世界には何ひとつ悲しいことなんてないような気がしてくるよ。
今日は少し風が冷たいかな。もう夏も終わりだね。
疲れたでしょ? 本当にありがとう。
このまま、朝日が昇るまで、ずっと手を繋いでいよう。
ちょうど一週間前の月曜日。
恋人と夕陽を眺めていると、校舎や街のスピーカーからアナウンスが流れてきた。
「世界が! 終わります! 世界が! 終わります! 世界が!……」
家に帰ると、両親は食い入るようにテレビを見ていた。画面には研究所のような部屋が映し出されていて、ずれた眼鏡をかけた白衣の男が叫び声を上げていた。
「何度も何度も計算したんだ! この私が! 何度も、何度もッ!」
男は髪を掻き毟りながら、僕たちに向かって叫び続けた。
「ちょうど一週間後! 隕石が降ってくる! この星を木っ端微塵にしてしまう! どうする!? みんなお終いだ! ははっ、ははっ、はは……」
乾いた笑い声の後、男は自分の右手に持ったナイフを首に押し当てた。
「さようなら、私は先に逝く。残念ながら私の計算は完璧だ。もう、どうしようもないんだ……」
画面は暗転して、それきり何も映さなかった。
映画のワンシーンのようなその映像は、どうやら真実らしかった。
翌日、朝からいくつものサイレンが鳴り響き、老若男女を問わない怒声や叫声が街を支配した。
家族とどこかへ隠れようとしたけれど、家を出てすぐに、僕以外はみんな殺されてしまった。
恋人を捜して、僕は狂ってしまった人々の中を走り続けた。
火曜日、水曜日、木曜日……ようやく君に逢えたのが昨日だったね。
よかったよ、またこうして月曜日にここに来られて。
あ、もうすぐ日付が変わるよ。世界が終わる、のかな……。
三、二、一……。
ほらね、やっぱり。そんなに呆気なく終わるわけないよね。君もそう思ってたでしょ?
的外れな人間の科学……誰も死ぬ必要なんてなかったのにね。
日が昇ったら、向こうの街まで行ってみようと思うんだ。僕みたいに生きている人がいるかもしれないからさ。
だから、君におやすみを言うのは、今夜が最後だよ。いつかまた必ず戻ってくるから。その時には、君の好きなこのキャンディーをたくさん持ってくるからね。
今はひとつだけ。大切に持っててね。
じゃあ、おやすみ。
大好きだよ。
朝日が昇って、少年は歩き始めます。
壊れた世界の中で見つけたときには既に息絶えていた少女を残して。
(一)
ねぇ、はじめて一緒に屋上に行ったときのことを覚えてる?
委員会がある月曜日の放課後、わたしがキミを呼び出して……。それからは、毎週月曜日に屋上でデートするのが当たり前になってたよね。
何回目かのデートの時、空が曇ってて、夕陽が見れないって拗ねたわたしに、あめ玉、くれたよね。
夕陽みたいなオレンジ色の、まん丸のあめ玉。
嬉しくて笑って、キミも笑って、なんだかとっても幸せだったよ。
この幸せがいつまでもいつまでも続けばいいなぁ、って思ってた。ほんとうに。
世界が終わるのが月曜日だったらどうする? って、オレンジ色を眺めながら話したね。
キミは少し黙ってから、「いつもみたいに、ここで君と夕日を見るよ」って。
それを聞いて、わたしが泣いちゃって、キミは慌てて……。
もしかしたら、あの時から、今日みたいな日が来ることを予感してたのかも……なんてね。
この前の月曜日、あの放送を聞いてキミと別れてから、早く次の月曜日が来ればいいのにって思ってた。
次の日の朝には、街はめちゃくちゃになってて……たくさん走って、キミを捜したけど見つからなくて……。
今日は日曜日だから、あと一日。明日あそこに行けば、またキミに逢えるよね……?
……でも、ごめん。
……もう、足が動かないよ……。
また屋上に行って、キミとたくさん笑って、あめ玉をなめながら夕陽を見たかったなぁ……。
キミと一緒にいられて、幸せだったよ。
わたしの世界が終わっても、キミは生き続けて、めいっぱい笑って……ときどき、わたしのことを思い出してくれたら、わたしは、それで……。
一人の少年が、息絶えたばかりの少女を見つけました。
少年は悲しそうに微笑んで、生命の重さを確かめるように少女を背負って。
悲鳴と怒号の吹き荒れる街の中を、どこかへ向かって歩き始めました。