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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第七話 本郷巽の友人

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その4

話が盛り上がっている時。

「そうだ。ばあさんに見て欲しいものがある」

音無が急にそんなことを言った。

「ほう?なんだね」

「巽が持っている霊石なんだが」

音無を見つめる梓の祖母に、音無は本郷を指差す。どうやら本郷のネックレスの石の話しらしい。楓は黙って話を聞く。

「ただの癒しの霊石のはずなんだ。だが巽がこいつに心を吸われたのが原因で、調子を崩したんだと」

本郷が音無に視線で促され、ネックレスを外して梓の祖母の手に渡す。ネックレスを外すと落ち着かないと本郷は言っていたが、楓が様子を伺うとにこりと笑ってくれた。


「あのねおばーちゃん。先輩のその石、念がこもり過ぎて割れそうなの。そうなったら大変だから、石神様が新しい念を、ちょっとづつ食べてくれているのよ」

楓からも、梓の祖母に説明する。楓としても、この件が解決するのは喜ばしいことだ。

 梓の祖母は、しげしげとネックレスを眺めた。

「確かに、そこの坊やの霊気が篭っているね。それに微かだが、(まじな)いの気配がある」

梓の祖母の言葉に、音無は目を瞬かせる。

「石神様にお伺いするのが、一番確かだよ」

楓にそう話を振った後、梓の祖母は霊石を本郷に返した。本郷は少しホッとした様子を見せた。

 楓は、お守り袋を見た。


「えっと?」

『確かに、その男以外の念を感じる。霊石の奥深くに、微かに存在する念だ』

「あの、先輩以外の誰かの念が、その石の深くにあるそうです」

楓が通訳すると、興味が出たのか梓も興味深々で本郷のネックレスを見ている。

「でもなぁ、呪いって」

心当たりがない、というように音無が首を傾げる。すると、

「お願いは?」

急に梓が口を挟んだ。

「は?」

「願掛けもある意味お呪い」

梓の言葉に、音無はぎゅっと眉根を寄せる。

「願掛けか」

「例えば、悪いものを全部とっぱらえ、的な」

音無が、宙をにらむようにして考え込む。

「……なんか、覚えがなくもない」


「だとしたら、それが霊石に方向性をつけたのかもしれないね。石は人の念を吸い込みやすい。霊石ならばなおのことさ」

肯定した音無に、梓の祖母が畳み掛ける。

「てことは、やっぱ原因は俺か」

音無が苦虫を噛み潰したような顔をした。

「類、そのような顔をすることないんです。あの頃の僕の熱は、ストレス性だと診断されていました。なので正しく、類は僕を救ってくれたのです。その後このネックレスに頼ってしまったのは、僕の弱さなのですよ」

「巽……」

お互いを庇いあう男二人に、楓がちょっとジーンときていると。

「誰が悪いとか、今更」

梓がズバッと空気を切り裂いた。

「あ~ず~さ~、お前は傷心の俺を慰めようという気持ちはないのか」

音無が身を乗り出して、梓のこめかみを拳でぐりぐりとする。

「いたいたいたいた……!」

「これ二人とも、じゃれるでない」

ぐりぐり攻撃の攻防を繰り返す二人を、梓の祖母がたしなめた。


「だがそれならば話は早い。類よ、願抜きをしておいで」

楓には話の流れがよくわからないが、解決方法があるようだ。

「おばーちゃん、もう先輩は石に心を吸われなくなるってこと?」

「その可能性は大きいだろうね」

ぱあっと表情を明るくする楓に、おずおずと声をかける者がいた。

「あの、楓さん」

榊に声をかけられ、楓はそちらを向いた。

「先ほどのお話ですが。その霊石に込められている本郷の坊ちゃんの念を、全て石神様に食べていただくことはできないのでしょうか」

榊の話に、楓は目を丸くする。

「榊、お前」

「だってな類。そうすれば霊石を本家に返せるんだ」

音無が榊に厳しい視線を向けていた。だがそれも、楓の視界には入らない。


「だめですよ!この石にこもっているのは、先輩の幼少期の心です。それを消しちゃいけないんだって、石神様も言ってました!」

今までずっと大人しかった楓が声を荒げたので、榊は驚いている。

「先輩に人格障害が出たら、私は悲しいです」

俯いてしまった楓の肩を、本郷がそっと抱き寄せた。

 梓と音無が、榊をじっとりと見つめる。

「榊さんいじめっこ」

「巽の女を泣かせたのは、お前だぞ榊」

「いや、本当に申し訳ない。ちょっとした思い付きだったんです。お願いだから泣かないでください」

平謝りする榊に、楓は涙が滲む目を向けた。そんな楓を慰めながら、本郷が苦笑する。


「これが音無本家の大切なものであることは理解しました。本来ならば返すべきなのですが、僕としても今更手放せないのですよ。身に付けていないと落ち着かないのです。石神様曰く心の一部がこもっているのだから、当たり前のことらしいですが」

「まあ話を聞くに、楓の彼氏の半身のようなものだろう」

本郷の言い分を、梓の祖母が補足する。

 バツが悪そうな顔の榊に、音無がため息をつく。

「そもそもこれを持ち出したのは俺だしな。俺から親父に直接報告しておく。だから榊は絶対に口外するなよ。漏れて他の奴に知られて、この霊石を奪おうとされたら厄介だからな」

言いふらしてはいけないという音無に、楓はふと思いついた。

「あ、先輩あの人は?」

「はい?」

楓の言わんとすることを、本郷はわからないのか、首を傾げる。


「あのお屋敷で会った骨董屋さん、木崎さんですっけ」

「あぁ……」

本郷がとても嫌そうな顔をした。思い出すのも嫌らしい。わからないというよりも、記憶から消していたのかもしれない。

「なんの話だ」

要領を得ない楓たちの会話に、音無しが眉をひそめた。

「あのですね、とても珍しいものが大好きな骨董屋さんです。霊能者じゃないかって、石神様が言ってました」

「このネックレスを、とても欲しがられまして。非常に気持ちの悪い、迷惑な存在です」

「骨董屋だと?」

楓と本郷の話を聞いて、音無が考える仕草をする。

「榊、お前知っているか?」

音無が榊に話をふるも、そちらも首を横に振った。

「僕としては今後一切付き合うつもりのない人物ですが。妙にこのネックレスに執着されているのですよ」

「ふぅん、そいつはあまり、好ましくないな」

音無が呟く。

「少し調べてみましょう」

榊が木崎について請け負ってくれた。

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