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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第七話 本郷巽の友人

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その3

楓の姿を発見して、本郷が小走りに近寄ってくる。数日振りに見る本郷の姿に、楓の心が沸き立つ。

 楓は目の前まで来た本郷の手を、両手でぎゅっと握った。

 ――本当に先輩だ!

 どうしてここにいるのかはわからないが、もうしばらく会えないと思っていたのだ。会えた喜びで一杯の楓を見る本郷も、やわらかい微笑を浮かべている。

「僕は友人を訪ねてきたのですが」

「私はその、梓ちゃんの家にお泊りに」

楓と本郷が、二人同時に答えた。そして顔を見合わせる。

「こんな偶然って、あるんですね先輩」

「ええ、本当に」

そして二人で小さく笑う。


「お嬢さんは、本郷の坊ちゃんのお知り合いで?」

運転手の男性が以外そうな顔をする。

 そんな二人を見比べているのが、楓の隣にいる梓だった。梓がぽんと両手を叩いて、本郷を指差した。

「楓ちゃんのお色気ムンムンの元」

「梓さん、人を指差すのはやめましょう」

男性が梓をたしなめる。

「梓ちゃん、恥ずかしいからそれやめて……」

お色気ムンムンのフレーズを気に入ってしまったのかもしれない梓に、楓は頬を赤らめて抗議した。

「お色気とやらがなにを指すのかは置いておくとして、僕が楓さんの恋人であるというならば、その通りですよ」

本郷が楓の肩を抱いて、梓に答えた。本郷の答えになるほどと納得してる梓をよそに、驚愕している人物がいる。


「巽が恋人だと!?あの超絶女嫌いの男に、恋人……!?」

急に近くで大声を出され、楓は驚いて本郷の影に隠れる。

「ああ楓さんを驚かせましたね。こいつが僕が訪ねてここまできた原因、音無類です」

「……初めまして」

本郷の影から顔を出して挨拶すると、音無はまだ驚いた顔をしていた。

「楓さん、くれぐれも類に近寄らないように。悪い菌に感染されては困りますからね」

本郷がそう言って、楓を自分の背中に隠した。

「おいこら巽、俺をなんだと思ってやがる」

「だまりなさい、あなたの女癖の悪さはもはや病原菌レベルの深刻さです。楓さんも用心してもらわなければ」

なにやら、ひどい言い様である。

 ――友達、だよね?

 男の友情というものは、楓には難しいものなのかもしれない。


 楓がどうするべきか戸惑っていると。

「楓ちゃん、中はいろ?」

梓に促されたので、楓は家へ向かう。歩きながら本郷と手を繋いでいた楓だが、それを音無が指摘する。

「巽が女と手を繋いでる!」

「いいかげんうるさいですよ、類」

ギロリと睨む本郷に、音無がなおも言う。

「お前、不能じゃなかったのか」

「潰されたいですか類」

二人のやりとりを困ったように見ている楓に、運転手の男性が話しかけてきた。

「本郷の坊ちゃんに、こんな可愛い恋人ができたんですねぇ」

この男性も、本郷を知っている人のようだ。

「えと、石守楓です」

「どうも、榊慶二、あそこにいる類のお目付け役です」

にこりと笑いかける男性に、楓も笑顔を返した。


友人との言い合いもひと段落したらしい本郷の手を、楓はくいくいと引いた。

「先輩あの人、私どこかで見たことある気がします」

楓は本郷の背中越しに、本郷の友人という男を見た。

 音無という人は本郷の東京にいた頃の付き合いの人で、楓は初対面のはずだ。なのに、記憶のどこかに引っかかっているのだ。本郷と並んでいても見劣りしない美形であり、こんな人物を見れば忘れないように思うのだが。

「おや、楓さんはオカルト番組など見ないでしょうに」

そんな楓の発言を、本郷は不審に思わなかったどころか、そんなことを言ってくる。

「占い系の番組も出るぞ」

本郷の言葉を、音無が補足する。

「テレビに出る人なんですか?」

本郷の言葉からして、結構有名な人なのかもしれない。もしかすると知らない楓は珍しいのだろうか。そんな不安を感じていると、梓が肩を叩いてきた。

「楓ちゃん、私なんて見たことも聞いたこともない」

だから安心しろ、と梓は言いたいらしい。


 家の中に入ると、お昼がまだの楓のために、榊が昼食を作ってくれた。

「好みがわからないので、梓さんお気に入りのオムライスにしてみました」

にっこり笑った榊に促され、楓はオムライスを口に運ぶ。ふわふわのトロトロで、お店のオムライスみたいに美味しい。

「美味しいです」

素直に感想を告げると、榊が微笑んでくれた。そんな楓の昼食風景を、本郷たち三人に見つめられている。

 ――あの、食べにくいんですけど

 そんな様子で昼食を終えると、梓の祖母が姿を現した。

「よく来たね楓。ゆっくりしておいき」

「ありがとう、おばーちゃん」

くしゃりと頭を撫でてくれた梓の祖母に、楓は笑みを浮かべる。楓の横で、梓が報告する。

「おばーちゃん、石神様も来た」

「そのようだね。では今夜は石神様の歓迎の宴をするかね」

梓の祖母も石神様の気配を知っていたらしく、驚いた様子を見せなかった。


 響家二人の会話に、本郷が目を細める。

「石神様、ですか?」

隣に座っている本郷に、楓はお守り袋を見せる。

「はい、欠片ですけど。ほら」

楓がお守り袋の中から出した、艶のある石の欠片を本郷が注視する。

「欠片だけど、ちゃんと石神様の本体の一部なんですよ」

「そうなんですか」

楓と本郷とは別に、不思議そうにする男がいた。

「石神様?」

「石守神社の神様。楓ちゃんは石守神社の人」

話のわからない音無に、梓が説明している。「石守神社」と音無が小さく呟いていた。


 一方の本郷は納得顔だ。

「なるほど、道理でヘッドフォンを持っていないと思いました。神様同伴だったのですね」

「はい、おかげで声も気になりません」

楓が笑顔で言うと、本郷が不思議そうな顔をした。

「そのように便利なものがあるのならば、いつも持っていればいいのでは?」

「小さくても神様の欠片ですから、落としたりしたら大変でしょ?それに神様頼りは私のためにならないからって、おじいちゃんに言われて」

なにせ小さな欠片だ。うっかり落として、溝に入ったりしては大変である。

「なるほど」

再び納得するように本郷が頷いた。


 楓と本郷のやり取りを見ていた梓の祖母が尋ねてきた。

「類の客人は楓の彼氏かい」

梓同様、祖母にもお見通しである。楓は頬を赤く染めながら、こくりと頷いた。

「そう、私のお、お付き合いしている人、です」

なんだかとてつもなく気恥ずかしい。思えば楓の両親への挨拶は、本郷が一人でしたのだ。楓は隣で黙って聞いているだけだった。

 ――先輩って、すごいよ

 照れてどもりがちの楓と違って、あの時の本郷はとてもスマートだった。

 恥ずかしがる楓に、梓の祖母がにこりと笑った。

「そうかい。楓を理解してくれる男が現れたんだね。楓のじいさんも、あの世で喜んでいるだろうよ」

楓が微笑むと、本郷が頭を撫でてくれた。


「あのね、私の学校の部活の先輩なの」

楓の説明に、音無が口を挟んだ。

「部活ってぇと、弓道部か?」

それに対して、本郷が答えた。

「いいえ、郷土歴史研究会です。弓道は個人的に続けています。楓さんのお宅の石守神社には、弓道場があるのですよ」

「先輩は毎週土曜日に、弓道場に通ってくるんです」

「ふぅん」

楓がそう補足すると、音無が楓と本郷を見比べるようにする。本郷の日常話に、音無は興味があるのかもしれない。

「先輩は風紀委員長で、女子生徒にすっごく人気があるんですよ」

「ま、そこは中学までと同じだな」

話を聞けば、音無と本郷は幼稚園から中学までずっと同じ学校だったらしい。

 ――どうしよう、ちっちゃい先輩の話、すごく聞きたい

 目を輝かせる楓に、音無は滞在中に聞かせてくれると約束してくれた。

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