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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第六話 謎の骨董商

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その5

武者鎧は石守神社に送られることになった。もう動かないだろうと木崎は言っていたが、念のためのお祓いをすることになったのだ。

「もしかすると、重要な書類の番人をしていたのかねぇ」

木崎が暢気に推測している。

「歴史が古いと、いろいろあるでしょうしね」

大事な書類の保管を任されていた可能性もある。時代劇のように、悪行の証拠とは限らない、と新井先生が重森氏に説明していた。

「まあ大昔のご先祖様の話ですから。今の私にはなんともね」

思いがけない事件に、重森氏は苦笑していた。だが少なくとも、今後の酒の肴にはなると言っていた。なんとも強い人である。

 武者鎧が石守神社に運ばれることに、楓がぷるぷると首を振って反対したが、本郷が楓の父親と電話で話をつけてしまった。

 ――ひどいよ先輩!

 涙目でむくれる楓に対して、本郷が一生懸命に機嫌をとってくれたので、それでよしとすることになった。

 木崎は帰るらしく、何故かみんなで見送った。確実に帰ったということを、本郷が確かめたかったのかもしれない。

「名残惜しいねぇ。ぜひまたの機会に」

「二度と会いたくないので、そのような機会はありませんよ」

にやりとした笑みの木崎と、冷風吹き荒れる様子の本郷が、玄関前でしばし睨みあっていた。


 それからすぐに夕食の時間となった。重森氏が近所の料理屋から料理を取り寄せてくれたらしい。豪華な御膳が目の前に並び、みんなで歓声を上げながら食べた。

「美味しいねぇ」

「盛り付けが綺麗だね」

楓は寧々と感想を言い合いながら食べる。野菜が飾りのように皿に飾られていて、食べるのがもったいない気分になる。

 ちなみに重森氏は、

「お前の息子の嫁と食事をしたぞ」

と本郷の父親に写真つきでメールをしたらしい。とても羨ましがられたそうだ。彼ら二人の間では、楓はもうすでに本郷の嫁で決定のようだ。

 食事の後は、男女に分かれてお風呂タイムである。楓は橋本姉妹と一緒に入った。

 屋敷の広さに比例して、お風呂も広かった。ちょっとした温泉旅館のような風呂場に歓声を上げる。

「手足が広げられ、なおかつ数人同時に入れる湯船が自宅にあるとは、贅沢の極みだな」

莉奈が湯船に身体を沈めると、はーっと息を吐いた。

「広いお風呂っていいねー」

「うん、気持ちいい」

寧々と背中の流し合いをしながら、長風呂をする。幼少の記憶を除けば、こんな風に誰かとお風呂に入るのも、楓は初めてだ。本郷と風呂に入ったことがあるにはあるが、あれは楓の中ではノーカウントだ。


 風呂から上がると、楓は最近の日課である柔軟体操をする。

「楓ちゃんて、身体かたいね」

「うう、がんばる」

寧々に背中を押してもらいつつ、楓は懸命に前屈をした。

 楓たちが泊まっているのは屋敷の離れであり、部屋は女部屋と男部屋に大人部屋という風に分かれている。とはいえ、女部屋と男部屋の仕切りは障子戸一枚である。なので、

「こちらは男子禁制だ」

と莉奈が障子越しに、本郷に宣言していた。

 寧々と枕投げ合戦を行い、莉奈の判定で引き分けに終わったところで、女部屋の消灯に来た新井先生に明かりを消された。

 これからが女子トークの始まりだ。

 ペットボトルのお茶を飲みながら、持ってきたお菓子を摘む。


「ねー、楓ちゃんと本郷先輩って、二人でいる時どんなことするの?」

純粋な好奇心で尋ねてくる寧々に、楓は言葉を詰まらせる。

「……えーと」

正直に答えるには、少々難がある。

「宿題見てもらったりとか、晩御飯つくったりとか。……ちょっとだけ、触り合いっこしたりとか」

莉奈の「それだけではなかろう」という視線に負けて、最後に少しだけ加えた。

「ほうほう、触りあいっことな」

「ものは言い様だな」

二人の視線が痛い。それもこれも、あんな紳士な顔をしている本郷が悪いのだ。

「やっぱり楓ちゃんのおっぱいが大きくなったのは、先輩が揉んだからか」

お願いだから寧々には、大発見したような顔をしないで欲しい。

「おっぱいって人に揉んでもらうと大きくなるって、本当だったんだね」

「胸の小さな女性には、朗報だ」

「もう許してください、恥ずかしいです」

楓は顔を真っ赤にして、枕に伏せた。

 楓の恥ずかしがる姿が見たかっただけらしい二人は、この話はここで終わりにしてくれた。


 楓は以前から気になっていたことを、この際に聞いてみた。

「莉奈先輩は、本郷先輩のことを、詳しく知っていたんですか?」

生徒指導室での件で、新井先生が莉奈を追い出さなかったことが、ずっと疑問だったのだ。

「楓は本郷が、事情があって東京から越してきたことを聞いたか?」

「はい、あの、謝罪の時に」

莉奈が質問を返してきたのに、楓は頷いた。寧々はこれに口を挟まない。そんな寧々にもわかるように、莉奈が説明した。

「本郷は東京での生活で、ストレス過多だったようでな。精神的に病んでいると家族が判断し、身内である平井先生を頼ってこの土地に越してきた」

「へぇー。でもうつ病とかいうのも、真面目さんがなりやすいっていうもんね。本郷先輩、超真面目さんだしねー」

莉奈の簡単な説明に、納得したように寧々が頷いていた。


「そう、入学当初も生真面目が過ぎる男でな。私は新井先生の実家の近くに住んでいて、昔から親しかった。なので新井先生経由で、平井先生に頼まれたのだよ。本郷の挙動がおかしければ、すぐに知らせてほしいと」

「そうだったんですね」

楓はようやくあの時のやり取りが理解できた。新井先生は、もしもの時の楓のフォロー要員として、莉奈を残したのだ。先生よりも生徒の方が、楓との接触はたやすい。

「だが一年の時は平井先生が懸念するような事件を、本郷は起こさなかった。しいて言えば、極度の女嫌いがトラブルと言えたな」

「女嫌い?」

寧々が不思議そうな顔をする。橋本姉妹や楓に対して、険悪な態度をとったことがないからだろう。

「とにかく女に対して偏見が強かった。よほど東京で極端な女たちに囲まれていたのだろう。化粧と香水臭いだけの生き物など、近寄りたくもないと言っていたな。幸い私はそれに当てはまらず、近寄っても拒絶されなかったわけだ」

「うーん、東京にも普通の女子っているんだろうけどさぁ。あんだけ美形な人だから、そういう女子をひきつけるんだろうね」

「おそらくはそんなところだろう」

女嫌いという言葉を、楓はなんとなくわかる気がする。一年女子が本郷がクールだと評するのが、おそらく女嫌いの裏返しなのだろう。

「そっかぁ。そんな女嫌いの本郷先輩を、楓ちゃんのおっぱいが解きほぐしたわけだ!」

寧々のにこやかな笑顔での発言に、楓は飲んだお茶を噴出しそうになった。


「ゴホゴホッ、寧々ちゃん、なに?」

「楓、大丈夫か」

咳き込む楓の背中を、莉奈が撫でてくれた。

「えーだって。先輩、楓ちゃんのおっぱいが絶対に大好きだよね?いっつも見てるし」

寧々に断言されてしまった。

「え、そうなの?」

「そうだよ、楓ちゃんを見る先輩の視線って、必ず最初におっぱいにいくもん」

それに気付いていない楓は、本郷に常々気をつけろと言われていた意味が、ようやくわかった気がした。鈍すぎだ、自分。

「まあ、本郷の視線が、必ず楓の胸を確認しているのは、変えようのない真実ではあるな」

莉奈にまで言われた。

「女など基本視界に入れない本郷が、惹かれてやまないのが楓の胸というわけだ。誇ってもいいことだぞ、楓」

本郷が楓の胸を好いていることを、周囲の人間に認識されていた。これって実は、すごく恥ずかしいことではなかろうか。

 ――先輩のバカ

 だが困ったことに楓はそれが、嬉しい気がしなくもないのであった。

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