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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第六話 謎の骨董商

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その4

木崎も含めて、全員で蔵の中身を確かめることになった。

 電気の明かりなどない蔵の中は、昼間であっても薄暗い。なので昼間でも懐中電灯を持っての作業となる。

 木崎がすでにいろいろと漁ったようで、物が散乱していた。その奥に、存在感のあるものが置いてあるのが見える。

「おー、武者鎧だ!」

蔵の奥に鎮座するように仕舞われている武者鎧に、寧々が嬉々とした反応を見せる。

「立派なものですね」

本郷もこういったものは初めて見るのか、懐中電灯に照らされた武者鎧に、目を凝らしている。

「ご先祖様から代々伝わるものだけどね。家に飾っておくには、とても嵩張るんだよ」

重森氏がそう説明した。確かに、床の間に飾ると迫力があるだろうが、楓みたいな怖がりは、まず床の間に入れなくなるに違いない。それに手入れも大変そうだ。


「ううーん、これって夜中に動いたりしないのかな」

寧々がなにやら物騒なことを言っている。楓はそれを想像するだけでも怖いので、心底やめて欲しい。

 だがそんな寧々の話に乗ってきた人物がいる。

「ああ、武者鎧の伝説としては定番だねぇ」

「そうでしょ、一度見てみたいよね!」

どうしよう、寧々と木崎の話が盛り上がっている。

「この二人、趣味が似ているようですね」

本郷が二人の様子に、とても嫌そうにしていた。

 とにかく、蔵の整理が始まった。物を汚してはいけないので、全員手袋着用である。


 とても古い時代の文献や、置物の類がたくさんある。古い家柄だというのは本当のようだ。莉奈が興味深そうに、レポート用紙にメモしている。

「状態がいいですね。文献は展示できそうだ」

「内容は、土地の年貢の納め具合みたいね」

莉奈が手に取っているものを、新井先生が後ろから読んでいる。さすが古典の先生だ。

 平井先生は重いものを動かす係だ。郷土歴史研究会のメンバーだけでなく、木崎にも使われている。明日はきっと筋肉痛になるだろう。

 そしてそんな中、楓には不幸なことに、小さな石像が見つかってしまった。両手で抱えるくらいの、龍の像である。

「まあ、龍の石像ね。昔雨乞いにでも使ったのかしらね」

新井先生曰く、龍と言えば、昔から水の神様といわれているらしい。

『南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……』

その水の神様の龍の石像から、念仏が聞こえる。信心深い人が彫ったのかもしれない。

「楓さん、これは?」

本郷に小声で尋ねられる。

「……ひたすらお念仏を唱えてます」

おそらく無害だろうということで、放置することとなった。せっかくなので、どこかの公園の池にでも飾ろうか、と重森氏が話していた。お念仏効果で、悪いことをする人が減るのではないだろうか。


 一緒に蔵の捜索をしている木崎も、自分好みなそこそこ珍しいものが見つかったようだ。ご機嫌でいろいろなものを見ていた。木崎は骨董屋としては目がいいらしい。これは本物、これはコピーだと、いろいろなものを振るいにかけていく。

「これでも、鑑定で食べているんだよねぇ」

不審そうな本郷に対して、特に堪える様子もなく、飄々としている。

 日差しが傾いてきて、そろそろ終わりにしようか、という時刻。

「あ、お札発見!」

とうとう、寧々が目的の物を見つけてしまった。お札の張られている箱が、本当にあったのだ。

「ああこれこれ。なんだろうね、この箱」

木崎も興味深々で近寄ってくる。

「あの、そんなの、放っておきませんか……?」

楓がささやかな抵抗を試みるも、寧々と木崎は聞こえていなかった。

「諦めろ楓、楽しそうな寧々は止まらん」

莉奈が楓の肩を叩く。


「そんな曰くのありそうなのが、うちの蔵にあったんだなぁ」

重森氏も関心していないで、どうにか止めてほしいと楓が願っていると。

「こういうのは、とりあえず開けてみるといいよぉ」

木崎が箱に手をかける。鍵などがあるわけでもない箱は、あっさりと開いた。

「紙束が入ってるね?」

「なにかの書き付けだねぇ」

書き付けと聞いて、新井先生がそちらに寄っていく。

「うーん。これは状態が悪いわ、読めそうにないわね」

書き付けの紙は変色が激しく、ボロボロだった。一番湿気の多い場所にあったようだ。

「なにか重要な書類を仕舞っておいて、見られないように脅しのために、お札を貼ったのかねぇ」

開けても何も起こらない箱に、木崎が首を傾げる。そういうこけおどし的な使い方が、たまにあるらしい。


「なぁんだ、残念」

寧々には悪いが、楓がホッとしていると、

 ガシャリ

 蔵の奥から物音がした気がした。重ねていたものが崩れたのだろうか、と楓は奥を懐中電灯で照らす。

「楓さん、どうしました」

「えっと、音がしませんでした?」

楓がそう言うと、本郷も一緒に懐中電灯で照らす。そこにあるのは、武者鎧だ。

「うーん、なんとも……」

本郷が答えると同時に。

 ガシャリ

 また音がした。今度は気のせいではない。何故ならば、その音の源は武者鎧だからだ。

 そう、武者鎧が動いたのだ。


「ひいぃぃ!」

楓の悲鳴に、その場の全員がこちらを向いた。その眼前で、武者鎧はまた一歩を踏み出す。

「で、でたでた……」

楓はその場にぺたりと座り込む。そして手の届くところにある本郷のズボンの裾を、ぐいぐいと引っ張った。

「楓さん、大丈夫ですか!?」

「せんぱ、なにあれなにあれ……!」

這いずるようにして、本郷の脚にしがみ付く。腰が抜けたようで、楓にはそれで精一杯だ。

「うおぉぉ!?」

「寧々、止めないか突撃するのは」

興奮している寧々を、莉奈が羽交い絞めにして引きとめる。新井先生も悲鳴を上げて、平井先生の下へと逃げている。


「楓さん、とりあえず脚を離しましょう。抱えられません」

「むりむりむりぃ!」

本郷が楓に言い聞かせている言葉も、楓の耳に入らない。

 一同が混乱の最中にある状況で、一人飄々としている人物がいる。

「ちょっとそこの。責任をとってどうにかしていただきたいですね」

動く武者鎧を観察している木崎を、本郷がギロリと睨んだ。しかしそれに対して、木崎は肩をすくめてみせた。

「無理だねぇ。なにせ見るのと聞くのが専門で、お祓いはできないし」

木崎は実行犯のくせに、あっさりと白旗をあげる。

「無責任にもほどがある!」

 ガシャガシャと音をたてて、武者鎧は何故かこちらに近寄ってくる。

「やだやだやだ!」

「おやあ、巫女様の気配に反応したかなぁ」

本郷は暢気な木崎にもう構わず、強引に楓を脚から引き剥がした。


「とにかく、ここから出ましょう」

楓を抱きかかえて本郷が声をかけた時。

『俺のムッチリちゃんが怖がってんじゃねーか!』

本郷の胸元が、目映い光を発した。光の元は、本郷のネックレスの霊石である。

「きゃっ!」

すぐ側での光に、楓は思わず目をぎゅっと閉じる。

「……なんだ?」

霊石の持ち主である本郷自身が一番驚いている中、武者鎧は動きを止めた。そして重力を思い出したかのように、突然その場に崩れ落ちる。

「きゃーー!!」

その音に驚いて、楓は本郷にしがみ付く。目を固く閉じて震えていると、本郷が楓の背中を叩いた。

「楓さん、動かなくなったみたいですよ」

「……ほんとに?」

本郷の呼びかけに、楓は恐る恐る薄目を開ける。確かに蔵の中ほどで、武者鎧は地面に落ちていた。


「もう動かない?」

「さあ、とにかく出ましょうね」

楓が本郷に宥められていると。

「おおぉ!いまのは除霊の光だね!?珍しい、大変珍しいではないかぁ!」

木崎が興奮した面持ちで、本郷を見つめている。本郷は素早く木崎と距離をとる。

「寄らないでください」

「せめて、一目見たいねぇ!」

『寄るな!俺は変態は嫌いだ!』

本郷と木崎がせめぎ会っている間に挟まれた楓は、どうすればいいのか迷う。

 結局本郷と木崎を先生たちが宥め、平井先生が木崎の名刺をもらっていた。それで木崎は一応引き下がったようだ。

 ようやく楓が蔵から出ると、辺りは夕暮れに染まっていた。

「先輩、なにがどうなったの?」

ようやく本郷の腕の中から降りた楓が、ことの成り行きを聞いた。ほぼ目を閉じていたため、どういう結果になったのか知らないのだ。

「さあ、僕にもさっぱり。ただ、これの送り主に、急遽確認しなければならないことは、確かですね」

本郷が胸元からネックレスを出し、難しい顔で見ていた。

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