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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第六話 謎の骨董商

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その3

道の駅から目的の家まではそう遠くなかった。目的の家、というよりも屋敷に到着し、一同は驚いていた。

「大きい家だねー」

「なんか、お屋敷ってカンジ……」

寧々と楓は口を開けて門構えを見ていた。

「こんにちは、本郷ですが」

本郷がインターフォンに離しかけると、しばらくして門の閂が外れる音がする。そして門がゆっくりと開く。

「おおよう来たね、みなさん」

ちょっと小太りの中年男性が、にこやかな笑顔で出てきた。

「お久しぶりです、重森さん」

一同を代表して本郷が挨拶をする。


「巽くん、すっかり立派になって。大きくなったなぁ」

「お会いしたのは、ずいぶん昔ですからね」

本郷がバンバンと肩を叩かれている。どうやら子供の頃の本郷を知っている人らしい。

「涼くんも、すっかり大人の男だね」

「どうもー、久しぶりです」

平井先生がひらひらと手を振る。

 車を屋敷の敷地内に入れさせてもらい、一同はお茶の間に案内された。そこで開口一番、重森氏が言った。

「今日は巽くんがお嫁さんを連れてくると聞いたんで、楽しみに待ってたよ」

「……はい?」

本郷が驚いている。その隣の楓も目を丸くする。


「お嬢さんが噂のお嫁さんだろ?巽くんはいい子だよ、きっとあんたを大事にしてくれると保障するよ」

女子は楓を含めて三人いるのに、重森氏は明らかに楓に言ってくる。

 ――お嫁さんって!

 楓が頬を赤らめて、本郷の服の裾をぐいぐいと引っ張る。

「あの、おじさん一体なにを」

戸惑う本郷に、重森氏は携帯電話を取り出した。

「だってほれ、お前さんの親父から、電話で自慢話を聞かされてな。写真も送られてきたぞ」

「写真?」

不思議に思って楓が本郷と一緒に、重森氏のかざす携帯電話を覗く。そこにあったのは、以前平井先生に撮られた写真だった。本郷に抱きしめられ、顔を赤く染めている楓が写っている。なんというか、恥ずかしい写真だ。

「兄さん、これ父さんに送ったんですか?」

「おうよ、親父が欲しいと言うもんでな」

本郷にじっとりと見られても、平井先生は飄々としている。

「初々しいね、若いね、いいね」

重森氏は笑っているが、楓は俯いた顔を上げられないでいる。

「あいつは女の子が欲しかったみたいでなぁ。お嬢さんが可愛いんだろうよ」

本郷の父親が一体どんな人物なのか、楓はとても気になった。まだビデオレターでしか見たことがないというのに。

「うわぁ、だいたーん」

「本郷お前、こちらの手はどこを触っているのだ」

橋本姉妹まで、興味深々で写真を覗く。楓は恥ずかしくて、身の置き所に困る。楓はみんなの視線から逃れるように、本郷の背中に隠れた。



それから荷物を部屋に置かせてもらった後、早速蔵を見てみることになった。

「町おこしの一環でな、家の庭と茶の間の一室を開放して、蔵の中身を展示しようと、役所と話が進んでいるんだ。うちは古いだけが取り得の家だがね、それが最近流行っているんだと」

重森氏がそう説明してくれた。

「確かに、広いお庭ですね」

「維持が大変なんだよ。それでも先祖代々の家だからね」

広いお屋敷も、それなりの苦労があるようだ。そんな話をしながら、敷地の隅にある大きな蔵に案内される。

「立派な蔵ですね」

莉奈が外観の写真を撮りながら言う。

「古いが、造りはしっかりしてるんだよ。もちろん手入れもしてるがね」

 そしてその蔵はすでに開いており、だれか人がいるらしい。

「君たち以外にもね、骨董屋に来てもらっているんだ」

骨董屋という人に、楓は初めて会う。なんとなく、年配のおじいちゃんを連想する。


 蔵から、人が出てきた。

「おぅい、木崎さん」

重森氏が声をかけると、その人物がこちらを向いた。

「はいはい、おやぁそちらさんは」

「あ!」

「……あの人、あの時の」

寧々が指さして声を上げ、楓も首を傾げる。

そこにいたのは、人形の館で出会ったあの、黒縁眼鏡の男性だった。

「なんというか、偶然とは恐ろしい」

「よりによって、アイツですか」

莉奈も微妙な顔をしており、本郷に至ってはアイツ呼ばわりである。よほど前回出会ったときの印象が悪いのだろう。


「石守神社の巫女様ご一行じゃないのぉ。お久しぶりぃ」

耳につく間延びした話し方は、あの時のままだ。どうやらあの話し方は癖らしい。

「おや、知っているのかい?」

重森氏が本郷に尋ねてくる。平井先生と新井先生も、不思議そうな顔をする。

「知っている人かと言われれば、見たことはある人です」

本郷の説明は正しい。楓としてもちょっと喋っただけの人で、どこの誰かも知らない。

「ああそう言えば、自己紹介もしてなかったねぇ。木崎骨董店の主、木崎良彦です。今後ともどうぞよしなに」

にやりと言ったほうが似合う笑みを浮かべ、深々と頭を下げる黒縁眼鏡の男、木崎。本郷は非常に嫌そうだ。

「この蔵はあまり開かれていないようで、きっと珍しいものがあると思い、駆けつけたんだぁ。仲良くお宝発掘をしようねぇ」

「骨董屋さんだったんだ」

言われてみればそれっぽい、と寧々が納得していた。


「前回はねぇ、人形を見て欲しいと頼まれて、あそこまで出張したんだよぉ。結局好みのものじゃないし、犯罪沙汰は御免だしで、逃げちゃったけど」

「ふぅん?」

莉奈が見極めるように木崎を見つめる。

「でも、今日はここまで来た甲斐があるなぁ。キミのその珍しい霊石、もっとよく見たいなぁ」

「冗談ではありません、断固お断りします」

これ以上ないくらいのしかめっ面で、本郷が言い放つ。

『寄るな、触るな、近付くな!俺に触っていいのはムッチリちゃんだけだからな!』

副音声も喚いている。木崎はそれを興味深そうに聞いていた。

「ほほう、それは巫女様のことで?では巫女様にお願いすればいいかなぁ?」

「え、あの、その」

急に話が楓に向いたので、驚いて本郷の背中に隠れる。というより、ムッチリで楓のことだと思われるのは、本郷以外だとなんだか嫌だ。


「楓さんに近付かないでいただきたいですね」

本郷も楓をかばい、敵意をむき出しにする。そんな本郷の背中から、楓はそろりと顔を出した。

「その、巫女様ってなんですか?」

楓はとりあえず、気になることを尋ねてみた。

「石神様の神託を預かる巫女様、じゃないかぁ」

木崎は、楓が石の声が聞こえることを言っているのかもしれない。

 ――やっぱりこの人、気味悪い

楓は再び顔を引っ込めた。

「君ら、仲が悪いの?」

突然険悪な雰囲気になったことに、重森氏が戸惑う。

「ああ、仲が悪いというか、本郷の持ち物に執着されているようで」

莉奈が端的に説明していた。先生たちも、この場をどうすればいいのか困っているようだ。


「ねー、お宝発掘しないの?お札のついた箱探してみたいんだけど」

こう着状態に痺れを切らした寧々が、その場の空気をズバッと切り裂いた。

「そうね、お話があるのなら、後でゆっくりすればいいわ」

新井先生も口を挟むタイミングだと思ったのか、そんなことを言う。だが本郷は話などしたくもないだろう。

 だが、意外にも木崎が寧々の言葉にのってきた。

「おやぁ、お嬢さんは趣味がわかるね。そういう箱があったみたいだよぉ」

「ホント!?」

寧々はきらりと目を輝かせる。木崎が寧々によからぬことを教えてしまったようだ。

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