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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第五話 石守楓という女

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その9

楓はしばらく泣いて、ようやく涙が収まった。

「それであの、兄に謝罪の手紙を書こうかと、思います」

楓は本郷を見て、自分の決心を語った。

「それで楓さんの気が軽くなるのであれば、いいでしょうね」

本郷が同意してくれて、楓はホッとする。この件で一度判断を間違えているので、自分の行いが正しいという自信がなかったのだ。

「ただし、一つ問題があります」

「え?」

「そのままお兄さんが、まだこじらせていたら、という問題です」

「……?」

本郷の言わんとすることがわからない楓は、首を傾げる。

「あー……」

「まあ、有り得なくはないわね」

わかっていない楓以外、三人は神妙に頷いている。


 それから三人は対策会議を開き、結果として楓の現在の写真を送ることで合意した。

 それからすぐに撮影会が開かれた。

 ソファに座った楓は本郷に抱き寄せられて、密着している体勢である。

「はい笑顔でねー、巽もっとくっつけ、手をもっと上に、そう」

平井先生指示のもと、本郷が体勢を整える。

 ――先輩、手、手が胸に、あのお尻に……

『このまま押し倒してぇ』

副音声のそんな感想に、楓は本郷の手が当たる場所が、熱を持ったように熱く感じた。

「楓さん、どうかしました?」

もぞもぞとお尻をを動かす楓に、本郷が尋ねる。

「な、なんでもっ、ないです!」

今の楓は、絶対に顔が真っ赤だろう。

 動揺する楓だったが、無常にもそこでシャッターが切られた。

平井先生が撮ってくれた写真はパソコンですぐに現像される。

「よっし、手紙にこれを入れときな」

写真の裏には「私の恋人の巽さん」と新井先生指導の下で、できるだけ可愛らしい字で書いた。名前呼びがインパクトを強くするらしい。

「わかりました……?」

写真は一枚だけでなく、三枚現像されて、楓と本郷の手元に残された。

 その後、先生二人に見守られながら、勉強もちゃんとやった。



楓は本郷に神社まで送ってもらった。

 本郷と手を繋いでの帰り道、楓はずっと考えていた。

 ――あんな告白で、本当にいいの?

 あれでは本郷に流されたとされても、言い返せない。確かに流されていたのだが、それでも気持ちは嘘ではない。楓はそれをちゃんと伝えなければいけない気がした。

 黙ってやり過ごすのは、もう止めにするのだ。

「では、ここで」

いつものように階段前で、本郷が手を離す。しかしその手をもう一度、楓は握りなおした。


「楓さん?」

驚く本郷を、楓は真っ直ぐに見つめた。

「あの、私ちゃんと、本郷先輩のことが好き、だと思います」

自分の顔が赤いのは、きっと夕焼けのせいだ。楓は恥ずかしくて小さくなりそうになる声を、がんばって絞り出す。

「最初に襲われたのは、ショックだったけど。先輩はとても真剣に謝ってくれました。それに、私のことを、バカにせずに信じてくれました。私の問題を、一緒に考えてくれました」

楓は握った手に力を込めた。

「だから、本郷巽のことが、私は好きです」

ちゃんと目を見て言えた自分を、楓は褒めてあげたい。


 握った楓の手を、本郷が強く握り返してきた。

「あの、だから、私をもらってください!」

弱気にならないうちにと、楓は勢いで言い切った。がしかし、言ってしまった後で違和感に気付く。

 ――あれ、私なにか、言い間違えた?

 内心で首を傾げる楓の手を、本郷が引いた。その勢いで楓の身体が、本郷の身体に引き寄せられる。

「時間差攻撃とは、楓さんもやりますね」

本郷が楓を強く抱きしめた。

「それにとても大胆だ」

「えと、あの、その」

なにかがおかしいことはわかっているが、なにがおかしいのかがわからない。そんな内心大慌てな楓をよそに、本郷がゆっくりと楓の頬を撫でる。


「もらってくれと頼まれてしまったのですから。可及的速やかにもらってしまわねばなりませんね」

本郷は楓のあごに手を添えて、上を向かせる。

「あの、先輩?ちょっと近い……」

「まずは唇から」

楓は本郷に口付けられた。最初は軽く触れる程度、次に深い交わりを。

「……ん」

突然始まった息苦しい口付けに、楓は涙目になる。

 ――ねえ、キスなの、告白していきなり!?

 本日二度目のそれに、楓がうまく呼吸が出来ずに本郷の胸を叩くと、一旦唇を話してくれた。

「全力を挙げて、心はもちろん楓さんの身体全部もらいうけますよ?」

「全部、って」

意味ありげに本郷のもう片方の手が、楓の身体を撫でる。楓の身体が震えて、体温が上がっていく。


「楓さんの髪の毛一筋から、大切な場所の奥まで、全部です」

身体を撫でる手が下にだんだんと移動し、際どいところを掠める。

「や、あのちょっと、せんぱい、ぁう……」

 ――もらってくれって、え、そういうことになるの!?

 自分からエッチなお願いをしてしまった形になった楓は、恥ずかしくてたまらない。そんな楓に本郷は数度口付けを繰り返し、楓を追い上げてしまう。

 楓が本郷から与えられる行為に、ぼんやりとしてきた頃。本郷はようやく楓の身体を解放した。

「今日はここまでですね。神罰が下りそうですから」

唾液で濡れる楓の唇を、本郷が親指で拭う。楓は本郷にもたれかかるようにして、ようやく立っていた。酸欠で呼吸が苦しい。


 楓の息が整うまで、本郷は楓を抱きしめていた。

「楓さん一人で階段を、上がれそうにないですね」

「……はい」

本郷は苦笑すると、楓を抱きかかえて階段を上がってくれた。

 階段を上りきったところで、本郷が楓を降ろした。

「では楓さん、また明日」

「はい、また明日」

それからすぐに本郷にスケジュールを組まれ、楓はもらわれる計画がたてられることとなる。それはとてつもない、ハードなスケジュールであった。

 ――先輩のエッチぃ!

 予想よりも大幅に早く、大人になってしまった楓であった。

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